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女王からの指令

 アムール城の自然が実るだだっ広いホールの中は、アムールに住まう八百万(やおよろず)の神々で熱がこもっていた。

 ヴィーナス女王から、ある神に指令があると言うのである。その内容が何なのかはまだ分からない。しかし、このような事があったのはいつの昔であっただろう......?

 アムール国は神の世界の中では最も平和で住みやすい国である。戦争などの危機にさらされた事はない。その為、滅多なことがない限り女王からの指令が出される事はなかった。

 しかし、神々は緊張感を漂わせている者など一人もいなく皆落ち着いていた。 そこが人間と違うところなのだろう。


「なぁ、アル。指令だなんて久し振りだよな。何年ぶりだろうか......」


「700年ぶりだとよ。パリアが言ってた」


「あいつ、何でも覚えてやがるな。さすがだぜ」


 話はここに至る。

 数日前の晩............。


 ガラスのように透き通るピエール洞窟。

今日も、当たり前のようにこの場所へ来た。

 もちろん、これも彼女の仕事。ヴィーナスは、ストーンを一つ一つ、確認していく。

 ストーンは水晶のように美しく丸々とした形であり、それには古い時代に使われていた記号の様な文字で神の名がそれぞれのストーンに刻まれている。色が皆違うのは、神の才能が皆違うからだ。ストーンが傷一つでも着けば神の力は弱まること、それはこの世界では常識だ。そして、完全にストーンが消えてしまう様なことがあれば当然ながら神は力を失い神でなくなるのである。

 すらすらと当たり前のように、確認は進んでいく。

 いや、彼女の手が真っ赤に染まるストーンに手を付けた途端、彼女の手はぴたりと止まった。

 微かに、ヴィーナスの手は震え上がる。まさか……こんな事って。明らかにこのストーンの様子はおかしい。ストーンは丸で、熱に溶け、歪な形となった飴玉のようだった。

 どうしてこんなことに........。

 通常、頑丈なこのストーンが溶けるなどありえない。どう考えても誰かの仕業であるとしか考え様が無かった。

 この火の力を宿した神の力は見る見ると弱まっていくことだろう。……そうなってからでは遅いのだ。

 早くにも、他のストーンの確認を済ませよう……。

 再び、素早い動きで、ヴィーナスは一つ一つ、丁寧にストーンの確認を行っていく……その内、他にも似たように溶けたストーンは二つ見られる。

 一体何がどうなっていると言うのか?

 ……この三人に危機が迫っている可能性があるかもしれない。


 ............それから、ヴィーナスは親しい他国の王達を城に招き入れて話し合っていた。

 城の二階の一番左手にある部屋。

 この部屋は美しい窓が太陽の日差や、夕焼け、夜に輝く月によって光が照られ、幻想的な部屋となっている。

 そんな美しい部屋に似合うよう、様々な花が飾られてあった。木のテーブルの上には、ほっそりとした花瓶に一輪のオレンジ色の薔薇が。壁に飾られている鏡には、コスモスと草を編んで、鏡の周囲を囲んである。

 壁際には、美と愛の塊のように 美しく咲く

様々な花が飾られていた。ほのかな香りが

癒しを注いでくれる......。


「 ここの花は皆、セレネが見つ

けた花なんだとな 」


 ゼファーは、風の神でありながら アネモイ国をおさめる王である。


「少し前までは、よく花を積んできたもの

だった......この頃のあの子は、元気が

ない。きっと、エンデュの力が失って来て

いるのが原因だろう......」


 ヴィーナスは、そう言うと、心配げな表情を浮かべ......この部屋に広がる花畑を、ただ、見詰めた。


 彼女は、独り......部屋に閉じこもったままである。

 そこは、全て花だけで出来上がった魔法の様な部屋。

 セレネは、ベッドのシーツの上で泣き崩れていた。

 とにかく寂びくて仕方がない......。

 冷めた彼の表情は、まるで別人だった。

 思い出すだけでも涙が込上がってくる。


「……」


 どうしてこうなったのか?

