波乱。
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「やべぇ〜、遅刻かも‼」
竜也は必死に自転車をこいだ。
「急げっ!急げっ!」
後ろに乗ってる私は竜也を煽る。
「コラァー‼‼そこの生徒、2人乗りをするんじゃないーっ‼‼」
「…っひっ⁈‼」
その怒鳴り声に私は振り向いた。
「はっはーん♪ビビったか?(笑)」
「何だ奏太か。」
有意義に自転車で現れたソイツにガッカリ(笑)
「生活指導のモノマネ、結構似てただろー?」
ヘラヘラと、どや顔をする奏太。
「ぜんっぜん似てない!」
声が大きかっただけ。
「竜也〜早く!」
自転車を降りた私は急かした。
「はいよ(汗)」
竜也は自転車に鍵をかけた。
「あと1分だぞー。」
先に自転車を止めた奏太がニヤけてほざく。
キーンコーンカーンコーン…
…何とか3人揃ってグラウンドに滑り込んだ。
「腹がいてぇ……」
さっき全力疾走した竜也がヘタれた。
「朝から食べ過ぎなんだよ!」
私は笑いながらツッコむ。
「竜也ちゃん、吐いちゃダメよーダメダメ(笑)」
奏太が小ボケをかます。
いつも大体こんなノリ。
「ふふっ♪」
少し前の列に並ぶ渚がクラスメイトに紛れてクスクス笑ってた。
「まっ、3バカだからね(笑)」
…あ、自分で言っちゃった。
「えっ⁈オレも入ってんのかよー‼︎」
さっきまで竜也をイジッていた奏太が巻き込まれて急に焦る。
「当然だろ〜、お前が一番アホなんだから♪」
竜也が奏太の肩に手を置いて言った。
「いやいやいや、一番バカはお前だよアホ‼」
奏太が竜也の手を振り払ってニヤリ。
「はい、目くそ鼻くそ〜‼」
間に入ってレフリーの真似事。
「はーい、お前ら…そこまでな。」
背後に担任…。
「「「ぅげっ…‼‼」」」
3人同時に固まった。
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「ふぁ〜あ……」
大きな欠伸が出た。
…校長の話、長っ!
…あれから結構時間が経つ。
…校長よ、いつまで喋る?
…私はふいに時計を見上げた。
「…ん?」
…屋上に何かいる?
「涛生…どした?」
竜也が尋ねる。
「あれ……何かなぁ…?」
私は屋上を指差した。
「何だろ?…よく見えん。」
竜也がしかめた顔で言った。
「…あれは……人じゃないか?」
今度は視力が良い奏太が言った。
「そんなまさか…‼」
私は驚いて声が大きくなる。
「涛生ちゃん‼…後ろ……‼‼」
渚が何か言っている。
「何?渚…どうしたの?…ってセンセ……‼」
…後ろに立ってました(2回目)。
「ねぇセンセ、あれ…何だろうね?」
咄嗟に屋上を指差した。
…何か急に周りが騒がしくなった。
「ひっ…人だっ‼…人が落ちて来るぞ‼‼‼」
誰かが大声で言った。
こうなってしまったら辺りはパニック状態だ。
…そして…
…日常は壊れた。
…最悪な形で…。
「キャアアアアッ‼‼」
「いやぁぁぁぁっ‼‼」
「うわぁぁぁぁっ‼‼」
…ドン…と鈍い落下音…
…直後に複数の悲鳴や奇声が響いて…
…異常な光景…
屋上から落ちて来たのは少女だった。
…彼女の周りに血が広がる。
…側に仮面が落ちていた。
「…ペルソナ事件だ…………。」
私は呆然としながら、そうつぶやいていた。
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…ケータイで救急車を呼ぶ先生…。
…生徒達を教室に誘導する先生…。
…そんな中、こんな声が聞こえた。
「うっ…うちのクラスの生徒です‼‼」
…そんな…
…ペルソナ事件が学校で起きた。
しかも、この学校の生徒だと言う。
「…涛生…俺らも教室に戻ろう…。」
竜也が私の背中を押した。
「…うん…………。」
…声が震えていた…。
…心臓が口から出そうな位…バクバクしていた。
…身体は正直だ。
…恐いんだ。
「…ん…?」
…流れる生徒の波の中、うずくまってる渚を見つけた。
「渚…‼」
すぐに駆け寄った。
「大丈夫か⁉」
竜也達も駆けつけた。
「おい…真っ青じゃねーか…。」
渚の顔を見た奏太は驚いた。
「保健室だ。奏太、そっち頼む‼」
竜也が言った。
「了解。」
2人は渚を担いだ。
「保健室開けて来る‼」
私は走った。
…気分が悪くなった生徒は複数いた。
教室に戻った生徒達は、先生の説明の後、自宅に戻るよう指示された。
教室では、家族に連絡している子が沢山いた。
学校近くの道路は渋滞…。
…教室の窓からグラウンドを見ると、パトカーが数台止まっていた。
…警察の人達が少女が落ちた場所に集まる。
…後でニュースを見たけど、搬送先の病院で少女は亡くなったそうだ。
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「気分はどう?」
教室を出た私は保健室に寄った。
「……うん……少し落ち着いたよ。」
ベッドに寝ていた渚は、起き上がって笑顔で返した。
…少し落ち着いた…
渚はそう言ったけど、顔色はあまり良くない。
他の子はもう帰ったのだろうか。
保健室には渚しかいなかった。
「水瀬くん達はいいの?」
「アイツラは大丈夫だよ。」
…渚が1人でいる方が心配。
「迎えの人、まだ来ないの?」
「…うん…道が渋滞してるって…。」
「そっか…。」
「…お茶でも、飲む…?」
机に置いてあったティーパックの緑茶を作った。
「ありがとう…。」
「はいどうぞ、熱いよ。」
1つを渚に渡して、私もゆっくり一口飲んだ。
「……ふぅ。」
「……っ……ゴホッ‼‼」
「あ…」
私は咄嗟にハンカチを出した。
「ごめ…………」
咽せた渚は、目に涙を溜めて苦しそう…。
「ごめんね……せっかく…作ってくれたのに……」
…咳が落ち着かないまま渚が言った。
…声が震えていた。
「そんな事より、ヤケドしてない?」
「うん…」
…こんなに辛そうな渚を見たのは初めてだった。
…思い出したくない今朝の出来事…
…思い返すと、渚はあの時…
…ハッキリと見てしまったんじゃないだろうか…
…視界に入ってしまったんじゃないだろうか…
…それで…
…恐くて…
…気持ち悪くて…
…悲しくて…
…混乱してる…。
…渚の迎えが来るまで、私は一緒にそこにいた。
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