6
自分の好きなジャンルがごちゃ混ぜになってます。
週一予定の不定期更新ですがどうぞよろしくお願いします。
予定なのでたまに早かったり、遅かったりします。
バトル回・・・バトル回?
時間は少し遡る。
大助が街でマンションや家のポストにチラシを配っていると自転車に乗った悠一の父親に会った。
『こんな炎天下の中、どうしたんですか?』
「お二人を探していたんです」
『私たちを?』
「ええ。実は数日前に海底に氷漬けされたグラビトンが消えたんです」
二人は詳しい話を聞くためサルベージ組合本部に案内された。
「消えたってどういうことですか」
言いづらそうな悠一の父親の変わりに大助が口を開いた。
「言葉の通り、影も形もなく一晩のうちになくなったのです……」
『それが私たちの仕業だと?』
「えー……。はい。組合の一部ではそんな憶測もされています……」
大助は椅子の背に体重をかけ、天井に向かって大きく息をついた。
「形式上聞かないわけにもいかなのですが……保志さんの仕業ではないですよね?」
『違います』
「ええ。やってないです」
悠一の父親から肩の力が抜けた。
「私があんなことを言った後だからお二人に気を使わせたのかと……」
「……」
悠一の父親が言葉を続けた。
「私は正直あの怪獣が見世物にならずに良かったと思っています。でもいったい誰がこんなことをしたんでしょう」
ジュニが意識会話で大助に呼びかける。
『もしかして兎槍さんから送られてきた情報の……』
「可能性は高いが確証もない。決めつけて動くと致命傷になりかねないぞ」
『そ、そうですね……』
ジュニが焦る気持ちもわかる。
テロ組織として扱われているクリーミィ・フレンズの幹部、現在なおも逃走中のミスター・ポンドの仕業だとしたら怪獣の時のように万事上手くいく可能性はとても低いだろう。
「それでは玄関までお送りしますよ」
「いえ、ここでいいですよ」
大助が断ると悠一の父親は微笑んで言った。
「いえ、しばらく顔を見てなかった息子が着替えを届けてくれると妻から連絡がありまして」
『それは良かったですね』
「博物館建設も中止となるでしょうし、やっと家に帰れますよ」
そして現在へと繋がる。
コアは街を囲う壁面へと向かって飛んでいた。
『おそらく被害を出さないためでしょう』
箒で空を飛ぶ魔法少女はスピードを落とさずに壁面へと突っ込む。そのまま壁面へとぶつかると思われたが少女の進行方向にあった壁に穴が開き、トンネルのように壁面を通過してしまった。
『門の開閉機は制御済みです――開きます!』
大助はジュニがハッキングして開かれた門をくぐり、何事かと慌てて飛び出した警備員をその場に置き去りにして飛行少女を追う。
放置され草や元未確認生物に浸食された高速道路を走る。海岸沿いに機能停止しているはずの工場地帯が見えた。
「工場が一瞬光らなかったか」
『ええ。でも彼女の目的はその先――壁に囲われていない朽ちた街のようです』
工場のことは一旦忘れられ、戦闘の舞台は忘れられた街へと移った。
『全体図を表示します』
ジュニによってヘルメット内画面に忘れられた街の地図と少女を示すマーカーが表れた。
「箒に乗っているとは思えないスピードだな……空気抵抗はどうしてるんだ。だから異能力は嫌なんだ」
『ぼやいてないで集中してください』
魔法少女は箒で飛んでいるとは思えないスピードを出しているが、それでも普通自動車程度の速さだ。
街中の一般道を走っているため障害物は多いが、それでも人間ではない身体を持ち、玖賀財閥の技術で造られた大型二輪車にとって追いかけるのは容易い。
今回は殺害ではなく捕獲が目的な上に、準備もしていなかったため適した装備が粘着水を発射する《マジックロープ》しかないが、大助は捕まえるのも時間の問題だと踏んでいた。
一方、上空を飛ぶコアは大助とは全く違った考えを巡らせていた。
(ふふん。そっちはまだ本気を出してないってわけ? それじゃあつまらないのよね!)
