脱出。
□■□■□■□■□□■□■□■□■□□■□■□■□■□
「涛生‼︎‼︎」
…竜也が門を激しく揺する。
「誰かいないのか⁈」
…奏太もインターホンを何度も鳴らす。
…ちょうどその時、車が止まった。
「竜也くん、奏太くん‼︎」
後部座席の窓から渚が顔を出した。
「渚っ‼︎家に入れてくれ‼︎」
「…竜也くん…突然どうしたの?」
「涛生が大変なんだよ‼︎」
「…涛生ちゃんに何かあったの⁉︎」
「涛生が……」
竜也が言い終わる前に…
「渚様は先ほど退院されたばかりなので安静にしていないと。どうかお引き取り下さい。」
…三條さんはそう言って車を出した。
「三條さん…彼らを入れてあげて。…友達なんだ。」
「いけませんよ、渚様。怪我が軽かったとはいえ、今日は安静にしていないと。」
…三條さんは顔色ひとつ変えずに、自宅の敷地に車を止めた。
「どうぞ。」
三條さんは後部座席のドアを開けた。
「…どうしたの?…今日の三條さん…様子が変だよ?」
車から降りた渚は心配そうな顔をする。
「申し訳ありません……色々気が立ってて……」
…2人は家の中に。
「……ごめん……僕が心配をかけてしまったんだね……。」
「いえ…渚様のせいでは……」
「今日は家で安静にするから、三條さんも少し休んでよ。」
「そんな訳には……」
「……もう10年でしょ……三條さんが此処に来て。」
…渚は続けた。
「三條さんは1日も休まずに、僕の身の周りの世話をしてくれた。
小さい時はよく遊んでくれたし、勉強も教えてくれた。
僕にとっては家族みたいな人…。
…本当の家族より感謝してるんだ。」
「…渚様…………。」
「…三條さん?…やだなぁ…泣かないでよ…」
「…どうしてこんな事を…………
…………私は…………渚様に
…………取り返しのつかない事を…………。」
「…え…?」
…膝をついた三條さん…。
…驚く渚…。
「渚‼︎…三條さんから離れて‼︎」
「…涛生ちゃん⁈」
□■□■□■□■□□■□■□■□■□□■□■□■□■□
…竜也と奏太が渚ん家に着いた頃、私は黒い仮面に触れ、これまでの惨劇を見ていた。
…彼女達が苦しむ姿…
…目を閉じても頭の中から離れなかった。
……心が……
……壊れてしまいそう……
「…涛生…。」
…声が聞こえた。
「…涛生‼︎」
…この声は…
…まさか…
「…きょう……や…………?」
…夢?
…夢…じゃない…。
…彼のあったかい手がそこにあった。
…もう会えないと思ってた。
「…涛生…大丈夫か…。」
…彼は縛られた縄を切ってくれた。
「…うん…………。」
…身体が自由になった。
…彼は生きていた。
…じゃあ、あの写真は…………
…記憶を辿る。
…あれは狂也じゃない‼︎
…今、私の前にいる狂也は、昨日会った時のまま。
…でもあの写真は…
…狂也のフリをした人物。
…似た背格好。
…似た服装。
…似た仮面。
…でも、服が綺麗だったんだ。
…あの時、画像メールじゃなかった理由…。
…私のケータイに残さない為。
…あの写真を見てすぐに私は襲われた。
…恐らく…
…あの写真はもう回収されている。
「狂也…。」
…振り返ると彼はいなかった。
「…ありがとう…狂也…。」
□■□■□■□■□□■□■□■□■□□■□■□■□■□
…竜也と奏太はどうなっただろう?
「もしもし?」
「涛生‼︎大丈夫か⁉︎」
「竜也…。大丈夫、縄も取れた。」
「良かった…けど、さっき渚と運転手が家の中に入った。渚と話そうとしたけど、運転手に遮られた。」
「…わかった。」
…三條さんは渚と家の中に。
…今日、退院した渚を病院まで迎えに行った三條さん…。
…30分は戻って来ないと思ってた。
…どういう事だろう?
…早過ぎないか?
…とにかく…
…渚を探さなきゃ‼︎
「竜也、変われ…。涛生…もうすぐ警察が来るから…絶対諦めるな‼︎」
「うん…ありがとう、奏太。」
…諦めないよ。
…もう誰も傷付いて欲しくないから。
…足音を立てずに階段を降りる。
…いた‼︎
…渚と三條さん。
…渚の声が聞こえる。
…ゆっくり近付いて、少し様子を伺う。
「…渚様…………。」
「…三條さん?…やだなぁ…泣かないでよ…」
「…どうしてこんな事を…………
…………私は…………渚様に
…………取り返しのつかない事を…………。」
「…え…?」
…膝をついた三條さん…。
…驚く渚…。
…私は飛び出した。
「渚‼︎…三條さんから離れて‼︎」
「…涛生ちゃん⁈……どうして此処に?」
…状況が飲み込めない渚。
「…三條さん…?…どういう事なの?」
…三條さんを見つめる渚。
…彼は目をそらした。
…思い詰めたその顔を見ると、私は渚の前で真実を言えなかった。
…だから咄嗟に…
「…こっち‼︎」
…渚の手を引いて走った。
…三條さんは追って来ない。
…ただ、その場にうずくまっていた。
□■□■□■□■□□■□■□■□■□□■□■□■□■□