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スピンアウト!  作者: スックブ
第二章 少女アニマート(前編)
13/32

自分の好きなジャンルがごちゃ混ぜになってます。


週一予定の不定期更新ですがどうぞよろしくお願いします。

予定なのでたまに早かったり、遅かったりします。

 この日の太陽は容赦がなかった。世の中の全てがドロドロに溶けるのではないかと疑うほどの暑かった。

 粗大ゴミの島にある大型二輪車の整備施設、そのシャッターが開いていた。薄暗いガレージの中でホログラフの女性の音声が響く。

『そろそろ起きましょうよ』

 打ちっ放しのコンクリートの上に成人男性が横たわっていた。

「まだ朝だろう……それにこんな暑さじゃどこも仕事は休みさ……」

『もう十一時をまわっていますし、明日この星が滅ぶとしても仕事をするのがこの国の社会です』

「滅んでまえ……」

 大助は心地よい冷たいコンクリートからのろのろと起き上がった。

『ほらほらしゃっきりして。最近、粗大ゴミ回収の依頼がありませんから街でチラシでも配ったらどうです?』

「……その前に《マテリア・アイス》でこの辺一帯を凍らせきてくれないか?」

『 嫌 で す 』

 取り付く島もない。


 大助は備え付けの台所で顔を洗うとスチール机から椅子を引き、座った。ラジオの代わりに机から少し離れた場所に設置されたテレビの電源を入れる。ブラウン管のテレビは待たずして映像が映しだした。

 画面には国際線の空港が映っている。テロップには“生中継! あの組織の幹部が来国‼”と大きく表示されていた。

『ムービースターかミュージシャンでも来るんでしょうか』

「このご時世にか?」

 惑星全域を襲う災害の結果、異能者や怪物が溢れかえり全世界がパニックに陥った。

 近年では安定を保持した国も増えたが、国そのものがなくなったり、混乱の絶えない地域も珍しくはない。現代では海外旅行の四文字は死語となっていた。

『あ、出てきたようですよ』

 さっきまで仕事をしろと言っていたジュニの視線はテレビから離れていない。大助としては好都合なのだが、よくある主婦みたいだ、とこっそり思っていた。


 テレビのスピーカーからカメラのフラッシュ音と黄色い声援が溢れる。

 画面に登場したのはトレンチコートを身に着けた壮年の男性だった。

 洒落た帽子にサングラス、手袋をつけ靴もピカピカだ。ダンディズムを体現したような人物である。

「見ているだけで熱くるしい……」

『何者なんでしょう?』

 薄着の巨乳アナウンサーがジュニの疑問に答えてくれた。

「今、我々の前に現れました! 全世界の政府組織を同時期に襲撃した師走事件、その組織クリーミィ・フレンズの幹部です‼」

 大助はテレビの向こう側で何が起きているのか判断がつかなかった。

「え、なに? どういうこと?」

 巨乳のアナウンサーが熱気で汗を掻きながら身体を揺らしつつコメントを続ける。

「私たちの国では師走事件はテロ組織の起こした犯行として有名ですが、組織名や目的など一切が不明でした! あ、ちょっと通してください! テレビ局のものです! え、あの、うぎゃー!」

 人の波に揉まれる女子アナウンサーを救い出したのは話題のダンディな男だった。

「お嬢さん、平気か?」

「は、はひ……」

 声まで渋い。

 人に揉まれてぐってりした若い女子アナウンサーはスタッフに促されてトレンチコートの男にマイクを向けた。


「今回の来国についてどう意図を持っているのですか⁉」

「俺たちの組織、クリーミィ・フレンズについてこの国の人々に広く理解を深めてもらうことだ」

 女子アナは取り巻きに囲まれていながらもスムーズに歩くトレンチコートの男に併走して質問を続ける。

「私たちの局にだけ極秘に電報を送った理由は⁉」

「あまり情報をばらまくとこの国の機関に来国を邪魔されるからだ。君たちを選んだのはたまたまさ」

「あなたは本当にあのテロ組織の幹部なんですか⁉」

 それに答えたのは取り巻きたちだった。

「テロとは何だ!」「そうよ! 彼らはヒーローよ!」

 女子アナウンサーは取り巻きたちにマイクを向ける。

「彼らがヒーローですか? もしかしてあのネット映像の?」


 大助はテレビに顔を向けたままジュニに聞いた。

「ネットの映像ってなんのことだ」

 渡航が難しい今、一般人が他国の情勢を知る手段はインターネットが主だ。それでも金持ちに限る話だが。

『――検索完了。おそらくネット上に個人がアップロードした動画のことを言っていますね。動画数、再生数がすごいことになっています』

「どんな動画なんだよ……」

『彼らクリーミィ・フレンズはある国の姫をドラゴンから助けた英雄、一部地域ではスーパーヒーロー、世界の共通認識なら彼らは頼れる異能力を持つ仲間たち(フレンズ)らしいですよ』

「この国じゃそんな知名度ないよな?」

『ええ。文化の違いかもしれませんね。この国では魔法や超能力なんてどの漫画雑誌にも載ってますから』

「そういう問題?」

『この国が慣れすぎなんです』

 大助もそのことについて思い当たる節がある。

 確認された異能力者の子供は集められ、能力の持たない子供たちと一緒に公然と国立校に通っている。


 テレビの中ではマイクを向けられた取り巻きたちが女子アナウンサーの質問に答えていた。

「ええ! ある国では悪政を打ち払って健全な政治がされるようになったわ!」「難病に苦しむ子供たちに薬を配った!」「世界中の孤児たちを引き取り、施設を作ったのよ!」「美男美女ばかりなんだぜっ!」

