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暗渠  作者: レタス沢
セフレ編
1/2

“彼女”と別れて2年余りが過ぎた。

胸奥の空白は時間が埋めてくれる、との期待は、まだ期待のまま叶わずにいた。

失恋の懊悩を、女々しくも美しい胸のうちを、ここには書かない。

風邪をこじらせたように、失恋をこじらせただけだった。ありきたりな恋の、ありきたりな終わり。


ありきたりでなかった点をひとつ挙げる。

交際中、彼女がほとんど会ってくれなかったことだ。理由は知らない。

理由は知らないが結果は明らかで、おれが『彼女に適するおとこ』ではなかった、ということ。この事実は嫌でも直視せねばならない。自分がいかに無力か。それを思うと、意識はとてつもなく暗い虚無感に吸い込まれていくのだった。


彼女が会ってくれなかった期間……2年弱のあいだ、さみしいなりにもへんな意地があって、浮気だけはしなかった。

メールの受信履歴をつまびらかにすれば世間様から同情を買う自信はある。つまり浮気をしても、『世間的に』許される正当性はあった。

しかし、いかなる正当性も色恋の不条理の前では戯言に等しい。


失恋をこじらせていたせいだろう。長らく自信を失っていた。おれを不在にしたまま、世界は他律されて動いていた。

ただ、少しだけでも周囲に、能動的に働きかけることにより可動することもある、と教えてもらった。

腕に、脚に、タトゥーのきらめく井口さんの助言である。


「レタス沢くんは彼女いないの?」


「モテないわ勇気ないわで、出来るケハイすらないですね」


「ダメだねー、もっとがつがつしないと」


……いつまでも斜に構えていないで一度くらいボウケンしてみたら?……そんな意味が込められていたように思えた。このカンフル剤は効いた。ボウケンしてみようと決めた。


数日の後、ナンパをした。渡したアドレスにメールが来た。


「なんてちょろいンだ!」


声をあげて笑った。軽蔑した。自分をそして相手を、心の底から蔑んだ。そしたら卑屈な笑いが込み上げてきたというわけだ。


ナンパの理念とは何か……。それが積年の疑問だった。

検索すればナンパの方法論が出てくる。心構えや小手先の技法などは散見する。

しかし理念はどこにあるのか分からずにいた。


そこで当時のおれは『理念のないところからナンパは生じる』のだろう、と憶測した。

当たっていた!ナンパに理念はない!

あるのは質の低い欲と、欲からくるサービス心だけだ。


ナンパをする者、ならびにナンパをされてほいほい付いて行く者。諸賢は彼らを見下していい。

ナンパは低俗である、ということをここに強く書いておく。

低俗だから軽蔑するのもよし。軽蔑されてもせずにはおれない、というのもまたよし。


と、ここまでお付き合いいただけたら、もうお分かりだろう。

おれのモテない原因のひとつは積極的でない点にあった。もうひとつは、余計なことまで考える点にある。これで女性ウケがいいはずがない。


ではなぜナンパが成功したのか。その答えはぼんやりと掴んでいる、がここではつまびらかにしない。追々書き足すなかでその答え、あるいは答えの輪郭みたいなものが浮き出てくると思う。


長い序章になった。

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