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自分の好きなジャンルがごちゃ混ぜになってます。
黄金週間前になんとか投稿。
太陽が真上に登りつつある中、巨人退治が終わり保志大助は島にある整備施設へと戻った。
設備施設の外見は潮風で痛み、波止場の倉庫を思わせる。大助は二輪車から降り、施設のガレージを開け中へと入る。内部は煤汚れているが使用する分には問題ない。
二輪車にケーブルを繋いで動力源である重力電池を充電する。サポートAIの本体であるプログラムボールを二輪車から取り外し、二輪車をクリーニング機械にセットした。海陸両用で海底に放置されても三百年は劣化を防げるが、まめに整備しておくことにこしたことはない。
整備施設には簡易のものだがトイレとシャワー室に台所、仮眠室がある。島の中には宿泊施設もあるのだが、大助は整備も済ませられるここが気に入っていた。
二輪車の整備はジュニに任せたあと、シャワーで汗を流し終え、ラフなシャツに着替える。食事に取りかかった。
機械人間に食事は本来必要ないのだが“人間らしい”と理由で大助は食事をすることを好んだ。
合成米と街の市場で買ったかぼちゃを煮っ転がしにしておかずにする。煮っ転がしは余分に作り、ミニ冷蔵庫に保存した。米とおかずを皿に盛り付け、水道水を入れたコップをプラスチックの折り畳みテーブルの上に置く。食事の準備は完了だ。
『料理が趣味と言いながら、レパートリーが少なすぎます。飽きませんか?』
無線で整備機械を操るジュニがホログラフで呆れた表情を作り大助に声をかけた。
「他の食べ物を知らないんだ。成人用の料理レシピなんてインプットされてないし。玖珂にいたころはやけに歯ごたえのあるチューブゼリーで間に合っていた」
『まぁ、そうですけど』
大助のレパートリーは回収した廃品の中に紛れ込んだレシピから知識を得ている。この時代、野菜は機械の箱の中で育てられるが、調味料を整えれば意外と美味くなるものだと大助は学んでいた。
機械人間及びサポートAIの開発者は料理レシピの代わりに兵器の扱い方やサバイバル知識、赤ちゃんのあやし方、宴会ジョークをインストールすることを優先した。
ただ全ての機械人間とサポートAIに同様の知識がインストールされたため、大助は現在までインストールされたジョークを使用したことはなかった。ネタを知っている人に使うほど虚しいジョークはない。
大助が食事をしていると島の感知システムがジュニに来訪者の存在を告げた。
島全体のコントロールはジュニの管理下にある。玖珂財閥を襲撃した組織を警戒してのことだった。
『人間の子供が一名、島の関門の前に来ています』
大助が壁に掛けられた時計を見る。
「この昼時にか? 誰だ?」
『悠一君です。体温が上がっています。自転車で相当スピードを出してきたようです』
「今日は平日だろ。あいつ、小学校を抜け出してきたのか?」
師走事件によって襲撃された教育機関は主に中等部と高等部がある学校だ。
襲撃グループの目的は潜在している異能力者の炙り出しだった。
『どうしますか? 午後は冷凍ビーム装置を背負ってスライム退治をする予定がありますが』
「すぐに通してくれ」
即答する大助。過去に任務で暴走した巨大冷凍庫と対峙して以来、彼は冷凍兵器を苦手としていた。
食事を済ませて皿を洗っていると自転車のブレーキ音が響いた。
「大兄ぃ、大変だ⁉」
自転車のスタンドもかけずに悠一が大助に駆け寄る。遅れて自転車の倒れる音がした。
大助は汗だくの悠一にコップを渡した。
「物は大事にしろよ。自転車が倒れたぞ……。とりあえず落ち着け」
悠一は水を一気に飲み干す。
「ぷはっー! 生き返ったよ!」
悠一は特徴のない小学生の男子だった。今日は夏に合わせて半そで短パンの格好だ。たまに彼を背景と間違えそうになることが大助とジュニの共通の認識だった。
悠一自身、この島に最初にやってきた理由が「自分の探しの旅」だと言っていたから本人にも自覚はあるのだろう。大助と悠一との交流はそれからだった。
大助は飲み干したコップを悠一から受け取り用件を尋ねた。
「海に怪獣が出たんだ‼」
大助とジュニはお互いに顔を見合わせた。
「こーんなでっかいのがジグザグの牙でカメラが写真を撮ったんだだって!」
悠一の説明は要点が不明で、内容を把握するのには困難だった。
悠一にしてみれば何故伝わらないのか疑問だったし、大助とジュニは子供という生き物に論理を求めるという間違えを起こしていた。
長い時間をかけて互いの理解をすり合わせると、悠一も詳しくは把握していないことがわかった。そしてその生き物を何とかするために彼の父親が大助の力を借りたいのだそうだ。
『わかりました。悠一君のお父様に直接説明を聞きましょう』
ジュニがまとめ、満場一致で可決された。
大助は特殊スーツに再度着替え、整備の終わった二輪車にAIのプログラムボールを取り付けた。
大助は念のため折り畳みのハルバードを確認する。
ハルバードは伸ばしても折り畳み傘ほどの長さしかないが、とにかく頑丈で、落ち天井をに潰されそうになった時以来ずっと大助の標準装備だ。
折り畳みハルバードのを左の太もものベルトにつけると二輪車の武装の一つである粘着水のロープ、《スパイダーフック》で悠一の乗って来た自転車を車体の後方に固定した。
切断には弱いが引っ張られる力には強いこの装備は廃品回収にとても役立つ武装だ。
大助はガスや戸締りを確認してから悠一に市販のヘルメットを渡し、背中に乗せた。大助もヘルメットを被る。
「一人乗りでスペースがないんだからあまり暴れるなよ」
「だだだ大丈夫だよ! へっちゃらでち!」
『噛みましたね……。子供が乗っているので人体が吹き飛ぶようなスピードは大助も出しませんよ。そうですよね? 大助』
「当たり前だろ。ところで何キロまで人間って耐えられるんだ」
『バイクで時速五百キロを出した記録もありますし、その辺りですかね』
悠一の顔が青ざめた。彼は生身の人間で今日は軽装だ。
「お家帰るっ!」
「今から帰るんだって」
悠一が二輪車から降りるのを大助が止める。
『少しからかい過ぎましたね』
「安全運転をするから平気、平気」
「……本当に?」
大助は力強く頷いた。
「念のために悠一の身体も固定しておこう」
《スパイダーフック》で大助と悠一の身体を固定する。安心したのか、悠一は固くなったからだから緊張が解けた。
『遊園地という施設にある速度を楽しむアトラクションは時速九十キロから百キロは出るそうです』
「オーケィ」
逃げようにも逃げられない悠一は舌をかまないよう、腹痛時に祈る神さまを思い浮かべた。
大助とジュニは絶叫マシンには身長制限があるということを当然知らなかった。
誤字・脱字が多々あるかもしれませんがご容赦お願いいたします。
発見しだい随時修正していく予定です。