表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/22

居酒屋・ディオニューソス

 居酒屋・ディオニューソスでは、

酒の神のバッカスが忙しそうに客のワイン

グラスに酒を注ぎ、彼の下で働く屋敷の神のアスハ( 阿須波 ) はせっせと働いていた。


「ソーマ三本」


「アスハ。ブラッドワイン頼んだよ」


「かしこまりました。バッカスさん、ソーマ三本とブラッドワイン一本です」


「はいよ」


 バッカスは髭を生やした親父で、アムールが出来たばかりの遠く昔からここの店を経営している。


アスハは、日本らしいさらりとした顔立ち

をしている。


そういった顔立ちをしている神は、 アムール国では三分の一程度であり、三分の二は

はっきりとした顔立ちをしている者が多かった。


尊の国へ行けば、アスハの様なさらりとし

た顔立ちをしている者は数多く存在する。


ピアノの音色を優しく奏でているのは音楽の神、ヘリオスだ。


 ここは全てが木で出来た小屋であり、酒好きの神達はこぞってここへ通う。


中には、居眠りをしている者や酔っ払いながら、ぺちゃくちゃ喋っている者。一気飲みをして具合の悪くなった者。泣きながら愚痴を吐き 酒を飲む者。


客は、実に様々である。


ここには二階があり、二階は宿屋となって

いる。それも4部屋しかない小さな宿屋だが。


 ......ギー


客達が酒に酔って賑やかになっている

最中、木で出来た扉を開く音がした。


彼は、木の床板に足音を立てながら店の中

を歩いて来る。


「あーらー。カゲンじゃなーい」


彼女は、 ダーナ。 大地母神でダーナ神族の

母であり、火と かまどと生命と詩歌の女神

である。


その言葉を聞いた者達は皆、彼に注目をし

賑やかな雰囲気で彼を歓迎する。


「やー、カゲン。驚いたよ」


「最近の調子はどうだい?」


「最悪だよ」


彼は質問の要望にお答えした。


そして、マルタで出来たカウンター席に座ると言った。


「ソーマで頼む」


ソーマは、人間界で言うビールみたいな物

で この世界では無難な酒である。色は白

い。


バッカスはすぐさま慣れた手付きで酒を樽

から注ぎ、彼の前のカウンターテーブルに

それを置くと言った。


「今日はどうしたんだ、カゲン」


「見ろよ、この今の俺の無座間な姿を! 俺は戦いの神だ。戦いの神がダンベル一つ

持てない、そんな神......今まで前代未聞

だろ?」


「そうかもな」


バッカスはワイングラスを磨きながら言っ

た。


「いずれストーンは元通りになる。それま

で少しの辛抱だ、カゲン」


するとアスハが話に入り、こう言った。


「そうですよー。カゲンさんのファイヤー

ホース、ストーンが元に戻ったらまた

見せてください」


澄んだ瞳で彼はカゲンを見つめた。


「あぁ............喜んで」


少し疲れた様な口調で、彼はそう言うと

ソーマを一気に飲んだ。


彼の背後の方では、二人の女神が話してい

た。


「ねー、 ナーサティヤ。

今、私のバグナッツ食べたでしょ!」


「え?! 私じゃないわよー。

ダスラが自分で食べてたじゃないの

よー。

それに、私はこんな芋虫ナッツなんて食べ

ないわ」


「何よ! 姉さんだって前までは

美味しい美味しいって言って食べてたじゃ

ないのよー」


二人は瓜二つの双子の女神である。

いつもケンカをする程、仲が良いようだ。


 ............ギー。


扉が開く音がして、二人は扉の方に目を向

けた。


彼は、木の床に足音をゆっくりと起てなが

ら入って来る。


「やだ、エンデュよ!」


「どうしよう! 今日は髪セットしてない

の。こんな急に来られても困るわよ」


そう、 ナーサティヤは言いながら手鏡を見

て髪を手で整えていた。


「馬鹿ね、誰もあんたのことなんて見てな

いわよー。

私が う つ く し す ぎ て!」


確かに美人だが、二人とも同じ顔である。


瓜二つの双子であるのに、ダスラは何故か

いつも、姉よりも自分の方が美人だと思い

込んでいた。


二人が目に入ったエンデュは彼女達に話し

かけた。


「やぁ。 ダスラ、ナーサティヤ 」


「 “ハーイ! エンデュ” 」


二人は手を彼に振り同時に声を揃えた。


だが、彼は挨拶をするとカウンター席の方

に行ってしまった。


「彼、なんか感じ変わったわね」


そうナーサティヤが呟くと、二人は顔を見

合わせた。


「ストーンメルテッド兄弟が揃った

なぁ。ハッハッハ」


少しふざけた様な口調でバッカスは気さく

にそう言った。


「............ブラックアイワイン」


