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自分の好きなジャンルがごちゃ混ぜになってます。
今回は怪獣グラビトンとの最終決戦ですが思っていたより長くなりました。
しかも次回に続きます。
あと1、2パートで一章は完結します。なので今月中に一章は完結です。
(2014/06/01 加筆しました。バトルはこのパートで決着が着きます。
加筆部分は <ジュニの行動は素早く、そして的確だった。> からです)
今回は最初から大型二輪車を沈下島の街まで進入させる。前回と違って偵察任務ではなく、怪獣の排除が目的だからだ。
『派手に壊れていますね……』
先の戦いで幻想的であった海底の街並みは崩れ、今は瓦礫の山が広がるばかりだ。
「別の場所にある廃墟は無事だろうから観光はそこに行ってもらうしかないな」
無責任だが、大助に修復技術は無いしこちらも命がけであった。
「こちら香菜。そちらの状況はどうですか?」
上空で待機しているヘリコプターから通信が入る。
「こちら大助。今のところ何も起きていない」
『なんだか不気味ですね……』
ジュニが呟く。
「こちら大助。しばらく辺りを走りまわってみようと思う」
「こちら香菜。わかりました。こちらも影を見かけたらすぐに連絡します。通信チャンネルを間違って切らないで下さいよ」
「こちら大助。ジュニがいるから心配ない」
大助は海中が響くようにエンジンを入れた。数分走ったがグラビトンが現れる気配はしなかった。
大型二輪車の速度を緩める。
『ソナー、放ちます』
用意してきた機能の一つを使う。ソナー機能は武装ではなく、追加オプションだ。
『――心音確認! すぐ左で』
ジュニの言葉が終わらない間に大助は真横に吹き飛ばされた。左脚は潰され、折り畳み斧と左側面に固定してあった水中銃が砕け散るのがスローモーションのように映る。大助はえぐったはずの怪獣の鼻先が完治されていることに気が付いた。
「――――」
通信が入るがノイズが酷く聞き取れない。
怪獣グラビトンは大助に体勢も立て直す間もなく追撃をかける。巨大な尾が真上から振り下ろされた。衝撃で砂埃と瓦礫が大助を中心に広がる。
怪獣が尾を振り下ろす僅かの間に大助はハルバードを構え、これを受け止めた。
大型二輪車が朽ちたアスファルトに沈みこむ。左腕一本で受け止めたため衝撃を逃がしきれず指が動かせくなった。
グラビトンは尾から伝わる感覚で大助がまだ存命だと知る。身体を器用に捻り、尾の横腹で大助を弾き飛ばした。今度も車体の左側にダメージを与える。
(間違いない。あいつは学習している……)
崩れたビルに向かって高速で叩きこまれる中、大助は思考を回転させた。
(まずはこの追撃から逃れなくければチャンスはない! ――ジュニ!)
意識会話でジュニに呼びかける。優秀なサポートAIは名前を呼ばれた一言でパートナーである機械人間の意図を正確に察する。
大助は右腕、胴体、右脚に力を入れ車体を海底と水平にする。ジュニはそれに合わせて追加武装の《カタル・スパゲティア》を噴射した。吹き飛ばされる大助の跡を追うように煙幕が伸び、大型二輪車がビルに直撃するとその衝撃で爆発するように広まった。
煙幕はグラビトンがちょいと身体を動かせばすぐに晴れる。それに熱源探知機能がある彼に目くらましは意味をなさない。
以前のグラビトンなら鼻で笑っていただろう。だが学習した彼に侮りはない。
グラビトンは煙幕から距離をとり、近くにあった瓦礫に次々と尾をぶつける。発射された瓦礫の行く先はもちろん煙幕の中だ。
大助は瓦礫が飛んでくるのがわかっても煙幕の中を動かなかった。
身体に密着した特殊スーツのおかげで骨格パーツが体内から飛び出る事態にはならなかったが、左脚は粗大ごみの島に戻り丸ごと交換しなければならないだろう。左指の筋肉はこの場で自己回復できそうだった。
《マジックロープ》で大型二輪車と身体の固定する。飛んでくる瓦礫はジュニに任せた。探知機能によって判別し、追加してきた水中用武装《神・皇帝》によって打ち砕いていく。
前輪の両サイドに展開された《神・皇帝》は丸まったグローブのような形をしており、大砲のような威力で飛んでくる瓦礫を迎撃する。破片が粉々になり大助に破片が刺さることはない。
瓦礫を数発打ったところでグラビトンは違和感を持った。
煙幕を張った後に移動しないのは不自然だ――
彼の直感は当たっていた。《カタル・スパゲティア》は事前の作戦会議で決めていた合図だった。
上空のヘリコプターから借りてきた網を投入された。
香菜は複数の僚機カメラを操作し、網を広げグラビトンを覆う。流石に怪獣を捕らえるほどの大きい網はなかったが、今回は頭の動きを封じるためだけで良い。
