遺跡
アムールには誰も寄りつかない遺跡がある。気味の悪い噂がたてられているのだ。やがて、神々は遺跡を恐れて近づかなくなった。
ストーンが溶けてから、人間界への出入りを許されるようになり変に注目を浴びる事が増えた三人にとって遺跡は、人目を気にせず話し合う事が出来る絶好の場所だった。
それを思い付いたのはジュノだった。
彼女は、単純なカゲンやストーンが溶けてから中身が空っぽになってしまった
エンデュよりも頭がさえている。
「エンデュ、遅いわね......」
「ここって、 呪いにかけられて熊の姿に変えられたカリストーが出るって場所じゃないか!」
カゲンは、瞬時に、真っ青な顔に成り代わり、目を大きく見開いた。
「だから、人目を気にせずに話せるからここにしたんじゃない。......何、怖いの?」
「怖いだって? ......まさか」
「でもこれって、おかしな噂なの」
「え?」
「だって、カリストーは死んだのよ。浮気をした罪により、呪いをかけられて熊の姿に変えられた。その後に......殺されたの」
「じゃあ、なんで見たって噂が......。ま..................まさか」
「そうよ、カゲン。カリストーは死んだ後もなお、アムールの遺跡をさまよい続けている。..................彼女は、アムールに何か心残りがあるのよ。だから、霊界へは帰れない」
突然、そう遠くはない距離から声が聞こえて来た。
「あぁ。子供がいたからだ」
振り向くと、 落ち着いた雰囲気でエンデュが歩いて来ていた。
「エンデュ! 遅いぞ」
彼は二人の所まで着くと言った。
「............子供の名は、 アルカス」
カゲンは、その名前を聞いてピンと来た。
アムールの闘技場で、同じくらいの年頃の
セトや他の少年達にいつも虐められていた
“ひ弱な少年” を思い出した。
............あの子に違いない。
「あ、あの子か」
「......カリストーは、息子のアルカスを心
配のあまり、霊界へ帰ることが出来なく
なってしまったのだろう」
「......切ない話ね」
「............あぁ」
彼は冷たい口調の中、心があるかの様な表情をほんの一瞬だけ浮かばせた。
三人は、ようやく話し合いを始めた。
「上手いこと見つかったよ。力を見せたら、驚いてたが」
「......当たり前だろ」
「私は、病室にいた子に何とか預けたけど......。入院してるって事は、もしかすると」
「............君は深く考え過ぎだろう、ジュノ」
「......えぇ。エンデュは、どうだったの?」
「............預けられなかった」
「 “え?” 」
ジュノとカゲンは驚いた表情で声を揃
えた。
「まぁ......色々............」
「おーや おや おや。三人仲良く肝試しかい?」
三人は振り向いた。
その印象的な細い一重まぶたの目には見覚
えがある。
「......」
カゲンは、彼が何しにここに来たのか聞く
気にもならなかった。
正直、彼を好きにはなれない。
スタスタと彼はエンデュの前に出ると彼に顔を近づけて言った。
「正直、お前のその綺麗な顔をめちゃく
ちゃにしたいね」
「..................何の用だ。............................................................ナキア」
相変わらず無表情だが、言葉は少し怒り混じりだった。
「あの頃のことはよく覚えている。お前は......」
「......一体 何が言いたい」
全く意味不明だった。
エンデュは気味悪く感じる。
「フッ............まぁ、時期思い出すときが来る」
ただナキアを嫌そうに見つめていたカゲン
に彼は視線を向け、ニヤリと笑った。
「やぁ、負け犬カゲンまた会ったな。ははは..................まぁ、せいぜい頑張りな」
カゲンは、ただ黙って睨み返した。
こいつにケンカを返す価値もないだろう。
ジュノはすぐそばの遺跡の柱に背中を付けて手を組み落ち着いた表情で立たずんでいた。
彼女は、何気にナキアを見詰める。
何処かで見た様な......
何処かで会った様な......
だけど、思い出せない。
ナキアはこちらに視線を向けると近づいて来た。
ジュノに接近すると首筋の匂いを嗅ぎ、ニヤリとした。当然、ジュノは嫌な顔をした。
「久しぶりだな。......君は覚えて無かろう」
「誰なの? ......あなたは私の何を知っているの?」
「ジュノ。相手にするな、そんな奴」
カゲンは言った。
「教えてもいいが、後悔する......。お前らもな。ははは......。では、これにて失礼するよ。頑張りたまえ」
すると、ナキアはヴァイス帝国方面の北へと歩いていった。
「..................馬鹿な......遺跡から北への通路は千年も昔に封鎖されたはずだ」
「あの方向はヴァイス帝国への近道よ。奴はヴァイス帝国へ向かおうとしているのよ。彼が何しにこんな所に来たのか。......それは確信ね」
「っとなると、封鎖されたはずの道は開かれたって訳か」
「..................そんなはずはない。アムールの平和を確実に守るべく、ここから続くヴァイス帝国への通路は永久に封鎖する契約を女王はしていた。............俺でも、それだけは覚えている」
「じゃあ......」
「秘密の通路を帝国が内密でつくり上げた可能性が高い......」
「確かにな。じゃ、通路を確認しに行こうぜ」
「いや、俺が行く。......君は心配だ」
「共感」
「ジュノまで、何だよ」
空は陽が沈もうとしていた。
あたりは薄暗くなってゆく............。
「それに、もう遅いわ。後はエンデュに任せて、私達はここを出た方が良さそうね」
........................二人が遺跡から出ていく背後
で古い柱の後ろから、ぎらついた瞳をした
大きな熊のような黒い影は二人の後ろ姿を
見つめていた......。