第7話
『で、何でお前は結婚しないの?いい年してさ』
高校からの悪友で、同じ会社に入った健四郎と、酒を呑みながら話をしている。
『なんでって…別に理由はないけど…』
『家に帰っても味気ないんじゃないの?』
『けっこう気楽だよ。これでも』
『強がり言っちゃって』
雅夫と健四郎は焼酎のおかわりを注文した。
『あ、そういえば、昨日、舞ちゃんとそっくりな子を見た』
『舞ちゃんって、あの?』
『うん、うり二つ…っていうか、まんま舞ちゃんだった。幽霊かと思うくらい』
『幽霊じゃないの?うらめしや〜って』
健四郎が真似をする。
『今は10月よ。いくらなんでも季節外れでしょ。幽霊ってことは舞ちゃんが死んでるってこと?おいおい、縁起でもないこと言うなよ。てか、オレって恨まれるようなことしたっけ?』
『ほら、パチーンって』
『叩いたことかぁ…』
雅夫は深い溜め息をついた。
『でなけりゃ、タイムマシンで来たんじゃないの?』
『そんなものがあるなら、オレがあの頃に戻って謝りたいよ』
『やっぱり舞ちゃんのこと引きずってるし。だから結婚しないんだ。あれから何年よ?いくらなんでも、引きずり過ぎじゃないの?』
『別に時間は関係ないじゃん。この先も舞ちゃんを超える人は出てこないだろうな』
雅夫は煙草に火を付けた。
『こりゃ重症だ。ま、いずれは適当なところで妥協するんだろうけど、寂しさに負けてね』
『舞ちゃんの想い出だけで生きていけるからいいのっ』
『今、舞ちゃんってどこにいるんだろ?』
『さぁ、東京で就職したって噂は聞いたけど…』
『探しに行けば?』
『気安く言うなよ。行くって東京だぜ。しかも噂だけで、何の根拠もないのにどこ捜すんだよ』
『東京には三沢がいるよ』
健四郎があっさり言った。
『三沢って、ホルン吹いてたりっちゃんのこと?』
『うん、こっちの専門学校出て、東京で就職してるよ』
『何で知ってんの?』
『俺達付き合ってたの、知らなかったっけ?』
『いつだよ。初めて聞いた』
『卒業前から…何ヶ月も保たなかったけどね』
『ふ〜ん。あれから10何年も経ってるのに、東京にいるってよくわかるなぁ』
『メールのやりとりはやってるからね』
『お前、妻帯者の身で何やってんだよ!』
『バカ、誤解すんな。ウチのカミさんも一緒にメールやってんだよ。それはともかく、有給は山ほど残ってるんだし…第一、舞ちゃんに謝るんじゃなかったっけ?』
『うん。確かに。探してみるか』
『三沢には俺の方から連絡してみるよ』
『ああ、頼むよ。それと、有給の手続き、よろしく。総務課長さんっ』
『14日でいいね』
『ちょっと待って』
雅夫は携帯で航空券の予約を取った。
『お前はこういう時の行動だけは早いよな』
『‘だけ’は余計だよ…これでOK』
『では、舞ちゃんの再開を祈って乾杯!』
『乾杯っ!』