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数日後

 また、いつもの橋で彼にあった。




「いっつも、ここだよね」


「......ここがいいんだ」


「どうして?」


「ここに流れる川は、自然そのものだ。人間界では、自然がある場所にいないとどうも落ち着けなくてな......」


「そ、そうだったんだ。

......なんだか、今日のエンデュ......顔色良くないよ?」


そう言うと、理子はエンデュの顔をのぞき込んだ。


「ここ最近は、色々ありすぎだった......。

とんでもなく世話の焼ける友達がいてな......。一人は、毒をもつ森の精霊に噛まれてしまい、一人は、両手と後ろ首筋が鏡と化した。そんな状態だから......今は、二人とも人間界への出入りは禁止されている」


「え、じゃあ......エンデュだけじゃ無いの? ............その、ストーンが溶けてしまっているのは」


「......あぁ」


「それって、とんでもない事だよね。だって、神様の力を失った神様が数人いるってことは人間界にも影響があったりしないのかな?

......例えば、エンデュなら、思いやりの神様だし、もしかしたら、どこかに思いやりを忘れた人達がいるんじゃないかな? 溶けたストーンの影響で......」


「あまり君は深いこと考えるな。それを考える必要があるのは神だけで充分だ。......いいな?」


「う、うん」


「じゃあ、俺はもう......帰らないと......。病人の友達が心配だから」


「そうだよね......。じゃあ、また今度」


「あぁ」


「大変だね、神様も」


「そう言う、人間も大変だな」


「え?」


「あの学校が嫌でも頑張って通っているじゃないか。君は......すごいと思うよ?」


「え、あ......気が付いてたんだね」


「......当たり前だ」



 理子は、立ち去って行く彼の後ろ姿を見つめる。




私がここまで、頑張ってこられたのは



エンデュがいたからだよ?




あなたが、そうやって......



私の心を支えてくれているんだよ。




..................だなんて、やっぱ言えないや。








 ............私って本当にドジだな。



あんなに鏡粉を飲んだりしなければ、こんな事にはならなかった。




それにしても、暇で、暇で、暇なものだ。




 そうして、ようやくジュノの家の扉を誰かが開ける音がした。



「平気かい?」


「なーんだ。......エンデュか」


「せっかく君が暇していると思って来てやったのにその態度か......」


「なんにも無さすぎて......死んじゃいそう。」


「仕方が無いだろ? ............同じことを百回も言わせるな」


「人間界の外出禁止令はとにかくも......部屋から外出禁止令を出されるだなんて......私......」


何かを訴えているような目で、エンデュに上目遣いする。


「......はぁ」


エンデュはため息をついた。


そうすると、彼はジュノの背後の棚に並ぶ瓶を何気なく見つめる......。


「............ん」


そして、エンデュは何かを企んだかの様な笑みを浮かべた。



 怪我をしているというのに罰はまだ終わっていないカゲンは、ケルノの家へ向かっていた。


森の近くに立てられた、小さな可愛らしい家の前にケルノは “ 人形草 ” を持って立たずんでいた。


「あれ? ......人形草。それ、どうやって手に入れたんだよ」


「カゲン! ......よかったダ。

実ワ、昨日の夕方頃に人形草を持った商人が突然現れて。大きな帽子を深々と被って顔はよく見えなかったけど、歯がガタガタの色白さんだったよ。一本1000パールでどうかと言われて。命懸けでとりに行くよりずっと安かったダよね。とにかく、これで問題は解決した。

カゲンの罰もこれにて、終わり。おしまいオシマイ」


「それを聞いて肩の力が抜けたよ。

......でも、誰がそんな」




 ......ギーッ。



扉の開く音だった。


「......早かったな」


二人は、笑顔で彼を出迎えた。


 カゲンは、いつもと少し違ったジュノの部屋を見渡す。


ガラスの瓶の中に入ってある、妖精が楽しそうに踊っている。


そのとなりにある、瓶の中の何者かの目玉、三つは瞬きをしたり、何処かへ視線を向けて目玉をキョロキョロとさせていた。


「どうしたんだよ、こいつら。だって、死んだんだろう?」


「あぁ、そうだ。妖精の死体に残されている心臓を抜き取って、目玉は血管を無くした。そして、フェニックスの血を射つんだ。......暇だったから、ちょっとだけ遊んでみたよ。......面白いだろう?」