コアは進路変更し、ビルの壁面に沿うようにして地面と垂直方向に飛ぶ。周囲の光を屈折させバックミラー作り、追いかけてくる機械人間を観察した。
大助は反動をつけて前輪のハンドルを持ち上げ、ジュニは同時に《圧力光線》を地面に向けて掃射する。
《圧力光線》は大型二輪車の中間やや後方から両サイドそれぞれ三本が展開される。短めの管腕は触手のように自由が効き全方向に照準を向けることができる。《圧力光線》の効果は貫通ではなく圧すことだ。これを使って浮かび上がることはできないが、今回の場合は六つの管腕を地面に向けることにより大型二輪車の垂直走行を可能にした。
コアは連続で発射される粘着水を左右に避けると唐突にビルの壁面から離れた。
「今度はこっちの番!」
コアの周りにリリカルな星形のエネルギー体が瞬時に発生し、光の尾を引いて撃ち出される。
大型二輪車は加速をしビルの屋上へと飛び出し、空中で向きを調整、左側面をコアに向ける。展開された輝く槍でいくつかのエネルギー体を破壊したが、捌ききれなかった分が大助と大型二輪車に直撃した。
大助は右脚を伸ばしブレーキ代わりにする。吹き飛ばされる車体をなんとか屋上に留めた。
「まだまだ行くよっー!」
コアが指を鳴らすと同時に大助は地響きを感じた。ビルが左右に大きく揺れ、大型二輪車は宙に投げ出される。
「なんでもありか⁉」
空中で大助が見たのは揺れているビル群だった。廃墟の街のほぼ全てのビル――5~7階建ての高さだが――それらに手足が生え、ファンシーな顔が浮かび上がる。
「みんなやっちゃえー‼」
宙に放り出されたままの大助にいくつものビルが殺到した。
大助は《重力圧縮砲》を展開、溜めを待たずに即座に発射した。左側から迫ってくるビルには《分子チェーンソーの槍》で対応するもその数の多さに対応できない。
ビルの一つが両手を組み、大助に向かって振り落とす。バウンドすることはせず大型二輪車はアスファルトにクレーターを作った。
ビルたちはボールを追いかけるアメフト選手のように大助の上に覆い被さってくる。
大量の砂煙が舞い上がり、廃墟の街を揺らした。
『――助! 大助! しっかりしてください‼』
ジュニによって一時的に飛んで(・・・)いた大助のメインメモリが再起動する。
「……ジュニ。今、どうなってる? ビルに空を覆われた後の記憶がない」
『どうもこうも。見ての通りですよ』
覆いかぶさったビルの隙間から光が差し込んでいる。横になった大型二輪車から《圧力光線》が展開されなんとか潰されずにいる状態だった。
「……良く助かったな」
『ええ……。でも……』
大助の右腕はどこかに飛ばされ、右脚は大型二輪車の下敷きになっている。内臓機能も徐々には回復しているが安静が完全に治癒するにはまだ時間がかかる。
「そっちはどうだ?」
『機能には問題がありませんが一部装備の使用が不可能です』
「そうか……」
認めざるを得ない。
これは大助の油断が招いた完璧な敗北だった。
「ジュニ、《音量変化装置》は使えるか」
『使えますけど……どうするんですか?』
「確かに俺はあのクソ生意気なガキに負けた。とても悔しい。わかるか」
『はぁ……』
大助は自分のパートナーAIから、なんというか、憐みの目を向けられた。
コアが倒れたビル群の上をぐるぐると旋回していると中から大きな声が聞えた。
「おーい。まだそこにいるかー?」
《音量変化装置》……ようはただのスピーカーである。音のマスキングやモスキート音なども発生させることができるが、大助にはどの場面で使えばいいか便利すぎてよくわからない装備だった。
箒がピタリと止まる。
「死んではいないと思ったけど……予想以上に丈夫ね。まったく機械相手はやりづらいわ。心を読めないんだから」
コアが魔法で声を拡大して答える。できるだけ挑発に聞えるように言った。
「聞こえてるわ! それで一体何の用⁉」
「降参だ! 俺の負け!」
「へ……?」
「だからビルをどかしてくれないか! そろそろ限界なんだ!」
コアは声を拡大する魔法を切ってぼやいた。
「は、はぁ……。もうなんなの……」
コアがパチンと指を鳴らすとビルがコミカルに動きだし、元あった場所に急ぎ足で戻る。
