第5話
翌日、麗奈は改めて雅夫の家を探した。
『あっ、あった。ここだ。なぁーんだ、昨日車にひかれそうになった所の近くじゃん』
昨夜、車越しから怒鳴ったのが、雅夫とは思いもよらない。麗奈は部屋のインターホンのボタンを押した。
ピンポーン…
…………
中から反応がない。
『仕事に行ってるのかなぁ』
麗奈は途方に暮れた。
『どうしよう…電話番号も聞いとけばよかったなぁ。勇気を出してここまで来たんだもん。諦めちゃダメだよ、麗奈!』
麗奈の携帯が鳴った。智美からだ。
『どう?会えた?』
『家は見つかったけど、留守みたい』
『普通なら会社に行ってる時間だもんね』
『うん。夜にでも来てみるよ』
『あんまり大荷物持ってウロウロしてると、家出少女に間違われるからね』
真意を突かれて、麗奈はドキッとした。
『わ、わかってるわよっ!』
『寝場所とかちゃんとしてるの?』
『昨日はネットカフェに泊まったよ』
『まったくもう、そんなことだと思ったよ』
『だってぇ、すぐ会えるって思ってたし…』
『美幸姉ちゃんがそっちにいるから行ってみたら?』
智美の母の妹、美幸は智美と麗奈を自分の妹のように可愛がっている。
『そんなぁ、なんか悪くない?』
『この先、ずっとネットカフェで寝泊まりするって訳いかないでしょ?彼に会えたからって、そのまま泊まれるとは限らないんだよ』
『そうなんだけど…』
『あとで住所と電話番号をメールで送るから。気兼ねするような人じゃないってことは麗奈もわかってると思うし。私からも美幸姉ちゃんには麗奈のこと話しておくから』
『うん…』
『ちゃんと会えるまで心配だけど、頑張ってね』
『智美ってお姉ちゃんみたい』
『デキの悪い妹を持つと苦労するよ』
『どうせデキが悪いですよーだ』
『じゃあね』
『うん、あっ、智美』
『何?』
『…ありがとうね』
『絶対に会えるから、ねっ』
『うんっ』
電話を切った。しばらくすると、智美から美幸の住所と電話番号を書いたメールが来た。
福岡市早良区…
090-****-****
早速麗奈は電話をしてみた。
『もしもし』
『あの、麗奈ですが…』
『麗奈!?久しぶり。元気してる?』
『はい』
『智美から電話があったよ。福岡に来てるんだって?今、どこにいるの?』
『博多駅の近くなんだけど』
『じゃあ、迎えに行くから。1時間後に駅で』
『えっ?』
『家出少女がそっちに行ったからよろしくって、智美が言ってたよ』
『ははっ…』
『駅に着いたら電話するね』
『は〜い』
1時間ほどして、美幸から電話がきた。
『駅を出て、右側にあるコンビニの前に止まってる赤い車が私よ』
麗奈は駆けて行った。
『こんにちは』
『まぁ、すっかりかわいくなって。中学入学以来かしら』
車に荷物を積んで、美幸の家に向かった。
『学校サボってどうして福岡に来たの?』
『運命の人に会いにきたの』
『運命!?』
『まーくん』
『ああ、麗奈のお母さんの彼だった人ね。なんでその人が運命の人なの?』
『自分でもよくわかんないんだけど…まーくんがこれからの私の人生を変えてくれそうな気がして』
『へぇー、麗奈の直感?』
『うん、直感というか…思い込みかも』
『そういう気持ちは大事だよ』
市街地を抜け、海にほど近いマンションに着いた。