訪問。
□■□■□■□■□□■□■□■□■□□■□■□■□■□
「あ、竜也…此処で降ろしてくれる?」
帰り道、私は自転車を降りた。
「此処って…?」
「渚ん家。」
視線の先に大きな家があった。
「へぇ~…って帰りはどうするんだ?」
「そんなに遠くないし、歩いて帰るよ。」
「いや…その足じゃマズイだろ。此処で待っといてやるよ。」
…足の事、気にかけてくれて感謝している。
けど、何時間も待たせる事になるだろうから、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「遅くなるかもしれないし…それに私は大丈夫♪」
「…ホントに?」
「ホントに。」
…色々思う所はあるんだろうけど、こんな時、竜也は深追いしない。
「じゃあ帰るぞ。」
「うん、ありがとね。」
竜也が凄く心配してるのがわかった。
私が事件に巻き込まれる可能性と、この足じゃいざという時に危ないんじゃないか…という心配だと思う。
大丈夫…怪我は大した事ないんだよ。
□■□■□■□■□□■□■□■□■□□■□■□■□■□
渚ん家の門の前で、私はインターホンを押した。
「こんにちは。」
応答があったので、挨拶した。
「どうぞ。」
すぐに門が開いた。
「涛生さん、いらっしゃいませ。」
スーツの人が出迎えてくれた。
彼は【三條 透さん】…渚の家の執事。
「どうぞこちらへ。」
「あの、渚くんは大丈夫ですか?」
「はい、昨日はありがとうございました。」
…長い廊下。
「こちらでお待ち下さい。」
…通された部屋は凄かった。
「涛生ちゃん!来てくれたんだ‼」
その声で私は顔を上げた。
部屋に入って来た渚は、いつも通りの笑顔だった。
…顔を見て、少し安心した。
「あ、プリント届けに来たんだ。あと今日の授業の分…。」
私はカバンからプリントとノートを出して渚に渡した。
「ありがとう。」
渚はそう言って、受け取ったノートを開いた。
…偉いなぁ。
私なんか、1度書いたノートを見るのはテスト前ぐらいだよ。
さすが渚、しっかりしている。
「…くくっ……」
「ん⁇」
渚が腹を抱えてうずくまる。
私は渚の顔を覗いた。
…小さく笑ってた。
「…ぷぷっ!」
目が合うと渚は吹き出した。
「あーもう我慢出来ないっ!」
「えっ?何〜?」
「…涛生ちゃん…字が下手すぎるんだもんっ!」
「…そう…かな…?」
「…そんな綺麗な顔してるのにさ、男の子みたいな字だったから…ふふっ!」
「もお、何か今日はみんな失礼だなぁ〜!」
…ちょっと恥ずかしかった。
真面目に勉強なんて滅多にしないからさ。
「みんなって、今日学校で何かあったの?」
「それがさぁ〜……」
…私は渚に今日の事とか色々話した。
2人で色んな話をして…。
渚は楽しそうに笑ってた。
…その笑顔を見て、もう大丈夫かなって思った。
□■□■□■□■□□■□■□■□■□□■□■□■□■□
「あ、もうこんな時間だ。」
…結構長い事、喋ってた。
「暗くなっちゃったね……三條さ〜ん!」
渚が三條さんを呼んだ。
「あ、私は大丈夫。そんなに遠くないし。」
「そんな訳にはいかないよ!」
渚の気遣いは有難かったけど…。
「あれ?三條さん何処行っちゃったのかなぁ?」
渚はケータイを取り出した。
「…そっか〜、気を付けて帰って来てね。」
渚は電話を切った。
「三條さん、今買い物中だって…。」
「わざわざ連絡ありがとね。」
私は荷物を持った。
「近くまで送って行くよ。」
渚も上着を着た。
「病み上がりでしょ〜、安静にしてなさい♪」
一昨日の言葉をそっくり返した。
「涛生ちゃん、今日は本当にありがとう。」
「うん、また学校でね!」
渚の家を出たのは、ちょうど日没。
「さて……。」
歩いて帰ろう。
大丈夫でしょ。
15分くらいで自宅に着く距離だし。
…何の根拠も無いんだけど、私なんかが事件に巻き込まれるなんて事、無いだろう…って。
□■□■□■□■□□■□■□■□■□□■□■□■□■□
…大通りの歩道を通れば、まだ人もたくさんいるし、安全だ。
…大通りは此処までか。
…此処から裏道を通らないといけない。
…裏道…
…一昨日、4人目の死体が発見された場所…。
…ところで…。
…さっきから後ろに誰かいるんだけど…
…私は走った。
…後ろは自転車だろうか…
ペダルを踏み込む音と、だんだん近付いて来る気配と…
…無理だ…追い付かれる‼‼
「あっ……‼‼」
…足がもつれて転んだ。
…起き上がろうとしていると、目の前で車輪が止まった。
…やばいっ‼‼
「涛生?」
「……ん?」
この声は……。
「…奏太…。」
「なーにやってんだ?」
「えっと……転んだ。」
「アホだなぁー……怪我してんのか。」
奏太は自転車を降りた。
「これは昨日…転んで……。」
「取り敢えず乗れ。」
…言い終わる前に自転車に乗せられた。
「…ありがとう…。」
奏太は私が乗った自転車を押しながら、家まで送ってくれた。
彼の帰り道は違う方向なのに。
□■□■□■□■□□■□■□■□■□□■□■□■□■□