傷跡。
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…警察署を出たら日没だった。
…孝明さんと電車に乗り、私は寄る所があると途中で降りた。
…病院。
…今朝、渚が搬送された病院だ。
「渚!聞きたい事が…………⁉︎」
…勢いよく扉を開けてしまった。
「……なっ……涛生ちゃん⁉︎」
…驚いた顔の渚。
その顔は赤くなっていく…。
「ごっ…ゴメンっっ‼︎」
…着替え中だった。
「いいよ、ちょっとびっくりしたけど。」
渚は顔を赤くしながら平然を装った。
「それで…どうしたの?」
…聞きたい事があったんだけど…吹っ飛んでしまった。
…それくらいショックだったのかもしれない。
…渚の身体には事件の傷跡が生々しく残っていた。
…木に縛り付けられた時についた縄の跡…
…それが、首や身体に…
「涛生ちゃん…?」
渚が顔を覗かせた。
「……ひどいよ……こんな事……」
…むごい…。
…犯人のしている事は、えげつない。
…どんなに痛かっただろう…
…苦しかっただろう…
「…涛生ちゃん……」
渚の手が私の背中に……
…ひんやりした手…
…渚は私を抱きしめた。
「…僕はもう大丈夫だよ……だから、泣かないで……。」
…どうしようもなく…涙が止まらなかった。
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「…少し落ち着いた…?」
「……ぅ…ん……。」
…あれから数十分…
私が落ち着くまで渚はそばにいてくれた。
「…驚かせちゃったよね……この傷跡…」
私は首を振った。
そもそも私が勝手に部屋に入ったんだ。
「……僕も自分で見て…びっくりした…。」
渚は袖をまくった。
しばらく自身の傷跡を眺めて言った。
「…襲われたのは、僕なんだね…。」
…渚はまるで、自分が襲われた事が信じられないみたいな感じだった。
…今朝の渚の言葉が頭をよぎった。
…それを思い出しながら、私は尋ねた。
「……渚は……誰が襲われたと思ったの?」
…渚はケータイを出した。
メールを開いて、画像を出した。
「昨日の夜中に…これが……。」
……やっぱり。
…予想通りだった。
…それは、奏太の所に送られたメールの画像と同じだった。
…奏太のメールは画像だけだったけど、渚が受け取ったメールには続きがあった。
…スクロールすると…
…地図が添付されていた。
…私が仮面の男に拐われたと思った渚は、私を助けようとして、地図の場所に向かった…。
「そこに行くと、誰もいなくて……。」
…その後、渚が捕まった…。
…今朝、渚が見つかった時に彼が私に言った言葉…
『涛生ちゃん…よかった…。』
途切れ途切れだけど、確かにそう言った。
あれは、私が無事だったから安心したんだね…。
…自分の事より私の事を…………
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「そういえば…涛生ちゃん、何か用事があって来たんだよね?」
ふと思い出したかのように渚が言った。
「そう…だったね……。」
渚に聞きたい事があった。
でも、あの身体を見て…言いにくくなった。
…渚の身体…
…犯人が捕まえた渚を着替えさせたのなら、当然女ではないと気付く筈。
…それでも犯人は、今までの被害者達のように装飾し、顔に仮面を着けた。
…違う事は、渚が男だった事と、生きていた事。
「涛生ちゃん…事件の事を聞きたいの?」
渚が察したように言った。
「……最初は……そうだった。」
…最初は犯人は誰だろうとか、事件そのものに興味があった。
…でも、渚が巻き込まれて…
…孝明さんの妹が被害者だってわかって…
…週刊誌を見て騒いでた時の自分が馬鹿みたいだった。
「今はね…チョット違う。」
…今は…
…誰も死んでほしくない。
「…私は…渚に生きててほしい。だからもう、1人で無茶はしないで……。」
……自分の事を棚に上げてるのはわかってる。
…あのメールを見た時、私も…いてもたってもいられなくなったから…。
…渚がどんな気持ちで家を飛び出したかわかるんだ。
「…うん。」
…渚は深く頷いた。
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「…ん?」
…電話が鳴っていた。
「もしもし…。」
…電話は竜也だった。
「今、病院。…うん、渚も一緒だよ。」
…少し話して電話を切った。
「竜也も来るって。」
「そっか〜、良かった。」
内容を伝えると、渚は笑顔になった。
「……?」
渚のこの言葉の意味がわかったのは、もう少し後なんだ。
「失礼します。」
三條さんが入って来た。
「あ、こんばんは。」
「こんばんは、涛生さん。」
三條さんは荷物を置いて広げた。
そこから箱を1つ出して、渚に渡した。
「渚様、これを。」
「わぁ〜ありがとう!」
渚は箱から眼鏡を取り出した。
…襲われた時に失くなったんだね。
「よくお似合いですよ。」
「ふふっ♪」
…2人が微笑ましかった。
「そうそう…検査の結果、何処にも異常が無かったので、明日には退院していいそうです。」
「ホント?良かった〜!」
「良かったね、渚♪」
「うん!」
「こんばんは〜。」
竜也が病室に入って来た。
「お、早かったね。」
「渚に聞きたい事があって…」
…相当飛ばして来たのか、息が上がってた。
「涛生…何か飲みもん買って来てくれよ。」
…渚と2人で話したい…そう察した。
「わかった。」
「1階に売店がありましたよ。」
三條さんと部屋を出た。
…2人は何を話してたのかな?
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