幻聴。
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…これは?
…机の上に仮面があった。
…狂也のとは違う黒い仮面。
…この仮面なら…闇に投じて…
…奏太が昨日言ってた、『暗かったけど仮面』の辻褄も、この仮面なら…。
…奏太が見たのは狂也じゃなかったんだ。
…私は仮面に触れた。
「…えっ……………………」
……これは……
……誰かの意識……?
『邪魔だ、どきな!』
『何で言う事聞かないんだい!』
『このお荷物がっ!』
…若い女が小さな子供に向かって暴言を吐く。
…時には手が出る。
…子供は、どんなにいい子にしても報われず、いつも酷い目に合う…。
…子供の楽しみは、女がいない時にこっそりクローゼットに忍び込む事。
…そこにある綺麗なドレスに憧れる。
…やがて子供は成長し、大人になった。
…綺麗なドレスは似合わない、大人の男。
…彼には秘密があった。
…秘密の部屋には、可愛い女の子と綺麗なドレス…。
…それは人形…
…彼は、恋人の女性を部屋に招き、彼女の為にドレスをプレゼントする。
…しかし、女性は拒否する。
…彼女の為にプレゼントしたドレスを着せる事は、彼の自己満足。
…彼の夢は叶わない。
…彼は仕事を転々としながら、ある日、この家にやって来た。
…手にはベビーシッター募集の求人。
…男性は募集していない…と断られ、彼は家を後にする…。
…そこに、ボールが転がって来た。
…ボールを拾うと、小さな子供が此方を見ていた。
『あそぼ!』
子供は彼に笑顔を向けた。
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…ベビーシッターは不採用になった彼だが、当家の子供に懐かれて、急遽この家の運転手として働く事になった。
…10数年が経過して…
…彼はこの家で幸せに暮らしていた。
…果たしてそうかな?
…彼の心の中に、ある欲求が芽生えていた。
…彼は必死にそれを隠し、日常を過ごしていた。
…だがある日…
…その欲求が爆発する。
…その日、彼は屋根裏の片付けを任されていた。
…使わない物や要らない物が無造作に置いてある物置。
…ゴミを仕分ける。
…そこにさっき捨てた筈の物が…
…それは、何度捨てても戻って来る。
…不気味な笑みを浮かべた仮面…
…彼はそれを手に取った。
…すると、彼の頭の中に声がした。
『君はずーっと仮面をしてるね。』
『してない?…嘘だ。だって…君はいつも本心を隠しているじゃないか。』
『君の本当の欲求を知ってるよ。』
『そう邪険にしないでよ。』
『俺?…俺は…君に切り離された心だ。』
『昔、君に拒否された俺だ。』
『わかる?』
『俺を受け入れてくれたら、君の心は楽になる。』
『…そう。なら仕方ない。俺は俺で勝手にやらせてもらうよ。』
…彼は頭の中の声に言った。
『お前は俺じゃない』
…と。
…数日後…
…この屋根裏で、少女が1人…
…死んでいた…。
『…だっ…誰が…こんな…………』
『君が殺したんだ……いや、俺が殺した。』
『…俺が…殺した……?』
『……ぃ……ゃ……………………たす……け…………………………………………』
…それは彼の頭の中に映された。
…首を絞められて、もがき苦しむ少女の姿。
彼女は必死に抵抗し、男の手袋を引っ掻いた。
…彼の手の甲にもまた…
引っ掻き傷があった。
『…何処へ行く?』
『警察に…』
『君がいなくなったら渚くんはどうなるのかな?』
『君が人殺しだと知れたら渚くんの人生はどうなるのかな?』
『此処にあるのは君が欲しかった人形じゃないか。』
『綺麗なドレスを着せてあげなよ。』
『……………………。』
…こうして彼は人殺しになった。
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