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自分の好きなジャンルがごちゃ混ぜになってます。
1章後半です。主に怪獣とのバトル。
1章の5-1と5-2は流れを切りたくなかったので続けて投稿します。
今月中に一章は完結する予定です。・・・あくまで予定。
(追記:2014/05/29 5-1と5-2は一つにまとめました)
「ちょっと⁉ 策もないんですか!」
悲鳴のような香菜の声が通信を通して大助に聞える。
百九十センチ台の大助と三十メートルもある怪獣との差は歴然だった。
「一撃離脱だ! あいつを張ったおす装備もないからな!」
大助は斜めに倒れたビルを勢いよく駆け上がり、飛び出す。
怪獣に向かって斧を振り上げたが、大助の姿を見てとった怪獣は泳ぐスピードを増し、斧を振り下ろすタイミングがずらされた。
海獣はそのまま大助を鼻先で押し付け、海中を縦横無尽に振りまわす。
(くそったれめ!)
大助が左腕を動かし斧を使って鱗の一部を剥ぎとった。そこに斧の刃先をえぐり込む。
「―――――‼」
海獣の叫びが海を振るわせる。足に棘が刺さったような感覚だろう。
怪獣の遊泳から解き放られ、大助は《マジックロープ》を大型二輪車から適当なビル群に発射させ水中に一本の道を作った。
『ダメです! 気づかれました!』
だが冷静さを取り戻した怪獣が建造物のような尾を振るうと《マジックロープ》はバラバラに千切れ、大助は大型二輪車ともども海中に発生した渦に動きを捕らえられる。
生じた渦の中で止まった大助に怪獣は再び突進を開始する。だが今度は横からの攻撃ではない。
海底に向かって大助を押し潰すための突進だ。
三十メートルもの巨体が廃墟のアスファルトに突き刺さった。遅れて砂埃が舞い上がる。
海が濁り、海上のヘリコプターからでは大助たちの姿は確認できない。
「どうなったの⁉ あの機械人間死んだ⁉」
「ちょっと、落ち着いてください先輩っ! 通信回線は繋がっていますから大丈夫です!」
「まだくたばってないのね⁉」
「先輩ちょっと言葉が雑ですよ!」
砂埃が晴れた海底では《分子チェーンソーの槍》を地面に打ち付け、両手で斧を持ち怪獣の鼻先を抑えている大助の姿があった。
『逃がしません!』
そして怪獣の鼻先には粘着水の《マジックロープ》がアスファルトやビルに絡みついてとりもちの役目を果たしていた。怪獣の動きを制限される。
「ジュニ!」
『ええ!』
一言の意識会話は一瞬にも満たない。その中で互いの考えを共有する。
大型二輪車の最大威力武装の一つ《重力圧縮砲》が解放される。
簡単にいえばブラックホールを形成するこの武装は射程距離こそ短いが、触れるものすべてを消滅させる絶対兵器だ。近距離で使用できるのも機械人間の強度があってこその代物であるが、海中ではさらに制限がかかる。瞬間と呼べるほどの時間も使えないだろう。
そして《重力圧縮砲》が放たれる。刹那、海中に反響していた音がすべて消えた。
《マジックロープ》ごと消滅し、怪獣の鼻先の肉が鱗と共に半径一メートル程の球状にえぐれていた。大助はえぐれた箇所に斧を叩きこむ。肉と体液が海中に撒き散らされた。
「―――‼ ――‼ ―――――‼」
大助は数秒の時間もかけずに斧を畳み、左太もものベルトに固定させる。ハンドル握り直しアクセルを最大限に捻った。
そのまま反転し離脱行動を開始する。
『こちらジュニ! 今から丘に戻ります!』
怪獣が痛みで暴れまわる。その影響で崩れる廃墟や乱れる海流をいなしながら大助は大型二輪車の速度を落とさず走り抜ける。
だが怪獣も怒りを思い出すのにそう時間はかからなかった。
大助は背後に悪寒を感じた。
「飛んで!」
通信にアポロの一声が入る。ジュニの素早く行動に移る。この環境で海面まで飛び出せるルートを計算した。ヘルメット内の画面にルートが表示される。
大助はヘルメットの下で口角を上げた。
(朝も含めると三度目だ。先二回は上手くいったけど今回はどうかな)
(でもここで終わるつもりもないんでしょう?)