彼はクールにその一言を言うと、カゲンの

左隣の丸太に座った。


 ブラックアイワインとは、ブラックワイン

に何かの目玉をいくつかプカプカと浮かせ

たワインである。


その目玉の味は、独特な苦味もあるが

甘酸っぱいらしい......。

神達は皆、フルーツ感覚で食べている。


「それにしても、二人をそう呼ぶのは洒落

ていますね、バッカスさん」


そう アスハは客の食器を運びながら言っ

た。


「お前がここへ来るなんてな」


「......意外だったか?」


「いや、そう言う訳じゃ無いけど。

いつも部屋にこもってるイメージだったか

ら。」


素直に彼は思った事を口にした。


「そんな風に君に思われていたとはな......」


相変わらずクールな表情のまま彼は言う。


「いや、悪い意味じゃないぜ?!」


すると、居酒屋にいる全員が彼の方を振り

向き “うそだろ?” と言うような顔を浮かべ

ていた。


「いやー、そのー......」


そして彼は咳き込んだ。


「無理するな」


変なところでエンデュは気を遣った。


「はいよ。特製ブラックアイワインだ」


バッカスはそう言ってカウンターテーブル

の上にワイングラスを置いた。


 そこに、プカーっと浮かんでいるグリーンア

イの目玉を彼は指でつまみ上げて口へ運ん

だ。


口の中で弾けるこの独特な苦味と甘酸っぱ

さがたまらない。


 外面からは、けして美味しそうに味わい食

べている様には見えない。

やっぱり エンデュはポーカーフェイスだっ

た。


カゲンは、ずっとエンデュが食べる姿を見

つめていた。


「いっつも思うんだけど、それって うまい

の?」


「......あぁ」


そう言われ、カゲンはエンデュのブラック

アイワインに浮かんでいる目玉を指でつま

み上げて食べてみた。


「甘酸っぱくてうまーい! ......意外と」


 噂に聞いていたフルーツのような甘酸っぱ

さも確かにある。しかし、独特な何とも

言えない苦味を感じて彼は顔をしかめた。


「それは、子供のお前にはまだ早すぎ

る」


単純な性格のところが少し子供っぽい彼を

エンデュはからかってみた。


 すると、後ろの方でナーサティヤとダスラ

がクスクスと笑っていた。


「それ、言えてるー」


ダスラは、可笑しそうにそう言った。


その言葉を聞いたカゲンは、後ろをちらっ

と振り向いた。


「ダスラ、俺をいくつだと思ってるんだ。

5012歳だぞ? お前より2.5倍 生きてるんだ。からかうな」


「へ〜。5012年間もワインに浮かんでる

ただの目玉を怖くて食べられなかったん

だー。ふふふっ」


ダスラが可笑しそうに言うとナーサティヤ

も乗りが良く、カゲンをからかう事を楽し

む。


「ほんと、人間の3歳児と変わらないわ

ね」


二人は、カゲンをからかってクスクスと

また笑う。


「お前が変なこと言うから、またあの二人

に からかわれただろう」


「......ふっ」


エンデュは苦笑いをした。


 そんな中、ヘリオスがピアノで引いている優しいメロディーを批判している客がいた。


「おい、ヘリオス! またその曲か? いい加減飽きちまったよ。毎日毎日、その曲だとな」


この酔っ払い客は、暗黒の神であるエレボ

スだ。


 彼は人の外見はしておらず、骸骨の外見を

している。

服は鎧に身を包んでいるようだ。

彼のような神は、アムール国ではかなり

珍しい。


骸骨やサイボーグの外見をした神は大抵、黄泉の国や邪神がうじゃうじゃといる様な帝国を好み住んでいるのだ。


 すると、彼はピアノを引いていた手を止め

てその酔っ払い客、エレボスに言った。


「この曲は、ビーナス女王様がお気に召し

た曲ですよ? それに、ジュノだって......」


「言い訳はいいから早く別の曲を引いてくれよな! それにお前、ジュノとはもう終わっちまったんじゃないか。まぁ、無理もないよな。あんな闇を扱う美女が力を失っちまえばただの女だ女」


それは、カウンター席に座る二人にも聞こ

えた。


 二人はエレボスをその場で睨みつけながら

様子をうかがう。


「終わった訳じゃないですよ......。

ただ、今は上手くいかないだけです。

..................なんでこの事を知っているん

ですか?!」


「ジャックからの知らせだよ。

あのコウモリは、いつも誰かの不幸な光景

を見て楽しんでいる。俺みたいにな」


そう言うとエレボスは、木のテーブルの上

に置いてあったパリパリロッテンフィン

ガーチップスを食べる。


 その名の通り、腐った誰かの指をパリパリ

のチップスにしたものである。

誰の指かは不明だが......

