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黒い巣・ナイト通り

 しばらく、ついて行くと闇夜に染まった街角に来た。小汚い木の看板には《 黒い巣•ナイト通り 》と書かれてある。不気味なことに、この町の建物は皆、真っ黒に染まっている。辺りの神々は暗くうつ向いている者が多く皆、半透明だった。


アムールにこんな町がこっそりと潜んでいたとは知らなかった。


「あ、飴はいらんかねぇ? 10パールだよぅ」


黒ずくめの老婆はうつ向いたままカゲンに近づいて来ると、そう言った。


「い......いえ。結構です」


「美味しいブラッド味のキャンディーちゃんだよぅ?」


「ブラッド味って......も、もしかして、血?」


「ユニコーンから取った血さぁ。お前さんもこれを食べれば長生きするよぉ?」


「あ、あの、本当に結構ですから......」


すると、ようやく老婆は諦めて他の神々に同じように飴を売ろうとしていた。


「あ、あ、飴はいらんかねぇ?」


 ふと、カゲンはフェニックスが一件の店の屋根の上に止まって居るのを目にした。フェニックスは、再びじっとこちらを見詰めて来る。


クリクリの目で見詰めてくるのは、愛らしく可愛いものだが言葉を話さないので何を言いたいのかが分からない。


 とりあえず、フェニックスが止まっているこの、 “ 闇の薬屋 ” とはげかかった文字で書かれたボロボロの店の中に彼は入ろうとした。



......ギッギッギッギッギギギギギー。



 しかしながら、扉はボロボロで錆びついており開けられず、入りたいのに入れない。


もう一度、扉を開けようとすると......


