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怨情 2  作者: 勝目博
2/14

1章(1)

 美子はニュースを見て美大時代を思い出した。仲の良かった弘子。

美人なのにそんなことなどおくびにも出さなかった弘子。勉強も教えてくれた弘子。

美子はまた涙ぐみそうになった。弘子が死んだ後、美子はしばらく立ち直れなかった。

まさか親友が殺されるなど、思いもしなかったのである。

しかも、皆から好かれていたはずの弘子が殺されるなど、想像すらしなかった。

それから美子は勉強に集中した。悲しみを紛らわせるためにも、勉強だけを考えた。

お陰で今の美子があるのも事実だった。しばらくして、雄二の死と美奈子の死も知った。

このとき美子は何故か胸を撫で下ろしたのだ。そして『罰が当たった』と思った。

その事件で美子は弘子と決別できた。安らかに、と願いながら……。

その二人も、不思議な死に方をしたはずだった。そして今回も変死体だ。

美子は、弘子の怨念が生き続けているのではと思った。

弘子は自他共に認める、一途な性格だったからだ。

美子は誇りまみれの卒業名簿を引っ張り出した。

今では、あまり交友はなくなったが、自分と弘子の共通の友人がいた。里美だ。

三人は美大時代とても仲が良かった。

当時の写真は、ほとんどがこの三人の写真で埋め尽くされていた。

もちろん弘子が死んでしまうまでの話だが、いつも一緒だったのは事実だ。

しかし、弘子との死を境に、里美との間は離れていった。

どうしても二人でいると、弘子の話ばかりになるのだ。

それに耐えられなくなり、やがて里美とは挨拶程度の仲になってしまった。

里美は卒業後、実家に戻ったはずだ。そう思い名簿を引っ張り出したのだ。

まだ時間的にも迷惑のかかる時間ではない。美子は思い切って里美に電話した。

里美の母親だろうか、優しそうな女性が電話に出た。

美子は美大の同級生で、里美の友達だったと女性に告げると、

結局は実家に戻らず、東京で就職したと教えてくれた。

連絡先をメモに残し、美子は丁寧にお礼を言ってから電話を切った。

しかし、直ぐにはダイヤルできなかった。あれからかなりの時間がすぎている。

もし、誰かと一緒だったら?もし、疎遠になった自分を悪く思っていたら?

そんな考えが頭をよぎり、受話器を持ち上げることが出来なかった。

でも、何故かは分からないが、心の声は里美との深い関係は残っている、と告げていた。

美子は慎重にダイヤルを回した。どこにかけるのもそうだが、初めての番号には緊張する。

「はい、もしもし」

里美の声だ。美子には直ぐ分かった。

「もしもし、里美?」

「美子?」

たったそれだけの会話でも、里美も美子の声を忘れてはいなかった。

「うん。……実は……」

「美子も見たのね?」

里美の言うことは直ぐ理解できた。

「会える?」

美子は尋ねた。

「明日は土曜、私は休みよ。美子は?」

「私もお休み。じゃあ、明日?」

「いいわ、お昼前に私から連絡するわ。十一時頃。いい?美子の番号を教えて」

美子は自分の番号を教えた後、小さく呟いた。

「ごめんね」

「謝る事など何もないわ、明日ね」

里美はあの頃と少しも変わらない。

里美は三人の仲では、お姉さん役だった。一番背も高く、大人びていたのだ。

弘子は世間知らずのお嬢さんで、美子は泣き上戸のわがまま娘。

そんな二人をいつもカバーしたのが里美だった。何があってもあの絆は消えやしない。

電話の応対で美子にはそれが分かった。そして知らず知らずに美子は涙を流した。



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