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怨情 2  作者: 勝目博
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序章。消えぬ友情

美子は退屈な日々を過ごしていた。美術大学を卒業後、東京では有名な画廊に就職した。

芸術家の才能には恵まれなかったが、どうしてもその方面に進みたかった。

幸いなことに、作品の知識では誰にもひけを取らなかった。

誰の作品で、いつの時代、どこで制作され、被写体は誰だと、殆どの作品を言い当てられた。

その才能を高く評価され、今の画廊に就職したのだ。

美子は世界の画廊を飛び回り、作品の商談をする自分を夢見ていた。

ところが実際には、画廊の受付嬢に過ぎなかった。

決められた時間から時間まで、受付カウンターに座り、来客の案内をする。

これでは、作品の知識があっても生かせない。美子はそう思っていた。

美子は現代的な美人である。化粧美人なのだ。

スッピンになれば眉もなく、肌もかなり荒れているように見える。

元々は美人よりも、かわいい部類に入る。ところが美子は、かわいいと言われるが嫌だった。

子供の頃ならばともかく、大学を卒業してまで言われると、

馬鹿にされているように聞こえるのだ。

その為、わざと化粧を濃くし、大人びた雰囲気を出そうと、必死に模索していたのである。

その理由もあってか、入社後直ぐに受付嬢に任命されたのだ。

同僚などは羨ましがったが、美子は愛想がよければ誰でも出来る仕事、と馬鹿にしていた。

今日も、得意客の大手企業の重役が、絵の購入のために訪れた。

二ヶ月に最低でも一作品は購入するお得意さまだ。

本当ならば、美子が売り込みをしたいほどだった。

『この作品はお買い得です』とか『これは値段の割には価値が無い』などと。

時には、発掘した新人の作品なども売り込んで見たかった。

しかし、会社には会社の方針がある。

買い付けた作品は、どんな事をしても、高く売り込まなければならなかった。

それがたとえ駄作だと分かっていても。後は、デパートの購買担当に月刊誌の取材。

デパートはイベントの一つとして、良く利用していた。

有名画家や売出し中の新鋭作家の作品を、かなり大量に仕入れていく。

月刊誌の取材も頻繁に訪れた。

来社する雑誌社は多岐にわたる。純粋な美術雑誌からイベント情報誌。

社長のクローズアップの取材から、求人誌に至るまで、月の間に何社も訪れた。

午前には社長の奥さんが訪れ、午後は社長の愛人と噂のあるモデルが、

ブランド品で身を固め当たり前のように訪れた。良くある事だ。

結局は、変化に富んだ日々発見の仕事、とはかなりかけ離れていたのだ。

しかも、一日座り続けてお客はこれだけ・・。

玄関ホールには、監視カメラがある為、あくびも出来ない。

そんな毎日に、美子は苦痛さえ感じていた。しかし、時代は就職難。

同期の卒業生にも就職浪人が数多くいて、美子は半ば諦めていた。

今日も無駄な時間を過ごしたと、思いながら、美子は家路についた。

途中で一人きりの味気ない夕食をとり、疲れきってアパートにたどり着いた。

肉体的疲労ではない。精神的な疲労で、回復するにはかなりの時間がかかりそうだ。

美子はあまりテレビを見ない。美術雑誌を読み漁るほうが好きだった。

この前の休日に買った雑誌を広げ、ベッドに寝転んだ。

そこには、最近噂の新人画家の作品特集が掲載されていた。

アメリカ人の若手で、まだ二十七歳の金髪の美男子である。

抽象的な作品ではなく、写実的な絵だった。

動物や魚の絵が多く、ファンタジーさえ感じさせた。

美子はその画家と商談する自分を思い浮かべ、食事に誘われる場面まで思い描いた。

つい、声を出して笑いそうになった。しかし、美子は考えた。

もしも、会社がこの画家と契約し、彼が来日すれば、会える可能性があるのではと……。

また、笑いそうになった。まんざら受付嬢も悪くないかも、とまで思い始めた。

美子は慌てて鏡を覗いた。今から気にしてもしょうがないのだが、

想像してしまった以上、鏡を見ずにはいられなかった。

「まだ、落としてなかった」

鏡の美子はまだ化粧顔だった。

シャワーを浴び、丹念に化粧を落とし、ピンクのパジャマに着替えてベッドに戻った。

栄養クリームを顔に塗りながら、ふと、床に置かれた新聞に、

金髪画家に名があるのが目に入った。

テレビ番組欄に、ゲスト出演と書かれていたのだ。放映開始までまだ時間はあった。

ニュース番組だが、特集として組まれたようだ。美子はテレビの前に陣取った。

心はわくわくしている。そして、今か今かと待ちわびていたのだ。

番組が始まり、メインキャスターが今日の内容を話し始めた。

「本日は特別ゲストをお招きしております。取材に当たったニューヨークの柳さん、

そちらはどうですか?」

「はい、こちらはただいま昼ですが、ご覧のようにギャラリーの入場を待つ市民で一杯です。

これからも、人気の高さが伺えます」

「ありがとうございます。では、のちほどマイクをお渡しします。

この特集の模様は、九時二十分頃の予定です。その前に、国内のニュースをお送りします」

「もう、早くやってよ」

美子はテレビに小さなぬいぐるみを投げつけた。

しかし美子は、チャンスとばかりに台所に向かい、紅茶のティーバックを取り出した。

シャワーで喉が渇いていたのだ。お気に入りのマグカップに、なみなみとお湯を注ぎ、

こぼれないように静かにベッドまで持ってこようとした。

しかし、美子はカップを落としそうになった。溢れたお湯が足にかかったが、

美子は動じなかった。その理由はニュースにあった。見出しには

『女性の変死体見つかる』

と、書かれていた。そしてその変死体として発見された被害者は、

親友だった弘子を落としいれようとし、退学していったあの女だったからだ。


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