コアは箒を操作し、大型二輪車の元まで降りた。機械の思考は読み取れないので不意打ちを警戒し、箒から降りる前に空間断絶膜とタイムスロー、ワキナ・クー・デュラダの結界と特級三重防御壁魔法陣を不視化して形成する。
「それで降参ってどういうこと?」
「どうもこうもそのままの意味だよ、お嬢さん」
「お嬢さんはやめてって言ったでしょ」
「そうだっけ? でもほらこれを見てくれよ」
ヘルメットを脱ぎ、大型二輪車をのろのろと動かした。潰れた右脚と無くなった右腕を少女にみせる。
「これじゃあもう戦いようがないだろ?」
「……。でもあんた自体はピンピンしてるじゃないの」
「大人にはやせ我慢が必要なのさ、お嬢さん」
「お嬢さんはヤメロって言ってるでしょ‼」
コアからパワーが漏れてクレーターが一段階深まる。
大助が口笛を吹いた。
「悪い悪い。どうやら衝撃で記憶回路がイカレちまったようでね。言語の区別がつかないんだ」
「……」
記憶回路の故障は嘘だ。“お嬢さん”と続けて発言しているのもわざとである。大助は目の前の歳端もいかない少女を挑発しているのだ。
睨むコアを無視して大助は挑発を続けた。
「でもまぁこんなパワーばかり強くてもしょうがなくないか? 戦いには有利だけど、暗殺されたら意味ないしね」
「何それ負け惜しみのつもり? なんなら今すぐスクラップにしてあげてもいいんだけど」
「おぉ怖っ。スクラップは遠慮しておくよ。スピードでは圧倒的に俺が勝っていたけど、負けは負けだからね」
コアの頬が怒りで痙攣している。
大助はこの少女と出会った時からプライドが高く、大人にコンプレックスを持っていることを察していた。ベビーシッタープログラムがインストールされている機械人間にとって子供の扱いなど容易いことだ。
「そんなあからさまな挑発に乗るとでも思ってる?」
「ふーん。ならレースでもしてみるかい?」
「どうしてそうなるのよ⁉ 挑発には乗らないって言ってるでしょ⁉」
コアが声を荒げる。大助は少女の怒りが見せかけではないことを見抜いていた。
「白黒はっきり決めた方がすっきりするだろ? お嬢さん(・・・・)って馬鹿にする高慢ちきな大人を一人黙らせることができる」
「×××××――――‼」
外国語で――おそらくスラングだろう――コアが叫び、腕が横なぎに振るわれた。突風が吹き荒れビルをいくつかなぎ倒す。
コアが肩で息を整える。
「……私が勝負に乗らなかったら?」
「別に? ああそういえば今、思い出したんだけどキミと一緒にいた男の子は彼氏かな?」
「――っ! あんたユーイチと友達なんでしょ⁉」
「そんな名前だっけ? 子供なんていちいち覚えてられないしなぁ」
「クソ野郎っ! 今すぐスクラップにして――」
コアが腕を振り上げるのを大助は大げさに肩をすくめた。
「おっと。その腕を振り下ろしたら名実とも俺の勝ちだね。キミは負けそうになったからって将棋盤をひっくり返すんだから」
コアの腕がピタリと止まる。
「……将棋ってなによ」
「……チェスとか麻雀みたいな卓上の非電源ゲームだよ」
落ち着いたのかコアは振り上げた腕をゆっくりと降ろした。
「……わかった。いいよ。勝負したげる。でもその身体じゃあんたは不利よね? それでまた難癖つけられたら堪んないし」
「いや、これは戻れば――」
大助が言い終える前に銀粉のような光が周囲を包む。銀粉が晴れると右腕と右脚、時間が戻ったように治って(・・・)いた。
(なんだ――何かおかしい――)
「これで対等ね」
「あ、ああ……。日程は追って知らせる」
大助は身体の変化に違和感を覚えながらも何とか勝負の伏線は張った。
「楽しみにしてるよ」
コアがその場で一回転すると姿が消えた。魔法で街に戻ったのだろう。
慌てたジュニの声が大助の耳に届いた。
『大助! 何をされたんですか⁉ 意識会話が使えなくなってます‼』
「……」
大助は特殊スーツの左手首から先を外し、人差し指を噛んだ。
赫く、鉄臭い液体がどろりと溢れる。
『まさか……っ!』
ジュニが驚愕の声を上げた。大助は内心の動揺を必死に押さえつけて事実を口にする。
「なんてこった……人間になってるじゃないか」
誤字・脱字が多々あるかもしれませんがご容赦お願いいたします。
発見しだい随時修正していく予定です。
最近は気づいても「後でやればいいや」とか思ってしまいます。
そのうちまとめて修正するかもしれません。