「もちろんだ! 愛してるぜ、ジュニ!」
『私は愛想が尽きました!』
そのルートは怪獣の腹の下を抜け、今日何度もしたようにビルをジャンプ台として飛び出す道を示していた。
ジュニは展開していた武装をすべて格納した。
大助は前輪に急激なブレーキをかけ車体を反転させる。そのまま勢いは殺さず、一息でトップスピードに持って行く!
怪獣は意表をつかれた。
そいつは動物的にだが知能は高く、逃げてきた(・・・・・)先で今度も同じ目に合うとは思ってもいなかった。
そいつは絶対君臨者だった。
だが数日前に突如して自分の縄張りに小さい生き物が現れた。そいつは縄張り争いに負け、惨めに逃走したのだった。
ここで逃げれば君臨者の誇りも完全に失い、弱者になった自分には二度と安息は訪れない――そいつはそんな風に考えていた。
廃墟の大通りに出ると大助はこちらに向かってくるその巨体を見た。
ビルの間を一直線にこちらに向かってくる。まるで大助以外を見ていないようだった。
機械人間は怪獣と違って冷静だった。玖賀財閥の代行者として――機械人間は焦るということを知らない。そのような機能は彼らに搭載されてはいなかった。
大助は大型二輪車のハンドルを左に、進行ルートから少し外れ、直角に曲がった。
怪獣も釣られるようにして頭部を動かした。そして血が上っていたのが仇になった。
怪獣はビルの一つに頭から突っ込み、ビルが地鳴りをたてて崩れる。
その隙をついて大助はジュニがジャンプ台にと計算したビルを駆け上がった。背後で怪獣が崩れたビルから抜け出た気配を感じた。
振り返ることはせず、前方だけを見る。
――大型二輪車が海面に飛び出した――
――追って下から黒い影がせり上がってくる――
――上空のヘリコプターに向かって《マジックロープ》を発射する――
――鯨のように海面から怪獣が飛び上がった――
――《重量圧縮砲》は間に合わない――
そしてヘリコプターから影が一つ飛び出した。
「はぁぁぁああああああああああーーーーー‼」
アポロが一メートルほどある細身の十手を二つ、両手に持って振り抜いた。
剣気を纏った十手は、怪獣の巨体に打ち据えられる。アポロの倍以上あるその身体は真横に吹き飛んだ。
巨体が海面に倒れた衝撃で高い水柱があがる。
「先輩!」
香菜の声に我を取り戻したジュニは《マジックロープ》を射出し、宙でアポロを捕らえた。
一息つくと大助が《マジックロープ》を手繰り寄せアポロをヘリコプターの内部に放り込む。
「ふっー。 どうにかなったね」
通信から変わらず陽気なアポロの声が聞えた。
「先輩は無茶しすぎです!」
「えー、でもみんな生きてるからオッケイでしょー」
言い争う声にジュニが言葉を差し込んだ。
『ありがとうございます。助かりました』
「いえいえ、どうもー。あれぐらいならあなたたちも切り抜けられただろうし、余計なお世話かと思ったんだけど……」
「いや、助かったよ」
装備が整っていたならともかく、さっきは危ないところだった。
「ですがこれでグラビトンも警戒を強めたでしょう。次も上手くいくかどうか……」
香菜の真剣な声には悪いが大助は一つ気になった。
「グラビトン?」
「あの怪獣の名前です。名前がないと何かと不便でしょう?」
「……」
『香菜さんはしっかりした人かと思いましたが……意外な一面を持っていたんですねぇ』
「えっ? え?」
通信からの音声だけでも香菜が狼狽えているのがわかる。
「二人ともごめんね……。この娘はこれで真面目なのよ」
アポロがしみじみと言った。
「どういう意味ですかーっ⁉」
海中では上空で笑い声がするのをそいつ――グラビトンと名付けられた怪獣は聞いていた。
えぐられた鼻先は既に完治しつつある。通常の生物としてはありえない速さだ。
そいつの頭の中ではぐわん、ぐわんと先ほどの出来事が反芻されていた。
やがて笑い声が聞えなくなるとグラビトンも深い海底へと潜る。
あの生き物はまた来るだろう。その時は――。
こうして大助たちとグラビトンとの一戦は終わりを告げた。
次に相まみえるときは近く、両者とも油断はないだろう。
そして、戦いの決着が着く。
誤字・脱字が多々あるかもしれませんがご容赦お願いいたします。
発見しだい随時修正していく予定です。