「要するに、ゾンビよ」


「..................ぎゃー!!」


カゲンの声は、外まで響きわたった。


「カゲン......女の子みたい」


「ふはは、もろに信じてるぞ......」


二人は、顔を見合わせるとニヤニヤと笑った。


「カゲーン? よく見てて......」


そう、ジュノは言うと瓶が置かれる棚へ指さした。


「え......?」


そうして、カゲンは瓶の中にいる妖精を見詰めた。


「もういいわよ、お疲れ様」


ジュノがそう言うと、踊っているように見えた妖精の背後から......



“ それ ” は、ひょっこりと小さな顔を覗かせた。


......と思うと、また顔を引っ込める。



しばらく、妖精の死体の背後に隠れる “ それ ” は顔を出さなかった。



「何だよ......そう言う事か」


そう言うと、カゲンは “それ” がいる瓶に近づいた。


「大成功だったな......」


「えぇ」


二人は満足な表情で言った。


「......出ておいで?」


カゲンは、優しく呼び掛ける。



すると、“ それ ” はちらっとだけ顔をのぞかせてから......


また、顔を引っ込めた。



「......大丈夫。出ておいで?」



そうして、“ それ ” はもう一度、顔をのぞかせた。


「そうだ......大丈夫、大丈夫だ......出ておいで?」



すると、ようやく “ それ ” は、ゆっくりと恥ずかしがる様子で姿を表した。



背丈や体格は、その妖精の死体と何ら変わりはない。


しかし、耳はとんがっており、服は緑色の美しいドレスに身を包み、右腕からは小さな花や草が所々、生えていた。


少しの間、見入っていると......


目玉の背後からも、よく似た三人の妖精が姿をひょっこりと現した。


すると、


最初に姿を現した妖精は、羽を広げてエンデュの肩の上に素早く移動して、そこにちょこんと座った。


「ふふっ。驚いた?」


「驚くも何も、当たり前だろ」


「ジュノが随分と暇をしていたから、ちょっと遊んでみたんだ。......可愛いだろ?」


「あぁ....でも、どうやってこんな......」


「人間界に住み着いていた妖精達は、人間の勝手な都合で、自然を破壊されて自分達の住処がなくなってしまった子が多いんだ......。それを保護する役目を背負っている動物の神のアルに、ちょっと借りて来たって訳さ。......この子達も、たまには別の場所に出て、遊んでも見たいだろうと思ってな。

......あぁ、でも、もう返さないと。そろそろ時間だ」


「そうね。この子達を返す約束の時間まであと一分もないわ」


「エンデュも飛んだ事しやがるぜ......」


チェアに座るとカゲンは、そう呟いた。


「......なんだよ、せっかく元気になるかと思ったんだけど」


エンデュは、少しがっかりとした。


エンデュの肩の上に座っていた妖精は、羽を広げて飛ぶと、エンデュの頬にキスをした。


すると、一度お辞儀をした。


「自分で帰るのかい?」


こくりと頷くと、妖精は素早く飛んで行った......。


それに続く様に、他の三人の妖精達も素早く飛んで行った......。


「っで? ......随分と早かったようだけれど、罰はどうだったの?」


「それがさぁ、すんげーラッキーな事があって......。ケルノがたまたま会った商人から人形草を買い取ってくれたお陰で、もう、罰が無くなったんだよ!」


「それは、良かったわね」


笑顔でジュノは言った。


「......商人?」


「うん。何か、大きな帽子のせいで顔はよく見えなかったみたいでさ。誰かはわからないんだ。歯がガタガタの色白だったとは言ってたけど......」


「そう言う物を売り飛ばして儲けている汚れた奴は、他国なら大勢いるが、歯がガタガタで色白......それはきっと、骸骨だ。......ヘルヘイム帝国の者に違いない」


「......ヘルヘイム? ひょっとして......」


「どうした? ジュノ」


カゲンは、彼女を見つめながら言った。


「......カゲン。あの夜、アムールにヘルヘイム帝国の神が来ていたのは、売り飛ばしに来ていたのよ。......そうに違いないわ」


「じゃあ、エレボスが......人形草を」


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