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異世界転生は成立しない

作者: kome

 彼はツイていなかった。


「ああくそっ、やってらんねぇ。弱すぎんだろ味方、やる気出せよクソが」


 冬生ふゆきはコアなPCゲーマーだ。

 今プレイしているのはFPSというジャンルのゲームで、敵と味方に別れて陣取り合戦をするルール。

 ランダムに決められる味方に恵まれず、抽選をやり直すために何度もログインを繰り返していたが、それでも今日は勝つことが出来ずにいた。


「はあ、ちょっと休憩。リログしてもっかいやり直そう」


 そう呟くと冬生は、部屋を出て一階にあるキッチンへ向う。飲み物でも取りに行くのだろう。

 しかし冬生がキッチンへたどり着くことはなかった。

 イライラしていた冬生は行動が大ざっぱになっており、階段で足を滑らせ転げ落ちてしまう。

 その時に運悪く頭を強打し、気を失ってしまったのである。


「痛っ、ここはどこだ?」


 冬生が強かにぶつけた後頭部をさすりながら目を開けると、一面真っ白な空間が広がっていた。


 「ここは、精神世界。物質世界の上位に位置する場所じゃ。お主にもわかりやすい言葉で表現するならば神の世界、いわゆる神界じゃ」


 説明を受けても唖然としている冬生。

 当然だろう。

 自宅にいたはずなのに、気がつけば知らない場所にいて、見ず知らずの老人が立っている。

 しかも、その老人は映画の中でしか見ないようなローブを着ていて、訳の分からない事をのたまっている。

 頭がおかしいのは自分か老人か。冬生はそう思っているに違いない。


「なんだ爺さん。どっから入ってきた? 神界だかなんだか知らねーが、介護施設に連絡してやっから電話番号か住所を教えな」


 どうやら頭のおかしいのは老人だと結論づけたようだ。

 ぶっきらぼうながらも、年上の老人に対して最低限とも言える礼儀を持って対応する。


「混乱するのも無理は無い。お主は階段から落ちて頭を打ったのだ。そうして精神が肉体を離れこの世界へやって来た。これがどういう事かわかるな?」

「いや、判らねぇよ」


「お主は不運にも死んでしまったのだよ。しかし、お主はまだ若い。そのような若さで魂を輪廻へ導くのはしのびないと思うてな。そこで、異世界でやり直す機会を与えてやろうと言うわけじゃ」

「神界だの輪廻だのって何者だよ爺さん」


 どうやら冬木は酔狂なことを述べる老人に付き合ってやることにしたらしい。

 まともな受け答えが出来るようには見えなかったから仕方なくといった感じだが。


「わしは、神じゃ。こうして神界に迷い込んだ魂を導くのが仕事じゃ」

「神ねぇ。その神様が死んだ俺に慈悲をくれるって?」


「左様。お主はゲームが好きなのだろう。そのゲームにそっくりな世界に生まれ変わらせてやろうではないか」

「ゲームの世界って例えばどんなのだ?」


「剣と魔法。スキルやステータスがあり、モンスターがおり、冒険者が活躍する世界じゃ」

「へぇ。典型的なRPGの世界ってやつか。でも、レベル上げとか面倒そうだな」


「お主が望むのであれば、最初から強力なスキルを授けてやることも出来るぞ」

「いわゆるチートってやつか?」


「そうじゃ。欲しい力を念じながらその穴に飛び込むと良い。そうすれば、次に目覚めた時はそのスキルを持って異世界で生誕することになる」


 白い床にマンホールのような孔が空く。

 覗き込むと宇宙ステーションの窓から地球を見下ろしているような光景が広がっている。

 その孔を覗きこみながら冬木は質問を続ける。


「記憶とかどうなんの?」

「当然、そのままじゃ。見知らぬ若い母親の授乳から、幼なじみの少女を自分ごのみに育て上げるのも訳ないぞ」


「エロジジイめ! 随分と生臭い神様だな!」

「神とはそういう者じゃ。お主の世界の神話にもそのような神が山程でてくるぞい」


 冬生は孔を覗き込んだまま、しばし考えを巡らせた。


「この孔に飛び込めばここから出られるんだな?」

「そうじゃな。そうとも言えるのう」


「またココに戻って来ることは出来るのか?」

「それは難しいの。ここは神界じゃ。意志を持ったまま再び訪れる機会は無いと思ったほうが良い」


 すくっと立ち上がる冬生。


「おお、覚悟を決めたか。欲しい能力を念じながら飛び込むのじゃぞ」


 老人に向き直り、その両肩に手をかける。

 そして、にこやかに笑いながらこう告げた。


「いや、俺は行かないよ。だって今ハマってんのはFPSだし。RPGも嫌いじゃないけど、他のゲームできなくなるのは辛いからね」


 そう言って老人を孔の中に放り込んだ。

 悲鳴のような雄叫びをあげながら落ちていく彼。

 ホント、彼はツイてなかった。






 こうして、彼の予想外の冒険が始まった。

 冬生君はこのあと無事に気絶から目覚め、何事もなかったかのようにゲーム漬けの日々を送ったという。


 おしまい。


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