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二日目

 日は昇り、今日もアムールは良い景色だ。


 今朝、ピエール洞窟にヴィーナス女王とエンデュはいた。


「そなたはまだであろう」


「はい。......しかし今日は必ずや預けます」


「そのいきだ。だが今回、そなたを呼んだのには他に理由がある。セレネは覚えているか?」


「名前は聞き覚え............ありますが」


「やはりか......。ストーンが溶けた事にも何か関係があるかもしれんな」


「何のことですか?」


「......記憶だ。お前は重要な記憶を失っている。自覚はあるだろう。

............昨晩、他国の王達とその事について話し合った。だが、結局何も分からなかった。もしも、何か......どんな小さなことでも良い。異変に気が付けば報告して欲しい。何かつかめるかもしれん」


「............分かりました」


そして、しばらく黙り込んでから彼は口を開いた。


「異変と言えば......昨日、不可思議な事がありました。遺跡から北の通路は封鎖されている。しかし、ナキアはそこを何らかの手で通り抜けたんです」


「何?」



 エキナセア中学校の3―A教室では、最後の6時間目の授業は社会だった。理子は席に座りノートに黒板の文字を書き写す。


 この時、ビブラフォンの様に高音のチャイムの音は鳴り響いた。


「では、課題を出しましょう。好きな歴史上の人物を調べてわかった事をノートに書きとめて下さい。これで授業を終わります」


「......えー、まじで」


「めんどっ!」


「ってか、中島先生って超うざいよね。特に課題をいちいち出すところがさ」


生徒達は文句をたらしていた。

しかし、理子だけは一言も文句を言わなかった。


 何故、周りの人達はこんな事で大袈裟にグチグチと言うのだろうか? そして、何故このように汚い言葉を吐くのか?


理子には分からなかった。

だって、そんなこと言ったところで誰がいい思いをするだろうか......。


もしかすると、私がおかしいのだろうか?


そんな風にも思ってしまう。


 こんな教室さっさと出て帰ろうと、理子はスクールバッグに教科書を素早く入れ込み教室を出て行った。


そうして、いつも通り一人で帰るのだ。その方が楽でいい。


 いつも通る橋が見えて来ると、普段とは違う異様なオーラを感じた。

すると、見覚えのある人物が目に入る。

彼は金髪の髪を風になびかせて川が流れる橋の向こう側を何を考えているのかわからない様な表情を浮かべて立たずんでいた。


「あ......」


彼女は足を止めた。


すると、こちらを彼は髪をなびかせながら振り向き、整った綺麗過ぎる顔をこちらに向けた。


「............この辺りにいると思ったよ」



 二人は共に歩いていた。


「なんで、分かったんですか?」


「............何が?」


「だ、だから、どうして、私の居場所を............」


「直感だ」


冷たい口調でストレートに彼は答えた。


「............今やってしまった方が手っ取り早い。..................君は構わないな?」


「何のことでしょうか?」


「そうやって、惚けて逃げようとするな」


「え? 私、逃げようとなんか......」


すると、エンデュは理子の腕を掴んだ。

理子はエンデュの方を振り向く。


エンデュは握り締めた手を差し出すと、ゆっくりと広げた。手の平には一欠片になったストーンが乗せられている。


「............飲み込め」


「で、でも。こんなの飲み込んで支障ないですか?」


「これ以上、手間をかかせるつもりか?」


エンデュは、あきれ顔をした。


すると、理子はゆっくりと彼の手の平に乗せられたストーンに手を伸ばして取った。


「......それでいい。飲み込め」


思い切って彼女は口を開き、透明で青みがあるストーンを飲み込んだ。体全体に熱さを感じた。


「......熱が出たみたいです。病気になったかも」


「アホか。それは心にストーンが宿った証だ。......病気になった訳じゃない」


「すみません......」


 自宅の前へたどり着くと、理子はエンデュに振り向いて言った。


「それじゃあ」


「......あぁ」



 隼人は、これからサッカーの部活だった。下は紺色のジャージ、上はロックTシャツを身に付けて学校へ向かう。


しかしながら、正直言って気が重い。


突然、後ろから力強く誰かに肩を叩かれた。


「よ!」


友達の和田 朝陽だった。

彼は、陽気な性格だが見た目はダサい。


和田家は貧乏でお金がなく、朝陽は何年も昔の汚れが染み付いたTシャツに下は、お下がりのぼろぼろの指定ジャージをいつも通り身につけていた。


「......」


「なんだよぉ。親友の俺にあえて嬉しくな

いのかい?」


「......」


会話をする気力さえ、わかなかった。


「あ! そう言えば聞いたぞ?