おそらく、死刑となった神の死体をサイク

ルしているのだろう。


これを何のためらいも無く平気で食べてい

るエレボスの様な者もいれば、当然好んで

食べはしない者もいて、食べなきゃ余計

可哀想だといって食べる者もいる。


 そのエレボスを見詰めながらヘリオス

は、拳を握り締めた。




 カウンター席から見ていた二人は思った。


............もしかするとこの男は、ナキアよりもたちの悪い神かもしれない......と。


「あのコウモリか」


二人の近くにいたアスハはそう呟いた。


そして二人は、彼の方を振り向く。


「あのコウモリって?」


カゲンは即座に聞いた。


「時々、アムール国に侵入しては

元居た帝国へ戻って行くんですよ」


「......だからか。通りで、この辺の奴にして

は薄気味悪いと思ったよ」


すると後ろの方から鳥肌を立たせながら

ダスラは言い出した。


彼女のすぐそばにいるナーサティヤ

は、ソーマのおかげで爆睡中である。


「っていうよりキモいよキモい!」


すると、カゲンはすぐさま立ち上がり

彼女の口を抑えて言った。


「聞こえるだろ」


その間、エンデュはクールな眼差しでアス

ハに問いていた。


「............目的は?」


「さぁ......僕にはサッパリ」


「............そうか。他国の怪しい侵入者とい

い、不自然にあの遺跡にいたナキアといい............肌寒い予感がするな」


「あぁ」


共感するかのように、カゲンは言うとダス

ラの口から手を離した。


「......はーーっ」


彼女は息苦しかったのか息を大きく吐い

た。


「ちょっと、私を殺す気?」


「......悪いな、ダスラ。こいつはレディー

の扱いに慣れていない」


エンデュは、クールな口調で説明した。


「たしかに、それは共感できる」


アスハは、さらりと言った。


「なんだよそれ、どういう意味だ?」


「......」


エンデュは何も言わずに、ただにやけた。

そんな一面を見ると意外にも、彼は小悪魔

なのかもしれない。


 酔っ払うエレボスは、ふらつきながら

カウンターの方へ来る。


ふらふらしながらもちょうど、エンデュの

直ぐ左側で立ち止まると乱暴にパールを支

払った。


パールとは、神の世界で言うお金の事だ。


人間界では100円、1000円と言うように

神界では100パール、1000パールと言ってい

る。


「ほらよ、パールだ。

この店、ソーマだけは最高だな。

白光酒はまず過ぎて吐き気が......」


彼は、にやりと笑い 嫌味のような口調で

バッカスに向かってそう言った。


 白光酒とは、この世界の最大限の光の力を取り入れた美しくきらびやかに白く輝く酒である。


だが、この酒はソーマの様にどこでも好き

な時に手に入る物では無い。光の力を操る

神が酒の神と酒を作る契約がなくては白光

酒を作る事が出来ないからである。


そんな貴重な酒をエレボスは “ まずい ” と

言ったのだ。


「そうかい、所でそんなに乱暴にパールを

扱ってると大黒天に罰せられるぞ」


 大黒天とは、尊の国に住む七福神のうちの

一人で金銭の神である。


最近では、神の世界でも人間界と同様

パールを乱暴に扱ったり、パールを盗むな