扉はあっちへ行けとでも言うように、扉の上端が外れてカゲンの頭を二三度叩くと再び、何事も無かったかの様に扉は元に戻った。


気が付けば、カゲンは辺りの半透明の神々達の変な注目の的となっていた。皆、こちらを見詰めてくる。


 すると、フェニックスは降りて来た。

フェニックスが扉に火を吹くと、普通に扉は開く。


「ひ、開いた......」


そう言ってフェニックスの方を唖然として、彼は見る。


フェニックスは、先程凄まじい勢いで火を吹いた鳥とは思えないほど、愛らしいクリクリの目で、またじっとこちらを見詰めて来た。


「フェニックス、そこにいろよ」


フェニックスにそう言うと、店の中へと彼は入った。


その後、フェニックスは再び屋根の上に戻った。




 店の中は、薄暗い............。



 見渡すと、巨大な壺がどっしりと置かれているのが一目で分かる。

その傍にあるのは、クモの巣がはっており、埃のかぶった本棚だ。

カゲンのすぐ左の手前に小汚い木のテーブルが置かれてあり、その上に埃のかぶった分厚い本がどっしりと置かれてあった。

彼がその埃を払うと、本の名前が見えて来た。


《 The history of the Amur country 》


そこには、英語でアムール国の歴史と書かれてあった。カゲンは中身を開こうとしたその時、大きな蜘蛛が彼の手の上に登って来た。


「ひっ......」


カゲンは必死になって払いのけていると、誰かの声が聞こえてきた。


「......は順調だね」


「......えぇ、お陰様で」


ここの店員と思われる、大きな黒いハットを被ってうつ向いた半透明の男と、もう一人は男の方を向いているため顔は見えないが女性だった。


「さてと、ジュノ。今回はなんのご用かな?」


「闇の精霊の封印に使うお粉が減っちゃって......。あぁ、それからついでに本も借りていくわ」


「うーん。お粉と申されると、はて、これはどうかな?」


蜘蛛は腕まで登ってくる......。


「......しっ、あっち行け」


払いのけても、中々降りてはくれない。


ハットを被った男は、黒い粉が入った瓶を彼女に出した。


「これじゃあ、駄目ね。もっと強い力のお粉はないかしら?」


「これ以上、強い力の粉を使うのは君でも危険すぎる。悪いがこの、“ サタンの涙 ” で我慢しておくれ」


「それじゃあ、困るわ。今の私の力なら、いつ封印が解けてしまっても可笑しくない。......お願い、必要なの」


「......それでは」


すると男は、緑色の粉が入った細くて小さな瓶を出した。


「これでいかがかな? ............薔薇の茎を削ってそこに邪神の親指の爪を削った物を投入して作り上げた、“ ローズデス ” であります」


蜘蛛はカゲンの背中にまでよじ登って行く。


「あーもう、何だってんだよ」


必死に払いのけようとするが、このクモは粘り強い。


「副作用は?」


「人によっては、目眩を起こして気絶する作用がありましてなぁ」


「まぁ、いいわ。何とかなるでしょう。いくらかしら?」


「50,000パールだよ」


「え、なんですって」


カゲンは背中を本棚に押し付けて、クモを払いのけ様とした。


......ガタガタガタ。


蜘蛛はようやく降りたものの、背中を本棚に押し付けた拍子にいくつかの本をガタガタと落としてしまった。


「もう一人お客が紛れ込んでるみたいよ。Mr.ハット」


「そのようだね。それかもしや、悪魔がまた来客したか。......最近、増えているのだよ。ナイト通りは、よく変な者に好かれる。まったく、困ったものだよ」


「そうね。はい、これ」


彼女は、Mr.ハットにパールを差し出し粉を手にすると踵を返した。


「カゲン?!」


目の前にはカゲンがいる。驚いてしまった。


「ジュノ?!」


後ろ姿が優美な女性だとは思ったものの、まさかジュノだとは思いもしていなかった。思わず彼も驚く。


「どうやって来れたの? 黒い巣は、闇の神や薬の神、それから夜の神や暗黒の神、そういった神にしか来る事は許されないの。あなたの様な能力を持つ神は普通、来られないのよ?」


「......キュルキュルキュル」


すると、鳥の様な鳴き声が天井の方から聞こえて来た。


「なるほどね。っで......」


ふと、ジュノは本棚の方に目を向ける。


「本でも探しに来た訳?」


「伝えに来たんだよ。ヘルヘイム帝国の神がアムール国に......」


すると、ジュノはカゲンの口を塞いだ。


Mr.ハットは、こちらを奇妙に伺っている。


「いい、カゲン。この話は後に聞くわ。こっちも......忙しいの」


そう言うとジュノは本棚の方に行き、一つ一つ本の上部に指をかけていく。


「............あった」


すると、その《 光りからの防御方法 》と言う本をジュノは取り出すと片手で持って開いた。


適当に、一通り読むと素早く閉じた。


すると、その場で彼女は言った。


「Mr.ハット! これ、借りてくわ」


「光りからの防御について学習するなら、アネモイ学校で光りについて教えているライト•ノーノ先生に教わると良い」


「分かったわ。ありがとう」


「......出るわよ」


カゲンにそう言うとジュノは扉を開いた......。


 二人は店を出ると、共に歩き始めた。


すると、フェニックスはカゲンに着いて行くかのように背後を飛ぶ。


「それにしても、こんな街がアムールに潜んでいたとは知ら無かった」


「でしょうね。この街角は神と幽霊の間である霊神の者達の住処よ。

姿は幽霊だから彼らは普通の世界では昼間、姿を現す事が出来ないの。だから、この場所を夜の神が作り上げた。

この街角は深夜にしか開かれない場所だから、急がないと次の深夜まで元の場所へは戻れなくなるわ。............急ぐわよ」


 そして、二人は急ぎ足で進んで行く。


何処まで進んで行こうとも、所々で霊神達はさ迷っており、あちらこちらに闇の神や薬の神々にとっての便利屋が立ち並んでいた。


歩いて行く内に、いつの間にか二人は元の街に戻っていた。


 そこは、噴水広場。


噴水広場は黒い巣の境界である。

深夜の噴水は美しく煌びやかに輝きを放っていた。


その噴水にフェニックスは止まり、水浴びをする。


炎に包まれた体のフェニックスが水浴びをするなんて......カゲンは思わず口を開く。


「おいおい、大丈夫か?」


「いつもやっているわ」


そして、二人は噴水のすぐ近くにあるベンチに座った。


ジュノは膝の上に本と粉の入った小さな瓶を置く。


「ヘルヘイム帝国の神がアムール国に訪れたんだよ。そいつは不自然だと感じて、君に......」


「不自然? ......そうかしら。ヘルヘイム帝国は確かに死者の神達の縄張り。だから、アムールとは縁の無いように感じるかも知れない。だけど、悪い神とは限らないわ。ヘルヘイム帝国へ行ったアムール出身者は結構いるのよ?」


「うーん............何だか............眠たくなって来た」


そう言うと、ジュノはカゲンの肩に寄り添った。


そうして、それが冗談だったかの様に、にやにやとジュノは笑うと立ち上がり再び歩き始めた。


「そういう紛らわしいの辞めろよ」


カゲンはジュノの後を追うかのように歩きながら言った。


「ふふっ」


しかし、結局笑いで誤魔化される始末であった。

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