グラビトンは自分に向かってくる網に気づいた。彼の中で網とは矮小な魚共を捕らえる顎、という認識しかなかった。
網と接触する前に尾を振り上げ、操作のため網の端に付けられていた僚機カメラごと吹き飛ばす。
その僅かに意識が逸れる瞬間、大助は煙幕の中からグラビトンに向かって飛び出した。
だが怪獣は余裕をもって飛び出してきた大助を見つめた。グラビトンの隙をついて攻撃するのにはあまりにも拙い作戦だ。
意識を大助に移したことで思わぬ反撃を受けた。
網が生きているかのようにグラビトンに絡みつき、鼻先から首筋あたりまでを覆った。網から閃光が瞬いた。
「――‼」
サルベージ組合から借りた網はただの鋼製繊維で編まれた漁業用のものだ。
その鋼製の網に粗大ごみ島にいた電気スライムを染み込ませた。そうすることで意思を持った電気網になったのだ。
電気スライムは自分たちが攻撃されたと認識し、怪獣を敵だと考えた。今度こそグラビトンは意表をつかれる形となる。
飛び出した大助は《マジックロープ》発射してグラビトンの巨体に当てると、そのまま怪獣を中心に反時計回りで大型二輪車を走行させる。
『《マテリア・アイス》、展開』
大型二輪車の右側面やや後方からサーチライトが現れ、大型二輪車越しにグラビトンにライトを向ける。
パッ、と水色の光が怪獣を照らした。
《マテリア・アイス》は動く個体に光を当てることでその物体をフリーズパックする武装だ。個体の運動が激しいほど、より強力に冷凍される。
怪獣の頭上を覆う電気網の上から冷凍されていく。上半身を凍らせながら《マジックロープ》は下半身を繭状に巻き付けていく。
……怪獣の動きが止まった。
「こちら香菜。生きてたカメラでそちらを見ています。作戦は成功ですね」
「こちら大助。麻酔系じゃダメだって言うから《冷血機》を持ってきたけど、出番がなかったよ」
『いい加減に冷凍装備嫌いを直してください』
大助は運転を続けていたが《マジックロープ》と《マテリア・アイス》は既に大型二輪車に収納していた。
「あとはサルベージ組合の連中になんとかしてもらおうか。見世物になるのは……まぁ仕方ないな」
大助が握っていたハルバードを背中のアタッチメントに戻す。
「先輩? どうかしました?」
「う~ん。何か足りないような……」
ヘリコプターの会話が通信を通して聞こえる。
「どうかしたのか? 麻酔は必ず克服されるからってアポロが言ったんだろ。だから嫌々《冷血機》を装備してきたんだぞ」
『少し黙ってください』
ヘルメット内部のモニターにジュニの姿が現れた。コミカルな青筋がくっついている。
「いや、だって怪獣映画といえばさ……」
アポロが何か言いかけると背後で電線がショートするような音が響いた。
『急激なエネルギー変化! あの怪獣内部からです‼』
――無音が爆発した。
態勢を立て直した大助が見たのは、口周りが焦げ、眼は怒りに燃えている絶対君臨者の姿だった。
グラビトンは頭部の自由を取り戻すと身体を激しく振り、こべり付いていた氷と《マジックロープ》を引き剥がした。
口元の焦げはその回復力をもってみるみると修復されていく。
大助はアクセルを捻った。
グラビトンが口を大きく開くと泡とバーナーの火炎が噴き出る。大助が先ほどまでいた場所数メートルが熱で溶解された。
おそらく体内に溜めた酸素を使用して海中で炎を吹きだしたのだろうが……。
「これだよ! これ! やっぱ怪獣はこうでなくちゃ!」
「先輩は黙ってください! すみません! こちらもカメラがやられました!」
大助には通信の声が聞こえていなかった。細心の注意を払い、次々と発射されるバーナーから逃れようと集中していた。
ジュニは大助の集中とは別に行動をしていた。探知機能で怪獣の位置を確認する。
怪獣は海面に近くなければ、深いところにもいない――つまり海面からの攻撃は届かず、近接武器を届かせるには海中を飛び上がらなければならない――場所に留まっていた。
遠距離にも対応した《マテリア・アイス》と《マジックロープ》はバーナーの炎の前には無力だ。《重力圧縮砲》は海中では十メートルも飛ばせず、未使用の《冷血機》は近接武装だった。
陽が沈むまで時間がない。撤退しようとしても昼とは違ってほとんどの武装を無力化された今、逃げ切れる自信がなかった。
『グラビトンに届くようなジャンプ台の代わりになる物は周囲にありません。煙幕に撃ち込んだのは瓦礫を遠くに飛ばす目的もあったのでしょう。残っていた瓦礫は今もバーナーで溶かされています』
(打開策は――)
大助の思考を打ち消すように怪獣が先に動く。
火炎放射を止めると今度はグラビトンが距離を置き、大助を中心に泳ぎ出す。
(ま、まさか――)
段々と怪獣の遊泳スピードが増していく。それに従って大渦が形成される。
