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母親失格  作者: アザとー
『妹』という生き物
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 最後に娘のことを書こう。

 彼女こそ実は我が家で一番の食わせ者。礼儀正しさとぷっくり愛くるしい顔立ちで、表へ出れば「アザとーさんの遺伝子ってどうなってるの?」と大評判の娘であるが、それは表の顔だ。

 家では気が強く、癇癪もちで腐女子でもある。

 思えば、この世に生れ落ちた瞬間から気の強い娘であった。

 娘が生まれた年は記録的な猛暑だった。産院から帰ってきたばかりの俺は娘をベビー布団に寝かせて、息子の子守をしてくれた母とお茶など飲みながら話をしていたのだが……しばらくして娘の様子を見に行くと、布団から落ちていた。「ちゃんと見ていない大人が悪い」と言うのは、多分に子育てをしたことの無い若い御仁であろう。生後七日目の赤ん坊は、そんなに動いたりしない。

 暑さに耐えかねてどうにかずり上がったのであろうが、娘はひんやりとした床に転がってすやすやと眠っていた。大物である。

 その気の強さから言えば当然ではあるが、この娘、最強の拒絶タイプ。今でこそ治まったが、子供のころは人見知りが激しく、俺の背中に負ぶさってご機嫌で大声をあげていたくせに、誰かとすれ違うだけで黙り込み、硬直するようなことが多かった。

 俺の背中にはがっちがちに緊張しきっているのが伝わるが、傍で見ている人はそうは思わない。

「あら、大人しくて良い子なのね~」と、頭の一つも撫でてくれる。

 そのたびにオムツ越しに熱い感触を感じて、俺はこの娘の将来をどれほど心配したことか知れない。

 だが良くしたもので、人見知りは成長とともに『外面の良さ』に変化した。

 小学校の面談ではいつでも先生に褒められる。

「良く気がつく子で、授業態度も真面目です。何より大人しくて、素直で、こちらの話を良く聞いてくれますね」

 これを聞いたときには、本気で椅子から転げ落ちたろーかとも思った。

 家では手が付けられないほどの暴君だ。

 お手伝いを頼めばこっちが「もういい! あんたには頼まんっ!」とキレるまで文句を垂れる。気に入らないことがあればブチ切れてドバーンと扉を鳴らして部屋を飛び出す。大人しいなんて単語からは程遠い。

 間違いなく我が家のトラブルメーカーではあるが、なるほど、極度の内弁慶だと思えば納得がいく。そして、もっともいけないことには、俺も息子もこの性質を何よりも愛してしまっているのだ。

 アザとーは弟しかいなかったが、一番可愛がっていた妹分はやはり癇が強いタイプだった。他の人には言わないのに、俺だけにわがままなんか言われちゃった日には……どんな無理でも聞いてあげちゃうのです。妹っていうのは、そこが良いんです。うちの娘、まさしく『最強の妹タイプ』なんです。

 そして、息子の甘やかしっぷりはさらに上である。小説の参考にと聞いたことがある。

「ねえ、妹が彼氏と帰るって言ったら、心配してそこのコンビニぐらいまでは迎えに行く?」

「はあ? んなもん、ナイフ持って、学校まで迎えに行くわ!」

 こうして我が家の女帝として、彼女は今日も増長し続けるのである。


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