廃墟。
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…その夜…
私は眠れなかった。
…奏太の言葉を思い出していた。
「…涛生に確かめておきたい事があるんだけどさ…。」
「…?」
「…その足の怪我…。」
「あぁ、これは昨日自転車で転んだんだよ。」
「……本当か?」
「本当だよ。」
…奏太の奴…たまに真面目な顔すると、ちょっと恐いんだよな。
「…ちょっとドジっちゃってさ。」
「…ドジならいいけどさ…何かヤバイ事に関わったりしてねぇよな?」
「してないよ。」
…即答した。
「そうか…。じゃあこれは誰かのイタズラなのか…。」
奏太はケータイを私に見せた。
「何…これ……?」
「バイト終わってケータイ見たら、それが届いてた。」
…謎のアドレスから届いたメール。
メールを開くと画像が添付されていた。
ぐったりした私を抱きかかえる仮面の男…。
奏太はすぐに私に電話したんだけど、留守電に繋がってしまったんだって。
それで私の家に向かった。
て、転んだ私と会ったのだと。
「私がピンピンしてる時点で、そのメールはイタズラだね。」
「…そうみたいだな。まっ…せいぜい気を付けたまえ(笑)」
「はははっ!美人しか狙われないから大丈夫だ♪」
「……あ、家この辺だっけ?」
「うん、すぐそこ。わざわざありがとね。」
「ほんじゃっ!」
…奏太に届いた画像…
昨日、車に跳ねられた時の物だった。
…誰が撮ったの?
…何が目的?
…狂也は私を助けてくれただけなのに…
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…深夜…
私は家を抜け出した。
寝付けなくて色々考えていたら、思い出したんだ。
…子供の時に突然見えた廃墟の家。
…小さい時…小学生位だったかな?
夏休みで、近所のプールに行こうとしてたんだ。
その通り道…
私より少し大きな男の子達がたくさんいて、何かやってた。
気になって近寄ろうとしていたら、私の後ろからお巡りさんが来て…
大声で怒鳴ると、男の子達は散り散りに逃げて行った。
お巡りさんは彼らを追いかけて消えた。
彼らがさっき集まってた場所に行ってみると、そこに男の子が1人…
…うずくまって、ぐったりしていた。
さっきの子達に酷い目に合わされたのだろうか…
服はボロボロ…身体は傷だらけ…。
私は彼に、大丈夫?って声をかけた。
彼は、小さく頷いて、あの廃墟の家に入って行った。
私は後を追った。
軋む床…
ボロボロの柱…
彼はボロボロの服を脱いで、それを水で濡らしていた。
そして身体を拭っていた。
私はカバンからタオルを出して、それで彼の身体に当てた。
…彼の顔は、仮面を付けていた…。
身体の傷とは別に、胸にハート型の痣があった。
あの廃墟の家は、その後見えなくなった。
けど、昨日…あった気がする。
あの男の子はもしかすると…
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…昨日、私が車に跳ねられた場所…。
いつも空き地だったスペースにあった。
…あの家が…。
…鍵はかかっていない。
私は入った。
足を踏み込む度に軋む床…。
ボロボロで腐った柱…。
…あの時のまま…
いや、あの時以上に劣化した家。
奥の部屋に着いた時、彼はいた。
金槌を振り上げて…
「やめてっ‼‼‼‼」
私は叫んだ。
彼の手は止まった。
「…そんな事しないで…。」
私はゆっくり近付いた。
…床に散乱した壊れた金槌やボロボロの刃物…。
傷一つない仮面…。
彼は仮面を壊せずにいた。
「…そんな危ない事しないで…。」
私は彼の手から凶器を抜き取った。
仮に仮面がそれで壊せたとしても、酷い怪我をするかもしれない。
最悪、死ぬかもしれない。
…私はその方が辛い。
…残酷な事を言ったのかもしれない。
それでも私は…
貴方に生きてて欲しい。
私は手を伸ばした。
彼の肩に触れた。
…抱きしめた。
彼は目を閉じた。
仮面の目から涙が落ちた。
…ずっと孤独だったんだろう。
…彼は声を殺して泣いていた。
…私は彼が落ち着くまで傍にいた。
「…ねぇ狂也……確かめたい事があるんだ。」
…彼は黙って頷いた。
…私は彼の服のボタンを外した。
「あった…」
同じ場所にあの痣が…。
「やっぱり、あの時の男の子なんだね…。」
…嬉しかった。
「…涛生…………ありがとう…………。」
彼の手がゆっくり上がった。
…私の肩に触れた。
そしてゆっくり抱き寄せた。
…彼の鼓動が聞こえた。
…優しい声…
…大きな手…
…あったかい身体…
…この人は…
人を殺したりしないよ。
…車に跳ねられそうになった私を助けてくれた。
…………?
…そうだ。
…思い出した。
…あの時…
「…腕…見せて。」
私は彼の袖を捲った。
…思った通り。
彼の腕や肘に新しい擦り傷があった。
「…私を助けてくれたんだね。」
…彼は私を抱えて地面に倒れた。
…私を庇って怪我をした。
「ありがとう……狂也。」
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