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 この日、約束通り二人は海に来ていた。


人気が少ない静けさが更に自然の美しさを漂わせている。



 この頃、翔の体は、下半身麻痺を起こし、彼は車椅子で移動をしなければならなくなっていた。


 ジュノは、海をただただ感動した目で見詰めている翔を、微笑みながら見詰めていた。


海から目を離さずに、そのまま翔は口を開いて言った。


「......ねぇ、ジュノ」


「どうしたの?」


ジュノがそう訪ねると、翔は重たい口調で話し出す。


「石はもうじき元に戻るんだよね?」


「そうね。あと、数日か......数週間で元に戻ると思うわ」


ジュノは、淡々と言った。


「......石が元に戻ったら、もう、ジュノとは会えないの?」


更に、不安のこもった重たい口調で彼はそう言った。


「え......そうね、そうなるかも知れない」


しばらくの間、静けさが走った。ただ、海から放たれた波の音が鳴り響いている。


「そうなっても、僕のこと、覚えておいてくれる?」


ようやく、重たそうに口をゆっくり開いいた翔は、そう言った。


「当たり前でしょ」


ジュノは、涙が出るのをこらえると、無理矢理に作った歪な笑顔を浮かべながらそう言って、車椅子に座る翔の前にしゃがんだ。


ジュノのその心を読み取ったのか、翔は心配した顔を一瞬の内だけ浮かべたような気がした......。


「......海って、透けているんだね」


ずっと、海から目を離さずに翔は呟いた。


「ここの海は......ね。綺麗な海、そうでない海があるのよ。ここの海、気に入った?」


「気に入ったよ」


翔はそう言って、笑みを浮かべながらジュノを見詰めた。


「ジュノ、知ってる?」


「何を?」


「二人の絆の証の物は何かを」


微笑みながら翔は言う。


「さぁね、知らないわ」


「指輪だよ、指輪。愛し合う二人の絆の証」


「それ、人間界における常識の問題じゃない? ......くだらない話ね」


「くだらなくないよ。それって、別に恋人同士じゃなくても同じことだと思う。友達も、家族も......誰にでも、何処にでも、絆ってあるでしょ? ......僕、思うんだ。僕達にも......心の中には僕ら二人の絆を結ぶ、指輪があるってね」


微笑みを消すことなく、海から視線を外すこともなく、彼はそう語った。


「そうね、絶対に......」


ジュノは、そう言って微笑み返した。



 やがて......日は沈み始めた。



風は強まり、波の音はたちまち勢いをます。


「そろそろ、戻りましょうか」


背後から、聞こえた声に二人は振り向く。


それは、二人の背後で静かに見守っていた看護師さんだった。


「うん」


翔は、笑顔で頷いた。


「じゃあ、私はもう行くわね」


「帰るの?」


翔は、ジュノに向きを変えると、そう言った。


「えぇ」


ジュノは、一瞬、悲しげな表情を浮かべたような気がした。


「さぁ、行きますよ」


看護師さんはそう言って、車椅子を動かした。



 ジュノは、踵を返してプリュイへと続く境界へ向かい、歩き出した。




 ふと、翔が背後を振り向く。


しかし、その時、既に彼女の姿は無かった。

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