疑心暗鬼。
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「あ、竜也…渚と話せた?」
待合室で待ってたら竜也が来た。
「ああ。」
竜也はポケットから自転車の鍵を出した。
「家まで送ってくわ。」
「うん!」
…病室に入って来た時から、何か様子がおかしいと思ってた。
その理由が判明したのは、私の家に近付いた頃。
…道中、ずっと黙ってた竜也が、自転車を止めて口を開いた。
「…なぁ涛生…。」
「…ん?」
「…お前さ…………」
…竜也が突然、私の肩を掴んだ。
「…痛い…………竜也?」
…彼は不安そうな顔で、真っ直ぐ私を見ていた。
…そして、言った。
「…お前…犯人…匿ったりしてねぇよな?」
「…えっ……⁈」
…一瞬、身体が硬直した。
「…何で…そんな事…聞くの?」
…そう尋ねた私の声は震えていた。
…狂也の事が頭を過ぎった。
「また画像メールが来た。」
竜也はそう言って、ケータイを出した。
「…これは…………」
…あの廃墟で…
狂也と一緒にいた時の…
「……涛生……俺……恐いんだよ……。」
竜也がまた、私の肩を掴んだ。
…さっきより強く…。
「……竜也……痛い…………」
「……お前が…突然…いなく…なるんじゃ…ないかっ…て…………」
…強く抱きしめる…
「……ずっと……不安…なんだよ……。」
…声が震えている。
…荒れた息。
…熱くなっていく身体。
…泣いていた。
…彼は『ずっと』って言った。
…いつからなんだろう…?
…ずっと溜まってた不安が、爆発した様。
…今までこんな彼を見た事がなかった。
「竜也…ごめんね。」
…私が言った後、彼の力が少し抜けた。
「…私は…今まで勝手な事をしてたね…。」
…顔を上げた時、竜也の顔は涙で濡れていた…。
「…俺の方こそ…急に…ごめん。」
竜也はそう言って、私から離れた。
「私は犯人を匿っていないよ。」
…これは嘘じゃない。
…狂也は犯人じゃないから。
…都合がいいかもしれないけど…。
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「送ってくれてありがと。」
私は家の前で自転車を降りた。
「さっきは悪かった……困らせて。」
私は首を降った。
「変なメールが来て、不安になったんだよね。」
渚の一件があったから、気持ちはわかる。
…私は続けた。
「心配してくれてありがとう。」
竜也の顔が赤くなった。
「渚と約束したからな。」
「約束…?」
「渚が退院するまでは…俺が涛生を…………」
「……?」
…言いかけてやめた。
「…じゃっ…じゃあな、帰るわ。」
「えっ……?」
凄い速さで走り去った。
「……何が言いたかったんだろう……?」
…これで気付かない私も相当鈍い。
「はい、そこのおバカさーん♪」
パシャ
「コラッ!勝手に撮るな‼」
…声の方を振り返ると奏太がいた。
「…つか、何でいるの?」
私はツッコミながら尋ねた。
「生存確認。」
ニヤ〜っとして言う。
「だ〜か〜ら、私が死ぬ訳ないでしょ!」
「…と言うのは冗談で。怪しい男を見かけて、追っかけて来たんだけど…この辺で見失っちまった。」
「…怪しい男?」
「ああ。暗かったからハッキリ見た訳じゃないんだけど……あの顔は仮面っぽかった。」
「…仮面⁈」
「…まだこの辺にいるかもしれない。」
奏太がケータイのライトで辺りを照らした。
…仮面の男。
…狂也なのか…
…それとも…
「とりあえず涛生は家に入ったら戸締りをしろ!」
「うん。」
「オレはもうチョット探してみる。」
奏太が自転車に乗った。
「あんまり深追いしない方が…。」
…渚の一件があったばかりだ。
「オレが女に見えるかい?」
…何だ、このドヤ顔…
「そういう問題じゃ……。」
「心配すんな♪…仮面ヤローを涛生ん家に近付けないだけだ。」
「奏太待って…………」
…行ってしまった。
…渚が襲われたのは女の子に間違えられたから…
…あの言動からして、奏太はそう思ってる。
…渚に届いたあの画像が罠だとしたら…
…私にはピンポイントで渚が狙われた様にしか思えない。
…だから竜也や奏太にだって、そういう事が起こる可能性が有り得る。
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「…ん?」
家に入ろうとした時、私はそれに気付いた。
「…狂…也…?」
…奏太に見つからなかった事が奇跡だ。
…彼は物陰に隠れていた。
「……な……み…………」
…彼は私に寄りかかった。
「狂也…どうしたの⁈」
…意識がもうろうとしている様だった。
…とにかく家の中へ。
…電気を付けた時、私は言葉を失った。
「狂也…その傷…………」
服が裂け、切り傷があった。
…救急車…
咄嗟にケータイを取った。
…彼は私の手を止めた。
「でも…このままじゃ……」
彼は私の手を握ったまま、首を横に振った。
…私に出来る事といえば、傷の手当てぐらいだった。
…腕や手の平…
…胸やお腹に…
…まるで、刃物を持った誰かと争ったみたいだった。
…誰がこんな酷い事を…
「…涛生…」
彼の手が私の頬に触れた。
「…あ…。」
また…涙が……。
「…だめだよ…包帯が濡れちゃう…。」
それでも彼は私を離さなかった。
…本当は心地良かった。
…あの廃墟の時みたいに。
…あの廃墟…
…竜也に送られた画像…
「…………そうか。」
…我に返った。
「誰かに隠し撮りされたんだ。」
…奏太や渚に送られた画像もそうだとしたら…
…犯人は少なくともあの時から私や狂也を見てる事になる。
…私と狂也が会ったのは、こないだの雨の夜。
…彼は一度消え…
…私が車に跳ねられそうになったのを助けてくれた。
…その時の写真が奏太に送られた。
…その翌日の朝方、渚が襲われた。
…渚の元にも奏太と同じ画像が…
…恐らく、同じ画像が竜也にも。
…その夜には、また竜也の元に廃墟の画像が…
…竜也に家に送ってもらった後…
…奏太が現れて…
…仮面の男を探して消えた。
…彼は言ってた。
『暗かった』
…けど…
『仮面』
…ライトを持っていたのに…
…暗かった…
…奏太が去った後…
…傷だらけの狂也…
…まさか…
「…狂也…誰にやられたの?」
…自分で尋ねておいて、心臓が爆発しそうだった。
…彼は下を向いて首を横に振った。
…誰なのかわからないの?
…もし、闇に投じて狂也を襲えば…
…更に顔を隠すとかして変装していたら…
…誰かなんてわからない。
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