羽根。
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…廃墟を出ると、西日が射していた。
私は最寄りの駅に向かった。
ネットカフェにチョット行って、帰りに自転車を買おうと思っていた。
「……あれ?」
駅に着いて……。
向かいのホームにいる人を二度見した。
…孝明さんだ。
何だかいつもと様子が違ったので、声を掛ける事が出来なかった。
…それが凄く気になって…
…私は向かいのホームに走った。
孝明さんと同じ電車の違う車両に乗り込み、同じ駅で降りた。
…何処に行くんだろう…?
…私はこっそり追いかけた。
…花屋?
…色とりどりの綺麗な花。
…それを抱きしめて少し歩いた所で、彼の足は止まった。
…そこには花束やぬいぐるみが置いてあった。
…しばらく立ち尽くしていた彼は、突然口を開いた。
「涛生……いるんだろ?」
…バレていた。
「…あの…………」
勝手に後をつけた事、謝ろうと思った。
「涛生…そんな顔するなよ…。」
孝明さんは怒っていなかった。
…寧ろ…
…悲しそう…
「孝明さん……?」
「……天祢 梨子……妹なんだ。」
…孝明さんはタバコに火をつけた。
一吸いして、タバコと花を置いた。
…彼は静かに手を合わせた。
…天祢 梨子…
私はその名前を知っていた。
例の連続殺人事件の最初の被害者。
…そして此処で遺体で見つかった。
…孝明さんの妹だったんだ。
…孝明さんの話では、幼い頃、両親が離婚して別々に引き取られた。
名字が違うのはその為だ。
「本当の事言うと、お前に妹を重ねてた……。」
「……えっ?」
「…こんな事言ったら、涛生は嫌かもしれないけど……ほっとけなくて可愛くって……そんな所が何処となく似てた……。」
…孝明さんはタバコをくわえた。
「…何か気持ち悪い事言ってゴメンな!」
急に明るくなった。
…その笑顔は涙を堪えたように見えた。
「気持ち悪くなんかない。」
…あなたはとても優しい人だよ。
…私にも…梨子さんにもきっと。
「また遊びに行ってもいいですか?」
孝明さんは私の頭を撫でて言った。
「大歓迎!」
…孝明さん…
大切な妹さんを失って…
どんなに辛いだろう…。
どんなに悲しいだろう…。
…孝明さんを見てると、梨子さんもきっと素敵な人だったんだと思えた。
…そんな人を無惨に殺した犯人を許せない。
…こんな辛い思いをする人をこれ以上増やしてはいけない。
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「ん…?」
私は視界に入ったソレを拾った。
「涛生…どうした?」
「これ…何かな…?」
…それは突然降って来た。
孝明さんが供えた花の上に落ちた。
「羽根…みたいだ。」
私はそれを拾った。
「…血が付いてる……。」
孝明さんにも見せた。
「…ホントだ……。」
…幽霊とかオカルトとか、よくわからないんだけど、この羽根には何か強い想いみたいなのを感じた。
「……梨子が此処で見つかった時にあった羽根と同じ物かな……?」
…孝明さんは、そう言ってしばらくそれを見つめていた。
「……梨子…………守ってやれなくて…………ごめんな…………。」
……あの時……
孝明さんより私の方が、今にも泣きそうだった。
「…この羽根、調べてもらおうよ!」
そう切り出すと、涙が溢れなくなった。
「そうだな。」
孝明さんはタバコの火を消した。
…それから2人で警察署に向かった。
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…道中、私は考えていた。
…最初の被害者、梨子さんに始まり、彼女達は綺麗に飾り付けられて発見された。
…どんなに人通りが少ない場所でも、絶対に人が通らない訳じゃない。
…私が言いたいのは、あんな手間のかかる装飾をして、今まで誰も目撃者がいない事が不自然だって事。
…でももし、衣装や装飾が犯人のアジトで行われたとしたら…
…現場に遺体を運ぶだけなら数分で立ち去れる。
…警察署に行った後の私の行き先は、当初と変更になった。
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