 彼女は、ひたすら同じ事ばかり考え続けていた。


「 神の力を宿す石が溶けるなんて......。 700年前に起きた あの事件と似ています」


オグドアド国の女王のネイトは言った。


「......ま、まさか。 ルシファーの事件のことと!!」


ゼファーの声はベッドで泣き崩れていたセレネに、はっきりと聞こえてきた。


「..................ルシ......ファー?」


 何処かで、聞いたことがあるような無いような名前だ。


「ゼファー、声を落とせ。私の娘の部屋はここから近い事を知っているだろう。セレネの近くでルシファーの名前を大声で言うな」


「すんません」


 ゼファーはヴィーナスのお怒りぶりに腰を引く。


「ネイト。とりあえず、ルシファーの過去を滲み込ませた書を読み上げて欲しい。関連性があるかもしれない」


 神の世界では、神も人間も含め一人一人の過去を書に滲み込ませた書が存在する。

 それを元に神は一人一人の情報を得たりしていた。

 ネイトは表紙も中身も黒く染まった書を胸元から取り出した。そして、読み上げる。


「光を操りしこの者は、悪魔によりストーンを溶かされた。元に戻す術を行い人間の手を借りた後にストーンは戻された。数日後、愛した息子を置き去りに邪神の力を手に入れるべくして、“ 心殺の門 ”を開いた。それを元に、大切な物や人は心から消え去った。息子の事は忘れて 野望と邪悪な心だけが残り......この者は邪神に変貌した」


「我々世代なら、誰もが知っている事ではないか」


「だから問題なのだ。三人のストーンも悪魔が原因だとすれば、危ないだろう......」


「誰が溶かしたにせよ、ストーンをこのままほっておく訳にはいかないのでは?」


「......わかっている。ネイト、やはり人間の手を借りるしかないだろうか?」


「えぇ。それ以外には打つ手がないので」


「よかろう」


「本当に大丈夫なのか? ..................確かカゲンは、ルシファーの」


「ゼファー、その事は二度と口にするな。私も分かっている」



 城内のホールの中、神々はヴィーナスを待つ間は会話で暇つぶしをしていた。


「そう言えば、最近ヘリオスの元気ないよね」


「確かにね。ピアノの曲も最近つまらないのしか引かないし......」


「ナーサティアは彼のことどう思う?」


「嫌ね、私はあんたほど男の趣味は悪くなくてよ。......ダスラ、好きなの?」


「違うわよ。だって、カゲンが最近ディオニューソスに来ないからヘリオスくらいしか見る物ないじゃない」


 すると、ホールの中央で............突然、竜巻が起こった。

 しかし、竜巻は一瞬でおさまりヴィーナスはそこから姿を現した。


「皆の者!」


 ホール中に大きな声が響きわたる。


「重大な知らせを伝えたい。これより名前が上がった者は私の元へ来るのだ。カゲン、エンデュ、ジュノ」


 三人は、女王の前へ出た。彼らは顔色一つ変えず常に冷静だった。

 女王は透明感がある黄身がかったアンティークな色味の白いドレスの胸元にしまい込んでいたストーンを取り出した。

 エンデュは、 今にも溶けて消えてしまいそうなストーンを見た瞬間......驚きを隠す事が出来なかった。


「......っそれは」


「恐らくこれで今までの自分自身の神の力が弱まった原因が分かったであろう。そなたらのストーンが溶けたのだ。何故溶けたかはまだ詳細不明である」


 凛とした表情でヴィーナスは言った。


「ストーン? 何それ」


 カゲンの発言にジュノは驚いて問いた。


「あなた知らないの?」


「あぁ、知らない」


 周囲の者達はわっと笑い声を上げ始めた。


「............変わり者だな」


 エンデュは少々あきれ顔で呟いた。

 エンデュはふと女王を見詰めた。すると、彼女は黙って頷いた。それから彼は当たり前のストーンの説明をどう仕様もないカゲンの為に始める。


「......ストーンにはそれぞれの神の名が刻まれてあり、その神の力がストーンに封じられている。要するに、神の力を宿す石だ。それが溶けたということは......わかるな?」


「まじかよ、だから俺は......」


 彼はようやく今置かれている状況を理解した。


「遅っ」


 ジュノが思わず呟く。


「このままでは、そなたらは神では無くなるだろう。この世界から追放することになる。しかし、安心しろ。打つ手は一つだけある。人間の手を借りるのだ。そうすればストーンはやがて、神の力と人間の心が結び付き元に戻すことが出来る。......ここからが肝心だからよく聞いておけ。一人の人間の心の中にこのストーンを預けろ。簡単なことだ。直接胸元に入れ込むか口に送り込むか、だ。そなたらなら出来るであろう。…………もうすでに、人間界へ続く通路は私の手で開いておいた。今すぐに行きなさい。これにて会を終了する」


 竜巻はヴィーナスの周りで起こり始めると、やがて収まり彼女は姿を眩ませた。

 すると、周囲の者達はざわめきながら動き始めた。


「じゃ、行こうぜ」


 カゲンは赤毛をいじりながら気楽そうに言うと、通路があるプリュイへと向かって歩き出した。物事を単純に捉えているようだ。

 しかし二人は 不安が込上がっている。


「......あいつの性格が羨ましいよ」


 エンデュは眉を下げ、言った。


「ええ、そうね」


 ぶつぶつ言いながらも二人はプリュイへと歩き出した。

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