 取り巻きなのだから称賛するのは当たり前なのだろうが……

「……みなさんひょっとしてサクラですか?」

「違いますっ‼」

 取り巻きたちが一斉に答えた。

「詳しくは今夜の会見で、質問もそこで願いたい。会場はまた連絡する――それができたらの話だが」

「どうしましたか?」

 女子アナウンサーが尋ねるがトレンチコートの男はある一点に目線を固定して振り向かない。

 カメラがその視線の追うと空港の出口から三人、画面に向かって近づいてくるのが映った。その中の一人は大助も知った顔だった。


『あら、アポロさんですね』

 画面のアポロはテレビカメラや取り巻きを気にしていないようだった。一メートルほどの十手を両手に装備してアポロが口を開く。

「不意打ちは勘弁してあげたわ、ミスター・ポンド」

「おやおや。俺の名前を知っていたのか?」

「ネットとか機械が得意な後輩に調べてもらったのよ。随分と人気者らしいじゃない」

「俺も来国するにあたってもう一度この国について調べた。現在この国にいくつもある組織の中で最もあの災害(・・・・)に通じた政府組織、零時抜刀隊。個人の技量が高いこの国の異能者の中でもその精鋭が揃った部隊だ」

「そこまでわかってるならこっちの要求もわかるわよね」

「俺たちはあの災害の真実が知りたいだけさ」

「世界各地の慈善事業はどうしたのよ?」

「正直、そう聞かれる理由がわからないんだ。泣いている人間がいれば立たせてやるのが当然だろ? 別に異能力に驕っているわけじゃない。組織には異能者ではない仲間もいるからな」

「あ、そう。つまらない答えね。孤児を教育をして組織の先兵にするとか言いなさいよ」

 アポロの言葉にポンド(と取り巻きたち)は気分を害したようだ。


「俺たちは決してそんな洗脳をするようなことはしない。俺たちには信念が――」

 ポンドが言葉を終える前にアポロの姿が消える。

「――っ‼」

 ポンドが息を呑む。

 アポロが左手に持つ十手の尖端がポンドの肺に当たる部分をコートの上から突き押していた。

「御託はあとでたっぷり聞くわ! 地下室の壁はとっても聞き上手よっ!」

 ポンドは勢いのまま後方へと飛んだ。転がって衝撃を逃がし、体勢を立て直す。

「残念ながらここで捕まってやるわけにはいかないんだ。娘も探さなきゃいけないんでね」

「残念ね。壁は退屈でも眠らないからあんたの演説相手には丁度いいと思ったんだけど」

「それは遠慮する。妻が寝ぼけて頭を打って以来、壁とは友人関係を築かないことにしたんだ」

「日本語上手ね。でも堂々と空港に現れた理由もまだ聞いてないし」

「俺たちは悪の組織じゃない。こそこそ隠れる理由はないだろ?」


 アポロがため息をついた。その表情は貰ったプレゼントが期待外れだったときの顔だ。

「これだから力でしか考えない輩は……。あんたさっき、助けることに理由はいらないとか言ってたわね」

「ああ。それが?」

「なら、やってみなさい」

 アポロが大きく片腕を振るう。ポンドに向かって、ではない。取り巻いていた民衆とテレビスタッフに向けてだ。


 機械人間コールドマンはその視力によって画面の中で何が起こったのか正確に把握していた。


 ポンドはアポロの腕が振り抜かれるよりも早く民衆の前に立った。壁になり十手から放たれる剣気から庇う。

 だが同時に他の抜刀隊の二人も動いていた。盾になり動けないポンドの両足を一人が切断し、もう一人が極細の糸でその傷口を縛る。

 およそ数秒間の出来事だ。

 取り巻きたちは遅れて何が起こったのか気づくと悲鳴をあげてその場から逃げ出した。


 抜刀隊の一人がポンドを肩に担ぐ。

「あ、あの……」

 だが流石はプロ。巨乳の女性アナウンサーはスタッフが止めるのも聞かずに果敢にもインタビューを決行する。それを受けて他のテレビスタッフも慌てて後を追った。

「ほら色男。あんたなにか言ってやりなよ」

 アポロが十手を腰に差しながら言った。

「あの、ファンの人たちは逃げてしまいましたけど……」

「薄情なんて思っちゃいないさ。目の前で銃撃戦が起こったら避難するだろ?」

 カメラは空港の出口へ向かって歩く抜刀隊を写す。

 人間の脚を切断する方もそうだが、切断されても平然と受け答えをしたポンドに思考が追い付かない。

 女性アナウンサーは我に返ると慌ててカメラの前に立った。

「そ、それではスタジオにお返ししま~す!」

 番組ではお馴染みの胸を強調したポーズをとって強引にその場をしめた。

誤字・脱字が多々あるかもしれませんがご容赦お願いいたします。

発見しだい随時修正していく予定です。


最近は気づいても「後でやればいいや」とか思ってしまいます。

そのうちまとめて修正するかもしれません。

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