寄り道。
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「失礼しました。」
渚が帰った後、私は保健室を戸締りして、鍵を返した。
「あれっ…竜也?」
職員室を出ると、廊下に彼はいた。
「帰ろうぜ。」
竜也はいつものテンションで言った。
…きっと待っててくれたんだ。
「うん、帰ろう。」
…ありがとね。
「涛生…此処……」
竜也の足が止まった。
「女の子が落ちた所だ……。」
駐輪場に行くには、此処を通らなければならなかった。
運動場には黄色いテープが張っていて、それ以上中には入れない。
少し足が止まってしまったけど、駐輪場に向かった。
「涛生ィー、竜也ァー。」
学校を出た時、後ろからベルを鳴らして奏太が現れた。
3人一緒に下校した。
…犯人はまだ捕まっていない。
…近くに潜んでいるかもしれない。
…学校であんな事が起きたばかりだし…
…極力独りにはなりたくなかった。
…竜也や奏太もそうだったのかな?
「ほんじゃオレは此処で。」
ファーストフード店の前で奏太は自転車を止めた。
「家に帰んないの?」
私は尋ねた。
「今日の夕方からバイト入っててさ、家に帰るのん面倒なんだよねー。」
…奏太ん家は此処からまだ電車に乗らないといけなかったんだ。
「仕事熱心だなぁ〜。」
…竜也が言った。
「自分で希望したシフトだからな、頑張らねーと♪」
…偉いなぁ。
「帰りは気ぃ付けてね~!」
「ほんじゃーまた明日♪」
「おう!」
…奏太と別れた。
「じゃあな!」
「うん、じゃあね!」
私の家の近く…いつもの場所で竜也と別れた。
「ただいま~。」
…家に入っても静かな訳で。
…冷蔵庫は空っぽ。
「……お腹すいたな。」
私は再び出かけた。
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「ん?…涛生!」
コンビニに自転車を止めたら声がして。
「…孝明さん?」
…一瞬気付かなかった。
髪型が少し違ったから。
「今日はバイト休みですか?」
「ああ、久しぶりの休暇だ。」
袋の中には、大量のつまみと缶ビールが入っていた。
「俺ん家すぐそこなんだけど、寄ってく?」
「ほんじゃ折角だし…おじゃまします♪」
コンビニから5分も歩かない場所に、孝明さんの家があった。
小さなアパートの2階だった。
「さぁどうぞ、全然片付いてないけど(笑)」
「おじゃましま〜す…。」
男の1人暮らしってカンジの部屋…。
部屋の隅には読み古された漫画や雑誌が積み上げられていた。
灰皿には大量のタバコ。
…ヘビースモーカーだったんだ。
「飲むか?」
孝明さんがビールを渡した。
「飲めません!」
…未成年です。
「…冗談(笑)。オレンジジュースでいいか?」
「はい!」
孝明さんが用意してくれてる間、私はカバンを置いてくつろいだ。
…ふと、パソコンの画面が目に入った。
「……孝梨志穂だ……。」
【孝梨 志穂】…ネット上で小説を書いている作家だ。
私はこの人の書く小説が大好きで、時間があればインターネットカフェに立ち寄って閲覧していた。
…とある建物で突如起こった変死事件。
犯人は証拠を残さず、捜査は難航。
そんな時、犯人の目撃者が現れた。
若い女だ。
犯人は大柄な男だと彼女は言った。
事件発覚までに建物から外に出た者は2人。
1人は長身で細身の男。
1人はで小柄で小太りな男。
建物内にいた者の中で、目撃者の犯人像に近い、中背でマッチョな男が1人。
それぞれが証言をする。
きっとこの中の誰かが嘘をついているんだ…………
「ジュースお待たせ!」
「…あっ……‼」
私は慌ててパソコンから離れた。
「スイマセン(汗;)勝手に触って……。」
「いいよ、気にしないで♪」
孝明さんは笑顔で私の隣に座った。
「俺もこの人の小説…好きなんだわ。」
此処に同じ趣味の人がいた。
孝明さんは…少し酔ってるのかなあ。
穏やかな笑顔でマウスを持った。
「面白いですよね、毎回続きが楽しみで♪」
…この人の小説は、ダークファンタジーやミステリー。
私は物語に引き込まれ、時間があればネットカフェに立ち寄っていた。
そのおかげで孝明さんとも仲良くなれたんだけど。
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「今日はありがとうございました‼」
…結構長い事おじゃましちゃった。
だって、孝明さんと話し出したら止まらないんだもん。
「またいつでも遊びに来いよ♪」
「はい♪」
同じ趣味の話が出来る事は嬉しかった。
もしかしたら、私よりも孝梨志穂のファンなのかもしれない。
「おじゃましました、失礼します♪」
靴を履いて外に出た。
「遅くなっちゃったな、送って行こうか?」
孝明さんが原付きの鍵を握った。
「あ、大丈夫ですよ!」
私は自転車だし、孝明さんはビール飲んでるし。
…それに…
夜道は結構好きなんだ。
「そうか、気をつけて帰れよ。」
…私は自転車に乗った。
孝明さんは建物の外まで出て見送ってくれた。
…すっかり暗くなっていた。
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