どのトラブルが急速に増えていた。


それを、減少させるためにその者を罰せる

制度が出来たのだ。


その仕事を担当する神が、金銭の神の大黒

天なのである。


「今週でもアムールでは二人罰せられたそ

うだぞ。お前さんも気を付けなぁ」


「......」


しかし彼は無言でバッカスを睨みつけると

酒に酔った体をふらつかせながら店を出て

行った。


 ソーマの飲み過ぎで寝ているナーサティヤ

以外の客は皆、エレボスが出て行った姿を

警戒するかのように見詰めた。


すると、空気を全く読めないカゲンはこう

言い出した。


「このアムールで二人もだって?!」


「カゲンさん、新聞読まなかったんです

か? 愛に溢れたこのアムール国です

ら、パールを大切にしなくて大黒天様に罰

せられた神がいたんですよ。

......正直、僕でもこれには驚きました。

えらい時代になりましたよね......」


アスハがそう言ってカゲンの話相手になっ

ている間にも、エンデュはずっとエレボス

が出て行った扉を見詰めていた。


「..................あの鎧............恐らくユグドラシルのヘルヘイム帝国の者だろう」


そうエンデュが呟くと、バッカスは言い出

した。


「ヘルヘイム帝国、エレボスは死者の国の

神か......。そう言えば、お前さんの兄君も

ヘルヘイム帝国の神だったよな」


「............え?」


 確かに、兄がいる事は知っている。

部屋に飾られたあの写真が物語っていた。

しかし、思い出せないのだ。



自分の兄なのに......思い出せないのだ。



「え? って、そうだったじゃないか。

いい神なのになぜ帝国になんぞ行ってし

まったのか謎だよ。死神なのだから、仕方

が無いと言えば仕方が無い事だったのだろ

うがな」



 その後も彼は何度も思い出そうとした。


だが結局、思い出すことは出来なかった。



 二人は店を出ると夜道の中、自宅へ向かいながら話していた。


「............あの事は、ヴィーナス女王に話しておいた方がいいだろう」


「あの事って?」


早速カゲンの天然ボケが始まったが、エン

デュは優しく説明した。


「ったく、お前は......。エレボ

スだ。...... ヘルヘイム帝国の者がアムール国に来るなんてどう考えても不自然だと思わないか? あれは、ジュノにも知らせておいた方がいい」


「お、俺が? ヘリオスに言えば良かっただろう」


すると、エンデュはカゲンの方に顔を向けると無言でただ、見詰めた。


「わ......分かったよ」


「........頼んだぞ」


そう言って、カゲンの背中を一度叩くと彼は一人自宅へ向かって行った。


「なんで、俺が......」


文句をたらしていると突然、不死鳥のフェニックスが姿を現し、動物の神のアルの小さな家の屋根の上に止まった。


姿は炎に身を包んでおり、火の鳥とも言えるであろう......。


フェニックスは、じっとこちらを見詰めてくる。


「何見てんだ」


 すると、フェニックスはカゲンの目の前に降りて来ると、ついて来いとでも言うかの様に何処かへ飛んでいく......。


カゲンはこうしては入られず、フェニックスを追った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