ジュニが《分子チェーンソーの槍》を地面に打ち付けて大型二輪車を固定する。
だがグラビトンはそれも学習していた。
彼は先に飛ばされた瓦礫の上を遊泳し、大渦によって瓦礫が巻き上がるように計算していたのだ。
大渦の内縁から次々と瓦礫が発射される。前輪に再度展開した《神・皇帝》では背後からの攻撃に対応できない。
『熱源増大! 火炎が撃たれます!』
大助は背後に熱を感じた。
ジュニの行動は素早く、そして的確だった。
地面に撃ち込めた《分子チェーンソーの槍》を軸に車体を反転させながら《重力圧縮砲》を展開、拳大の大きさがある重力加重点を発射した。
直進していたバーナーは運動の方向性が歪められ爆発を起きる。
大助は視線パネルを操作し《カタル・スパゲティア》を噴射させた。
グラビトンは自分の放った攻撃が途中で爆破されても冷静さを失ってはいなかった。
――爆発はあの黒い生き物の前で起こり、ダメージは自分より黒い生き物の方が大きいだろう。煙幕を張ってまた回復を計るつもりか、それとも爆発を利用して海面へと飛び出るつもりか――。
グラビトンの予想は当たっていた。的中したのは後者の考えだ。
煙幕の尾を引きながら爆発地点から海面へと急上昇する物体がある。
グラビトンはその物体に狙いを定め、顎を開いた。バーナーを放つための余分なエネルギーがスパークとなって怪獣の巨体から放出される。
大助は海中であっても特徴的に響くスパーク音を聞き取った。左腕を振り煙幕を晴らす。
大量の空気泡が吹き出し、バーナーの発射直前段階まで進めていたグラビトンの思考は空白になった。
大助は爆発を利用して飛び上がった。だが怪獣と同じ目線にいるのは大助だけだった(・・・・・・・)。
――下半身はどこだ⁉
ジュニは大型二輪車を操作し、怪獣がスパークを生じさせると同時に煙幕の中から飛び出していた。
大型二輪車の重量と杭代わりにしていた《分子チェーンソーの槍》で場に留まり、爆発によって熱源探知が機能しなくなるこの時――怪獣が煙幕の尾を引いて飛び上がる大助に意識が逸られる瞬間を狙っていたのだ。
グラビトンは前方方向には速く泳げても後方に向けて泳ぐには巨体の向きを変えなければならない。前回の戦闘でグラビトンの腹の下を走ることに成功したのがその証明だった。
大助が大型二輪車から離れた今、海中によって《重力圧縮砲》を制限するものはなにもない。
重力加重点によって海水の圧縮力が機械人間の強度を超える心配をすることもなく、廃墟は跡形もなく消し飛んでいたし、生物も戦闘が始まった途端にこの場から逃げ出していた。
グラビトンはこの二戦目が始まって初めて焦った。
バーナーの発射を直前で止めた影響で体の筋肉は一瞬硬直していたし、上と下、どちらに狙いをつけるか判断に迷いが生じたのだ。
彼に“機械人間とその大型二輪車”という概念はない。ただ単に自分に傷を負わせた“黒い生き物”として一匹の生物だと認識していた。
勝敗が決した。
生存競争に勝ったのは人間の側だった。
大助は左腕を引き絞るとハルバードを目の前のトカゲ(・・・)に向かって投げ、ジュニは《重力圧縮砲》を放った。
本来、機械人間の腕力で投げられたハルバードとはいえ、グラビトンには有効な攻撃とはならない。しかし、パニック状態であれば集中を乱すには十分効果的だった。
ハルバードは海の絶対君臨者であった者の左眼を切り裂いた。だがグラビトンはそれに構わず大型二輪車に向けて顎を開く。
しかし《重力圧縮砲》が放たれる方が早かった。発射したのは半径三十センチメートル程のもの。ジュニは《重力圧縮砲》を撃つとすぐに格納し、入れ変わるように《神・皇帝》を展開させる。
(それで十分)
(目的は怪獣の間近で爆発を発生させる――)
ジュニは《分子チェーンソーの槍》を支えるアームを操作し海底を蹴り上げる。車体が縦に回転し、前輪が海底を向くと《神・皇帝》を打ち付けた。
怪獣に向かって車体の尻を向けながら迫る。グラビトンの腹に《マジックロープ》を発射し、強引に車体の向きを変え、前方を向ける。《分子チェーンソーの槍》の位置がやや下がり、その上に長針の冷凍武装、《冷血機》が展開された。
ジュニの正確な操作により腹部の鱗の隙間に《冷血機》が刺し込まれる。
グラビトンは身体から力が抜けていくのを感じた。
《冷血機》は体内部から筋肉と血液が冷凍させる効果を持ち、《重力圧縮砲》と同じく絶対兵器と呼ばれるカテゴリーの一つだ。
グラビトンの巨体が沈みゆく。
大助はグラビトンの右眼と目が合った。
感傷は抱かなかった。
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発見しだい随時修正していく予定です。