蔵匿。
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「じゃあな。」
「うん、今日はありがとう。」
…病院を出て、竜也に自宅まで送ってもらった。
…竜也が見えなくなってから、私はあの廃墟に向かった。
…中では狂也が待っていた。
「……涛生……。」
心配そうに見つめる。
彼が起きた時、私は居なかったから当然か…。
「…あのね…………」
…私は今朝の出来事を話した。
…話しながら…
…渚が死んじゃうんじゃないかって思った事を思い出して、涙が出た。
…こんなに恐くて悲しい気持ちは初めてだった。
…彼は話を聞いてくれた。
…私が声を詰まらせた時は手を握ってくれた。
…私が涙を流すと抱きしめてくれた。
…この温もりだけは穏やかだった。
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…ん?
ケータイが鳴っていた。
「…もしもし?」
…奏太だった。
「…何?…テレビ?…ゴメン、今見れない。」
…何処に居るかは言えないんだけど。
…奏太の話を聞いて驚いた。
もうニュースになってたから。
…名前は報道されていなかったが、被害者の少年は渚だ。
…私はその事を奏太に話した。
「えっ…………ええぇぇぇぇぇぇぇぇ⁈‼」
…その声に私はケータイを耳から離した。
声が止まると、私は再びケータイを耳に当てた。
…私は早朝のメールから順を追って奏太に話した。
「……それで、さっき病院を出た所なんだ…………。」
さっき狂也に話した時よりきちんと話せた。
でもやっぱり、渚が死んじゃうかもしれないって気持ちを思い出したら言葉が詰まった。
「……涛生……オレ……何て言ったら…………。」
奏太も言葉が詰まっていた。
恐い思いをした渚に対して、助かって良かった…なんて気軽に言えない。
「……あと……昨日からずっとモヤモヤしてる事があるんだ…………。」
奏太が言いにくそうに言う。
「…そのモヤモヤ…私で良ければ聞くよ。」
…奏太は一息置いて、話し始めた。
「……あのメールの画像……ホンモノなんじゃないかって…………。」
「…えっ…………?」
…ドキッとした。
「…あの画像…………妙にリアルでさ……合成っぽい所も見当たらないし……。」
…昨日、奏太に送られた画像…
…奏太は画像をパソコンで調べたようだった。
「…犯人が涛生を連れ去ろうとしてるようにしか見えないんだ……。」
電話越しだったけど、奏太の様子がいつもと違う気がした。
「…奏太……私は犯人に会ってないし、事件にも関わっていないよ。」
「……だとしても…………渚が襲われたんだろ…………。」
少し間が空いて彼は続けた。
「…しかも……その画像が涛生に…………。」
…奏太は言葉を詰まらせながら、私が…いや、私達が既に犯人の駒なんじゃないか…と言った。
私と狂也が写った画像を奏太に、竜也に送りつけた誰か…。
渚が襲われた画像を私に送りつけた誰か…。
…その誰かが犯人だとして…
…あの時、私が1人で渚を探しに行っていれば…
…私が襲われた可能性もあるって事…。
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…あれから奏太と少し話して電話を切った。
…電話を切った後、しばらく言葉が出なかった。
「…涛生…………。」
その声は狂也だった。
…名前を呼んでくれた。
…その声に心が安らいだ。
次に彼はこう言った。
…一緒にいたら涛生が傷付くんじゃないか…って…。
…世間は自分が犯人だと思っているから…
…そんな事…言わないでよ…
…自分が犯人だなんて…
…そんな悲しい嘘…
…つかないでよ…………。
「…俺は……誰なんだろう……?」
…そう言った彼の身体は震えていた。
…自分の顔さえ判らず苦しんでる彼に、私が返せる言葉は他に無かった。
「…狂也…。」
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