佐藤先生の授業サボったんだってな」


「頼むから、その事だけは突っ込むな」


しかし、彼は隼人の声が届いていない様でそのまま話を続けた。


「よりによって、まさかお前が授業をサボ

るなんてよっぽどの事があったんだろう? ......なぁ、遠慮すんなよ。悩みがあるなら

俺に言え」


「虐めだよ......部活の。まぁ、教室でも同じだけど............」


「あぁー。だから、言ったじゃないか。

一緒に美術部入れば良かったんだよ。

まぁ、気持ちは良く分かるよ。

俺なんて、ずっと俺を見ながら絵を書いて

る女の子がいたから似顔絵でもかいてる

の? って聞いたら、ええそうよ。って言ったから見せてって言って見せてもらったんだよ。そしたら、うんこの絵が書いてあったんだ。

そしたら......これがあなたよ、ソックリで

しょ? って」


冗談混じりの言い方で彼は言い、隼人の方を振り向いた。


「......」


隼人は無表情で彼を見つめては、また、前に視線を戻した。ジョークで気持ちが軽くなれるような程小さな悩みではない。


もちろん朝陽は、少しは元気になって欲しくて言ったに過ぎないが......。すべった事がよほどショックだったのか、彼は黙って静かに歩き始めた。


 グラウンドへ着くと、部員達は皆こちら見ては睨んでいた。


「......そう言えばあいつ、授業さぼったらしいぞ」


「......どうせ、教室でも虐められてるんだろう。浮いてるからな、あいつ」


「ってか、隼人って居てる意味なくない?」


「うん、ないと思う。よく来れるよな。飛んだ、ど根性だぜ」


「超、笑える」


酷い言葉が聞こえて来るが当然ながら、ただ我慢をしてそれに耐えるしかない。

それ以上に出来る事は無かった。



 そうして......悪魔の部活の時間はようやく終わった。



これだけ頑張っていても、その理解が無いのは皮肉なものだ。......そう感じずにはいられない。


......いや、悪魔の時間はまだ終わってはいなかった。


一人の虐めっ子が彼に押し寄せて来た。


「お前、今日もただの足手まといだったな」


そう言って、古賀は殴りかかろうとする。


古賀 涼太郎はやばい。このガッツリした体の人物に殴られると人たまりもないだろう。


隼人は、思わず目を瞑った。



......しかし、いつになっても殴ってこな

い。


........................一体?!



ゆっくりと隼人は目を開いた。


見ると、古賀の髪は燃えている......。

気づくと焦げ臭い匂いはグラウンド中に漂っていた。


「熱っ。だ、誰か火を消してくれ!」


「見てみろ、もう誰もいない」


突然、聞こえた声の方に古賀は振り向いた。


突如、現れた彼の手の平からは火がジワジワと燃え盛っていた。


ドサッ......。


古賀は足を崩して、そのまま逃げるように

グラウンドを出て行った。


「......はははっ」


笑いが止まらなかった。


笑顔の隼人を見てカゲンは笑みを浮かば

せた。


「やっと、笑ったな」


すると我に返り、真顔に戻ると言った。


「なんで助けたの?」


「お前に会いに行こうとして来たら、たまたま、あいつにやられそうになってたのを見てな」


「別に良かったのに」


「良くないだろ? 友達が目の前で虐められてほっておく馬鹿が何処にいる。......だろ?」


「え......」



 部活の帰り道を共に歩いていた。


「カゲン。一つ、聞いてもいい?」


「あぁ」


「神の世界って、どんな世界なの?」


「神の世界は綺麗な世界だが、残酷でもある。特に、帝国や戦争が絶えない国ではそうだ。頻繁に才の無い神々が殺されて犠牲になっている。悲しいがそれが、現実だ......」


「結局、神様も人間と変わりないじゃないか。そんな事をするなんて......」


「確かに、お前が言っている事も間違えではない。だが、俺の住んでるアムール国の様に平和な国もある。

......神の世界に興味がある様だな」


「え......あぁ、まぁね」


「今度連れてってやるよ。......規則を破る

事にはなるが」


「本当に、いいの?」


「あぁ。友達だからな」


「と、友達って......」


 ますます、おかしな事が現実に起きていると感じずには居られない現状だった。

やっぱり精神病にかかってしまったのだろうか?

いや、そんなはずはない。確かにカゲンと会話を今、こうして交わしているのだから。



 翔は、黒い無地のカバーを付けた本を読んでいた。病室の開いた窓から、そよ風が入る......。


すると、病室の扉が開く音がした。振り向くと昨日の女の人だった。


「今度はなんですか?」


本を閉じて言った。


「うーん、遊びに来た」


ジュノは、そう答えると翔のベッドの端に座った。


「え......」


「あら、いけなかった?」


「いや、そういう訳じゃ......」


少しの間、言葉を詰まらせてから彼は口を開いた。


「ジュノさんはあの時、僕に何をした

の?」


「ストーンをここに預けたの。ただそれだけ」


彼女は自分の胸元に手をあてて、そう言った。


すると翔は自分の胸元に目をやり、確認するかのように手をあてた。


「どうして?」


「でないと私は神の力を失って神の世界か

ら追放されるからよ。......信じ難いでしょ

うけど」


「......神? ..................それは、嘘だ」


「別に信じなくても構わない。私はただ、ストーンが無事に元に戻ればそれでいいわ。............何、読んでたの?」


「ホラー小説だよ」


「ホラー? ......悪趣味ね」


「いいだろ? 好きなんだから」


すると翔はふと、ジュノの目元にくまがはっきりと出ている事に気が付いた。


「ジュノ、寝てないの?」


「寝てないんじゃなくて、寝れないだけよ」


 今にも、闇の精霊の封印が解けてしまうのでは無いかと言う不安、ナキアの言っていた発言の意味......

それに、ヘリオスとの関係が一変して欲求不満になっていた。だから、ジュノはここ最近、いい眠りにつけていない。


「どうして眠れないの?」


「子供のあなたには、分かりっ子無いわ」


 すると、担当の看護師さんが入って来た。


「さぁ、お熱を測りますよ。あら、今日は顔色がいいわね」


彼の顔色はいつもより明るくなっていた。


......ピピピ、 ピピピ


看護師は体温計をとり、体温を見た。


「うーん、前よりはいいわね。

それじゃあ、ゆっくりして居るのよ」


そう言うと看護師は病室を出て行った。


「一体、何の病気なの?」


「癌だよ......。余命、長くて半年持つかどうかって言われた」


「......だから、あんなに暗かったのね」


ジュノは、優しくそう言って翔の手を優しく握った。やっぱりかとも思ったが、あえて言わなかったのだ。


「あ......あ、ありがとう」


彼は、顔を赤くした。


「また明日も、来るから」


優しくそう言うと、ジュノは病室から出て

行った。


 すると翔は、黒い無地のカバーを付けた本を再び読み始めた......。

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