表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/22

不安と謎

 二人は、ジュノの家の前まで一緒に来ていた。とは言っても、ただカゲンがジュノに付いて来ていた だけなのだが......。


「それじゃあ、これで」


ジュノは、家のドアの前までたどり着くと

言った。


カゲンは、ただ黙って見つめている。


「何? ......どうかしたの?」


「いや、ただ、ナキアは......恐らく何かを隠してる。確実に俺達の何かを知っている」


「......そうね。でも、あまり深い事は考えない方が......」


そう言って、少しだけジュノは無理にも笑顔を作った。


「......また明日」


「また、明日」


彼は、少し照れながら返事をした。



彼女は扉を閉めると一息ついた。


何気なく誰もいない部屋の中を見渡す......。



 あるのは、何かの目玉が入った瓶や血のよ

うに赤い液体が入った瓶などがずらっと並

んでいる棚。


それらを、混ぜ合わせて薬を作る為のツボ

が置かれてある。



 ............ドン、ドン、ドン。



彼女はドアの突然叩く音で、心臓が跳ね上

がった。


振り向くと、少しだけ扉を開き顔を覗かせ

るカゲンがいた。


「入っても、いいかな。

..................一人だと落ち着かない」


「カゲン、驚かせないでよ」


そして彼女は口角を上げて、言った。


「いいわよ」


カゲンが中へ入るとジュノは言った。


「私もよ。一人だと............落ち着かない」


ふと、ジュノの背後の棚に並ぶ奇妙な物体が気になり足を進めた。


彼は、瓶の中身を見つめた。


その瓶の中にはドロドロの何かの血のよう

な赤い液体が入っている。


「そこにある物、何だかわかる?」


「うーん、そうだなぁ......」


すると彼は、白い液体の入った瓶が目に入

り 手に取った。


「これ、ヘリオスのあれだろ?」


「それは花の蜜よ。カゲン」


彼は大人しく瓶を少し気まずそうな顔を

して元の棚に戻した。


ジュノはあきれ顔をする。


「それにしても、こんな物を何に使うんだ?」


「300年前、私はヴィーナス女王から闇の精

霊を封印する仕事が与えられたの。

ここに置いてある物は全て、そのために

使う薬の材料よ」


彼女はふと、不安げな表情を浮かべた。


「..................だけど、今の私のなら

いつ封印が溶けても おかしくないわ。

また、彼らが暴れだしてしまうかもしれな

い............」


カゲンは、ジュノのすぐ傍に近づいた。


「......」


カゲンは、ジュノの不安が滲み込んだ瞳を見つめる。


「仕事ができない神はどうなるのか。

......定めについては、あなたも知っているでしょう? ..................私......」



 神の世界は美しいが、残酷なものも存在する。


神としての力を発揮出来ない神は殺され

る事がある。


人間界の水や光、風や炎は全て神の力があって存在している物だ。


その神が仕事をしなければ、人間の世界は全てが無と化すであろう。




そうなる前に..................殺されるのだ。




そして、その神の代わりとなる神が産まれ

る。


特に、帝国や戦争が絶えない国では頻繁に才の無い神々が殺されて犠牲になっている。


それが、現実だった......。



神の世界で生まれた彼らには、定めがある。

自身の持つ力で人間界を救う使命を背負って生きているのだ。



 カゲンは、ジュノを抱きしめた。


「誰だって不安な事くらいあるだろう? ............なっ」


「えぇ......そうね」


ジュノは彼の大きな背中に腕を回し、寄り添った。



温もりを感じる......。



こんな事......してしまっていいのだろうか。


女性をこんな風に、抱き締めたのは

......いつの、昔だっただろうか?



覚えていない......。



その記憶さえ、失われているのかもしれない。



俺に、一体何が起きているのか?



一瞬の間、そんなことを考えたが我に返っ

た。



 ジュノは、何げにゆっくりと顔を上げて目を見つめて来た。


「............あなたも不安なんでしょ? そう顔に書いてあるわよ」


するとジュノは、にやにやと笑った。



 何日もの間ずっと部屋にこもりっぱなしだったセレネだが......今夜は、城から抜け出し外へ出て行った。


城のすぐ近くは崖になっており、その下は海である。そこが最も月が美しく輝く場所であることをセレネは知っていた。




彼女が両手をしなやかに胸元あたり程度

まで上げる......




すると、月は彼女に答えるかのように美しく光り輝き始めた............。




............エンデュ、早く あなたに戻って?



............早く 私を思い出して。




そう願いを月に込めながら、後ろを振り向

き、自分の与えた力で光り輝いた月を

彼女は見つめた............。



 遺跡から北の通路を確認したところ、やはり行き止まりになっていた。


「一体、どうなってる......」


「............エンデュ」


聞きなれた声だった。振り向くとそこにはイヴがいた。


「こんな遅くに帰っていないとは、心配になってな。汝を迎えに来た。しかし、ここにいたとは」


「すまなかった、イヴ。............ただ、気がかりな事があった。封鎖されているこの通路をナキアは何らかの手で通り抜けたらしい......」


「不気味だ。......とても不気味だ。そもそも、ヴァイス帝国へ何しに行ったと言うのだ」


「......俺にもわからない」




 エンデュとイヴは自宅へ向かった。

空の煌びやかに輝く月に辺りは照らしだされていた。


「満月か。美しいな」


イヴは呟いた。



 ヴィーナス女王にも、不安があった......。


ルシファーの場合、ストーンが溶けたと言

うだけで他になんの問題も無かった。

しかし三人の場合は違う。彼らは、記憶も失われているのだ。



それは一体どういう事なのか?



彼女は、考えても考えても何も分からな

かった。




 ......この夜、彼女は以前と同じように親し

い他国の王達を集めて話し合うことにし

た。


「ヴィーナス。こんな夜遅くに呼び出すと

はどういう事だ?」


アースは聞いた。

彼は、ユグドラシルにある アースガルズの

王である。髭がよく似合う男前だ。


「ルシファーは けして記憶は失っていな

かったはずだ。

それが、なぜ三人は............」


「うーん」


アースは顎に手を当てながら、考え込ん

だ。


しばらく、皆は考えていたが結局

何も分からなかった......。





 結局..................なぜ三人は



記憶を失ってしまったのか?



それは、謎に包まれてゆくばかりだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