第4話
雅夫は高校の時、吹奏楽部でトランペットを吹いていた。高校1年の秋に、転校生が入部してきた。
『桜田 舞です。前の学校ではクラリネットをやってました。宜しくお願いします』
『可愛いじゃん』
サックスの健四郎が雅夫に言った。
『うん、でも年上だし』
『年下は興味ないかな?』
『でも、ほんと可愛いよ。この学校の中でもピカイチだよ』
帰りの方向が同じだったので、いつしか舞は雅夫達と帰るようになった。
『舞ちゃんは彼氏いるの?』
『うん、前の学校にいるよ。遠距離になっちゃった』
『…だろうなぁ。そりゃあ、こんなにかわいいんだから彼氏もいるわな…そもそも年下の男なんて興味ないだろうし…』
雅夫は無意識のうちに舞に恋心を抱いていた。
『大下、何ブルー入ってんの?』
先輩の1人が雅夫の頭を叩いた。
『何にもないっすよ』
『あ〜、もしかして舞ちゃんにホの字なのぉ?』
『だめよ、ちゃ〜んと彼氏いるんだから』
『わかってますよ!』
『大下はね、手が早いから気をつけてね』
『先輩、何てことを言うんですかっ』
舞は雅夫を見て微笑んだ。
次の年のバレンタインデー、雅夫は同学年の女子部員に呼び出された。
『何だよ』
『いいから、ついてきてっ!』
屋上に通じる階段の踊り場に舞がいた。
『先輩、連れてきましたよ。私はこれで失礼します』
『ありがとうね』
お互いうつ向いたまま、沈黙が続く。
『あ、あのー』
先に声を発したのは舞だった。
『はい』
『これ…』
ピンク色の包みを雅夫に渡した。
『あ、ありがとうございます』
『私は用事があるから、先に帰るね』
『はい、お疲れ様でした』
雅夫は包み紙に挟まれてた手紙を読んだ。
〔好きです〕
一言だけのメッセージに雅夫は驚いた。憧れの舞に告白され、夢じゃないかと何度も読み返した。
『夢じゃない…』
帰宅後、雅夫も舞に手紙を書いた
〔僕も好きです〕
翌朝、舞の下駄箱に手紙を入れた。先輩達の計らいで、この日から帰りは2人で帰るようになった。
『桜田先輩…』
『あのさ、部活の時は仕方ないけど、2人でいる時は先輩はやめようよ。私は…まーくんって呼ぶね』
『オレは……舞ちゃん…でいい?』
『いいよ、まーくん』
『わかった。舞ちゃん』
雅夫にとって最初の恋愛が始まった。
『舞ちゃん、一つ聞いていい?』
『な〜に?』
『舞ちゃんって前の学校に彼氏いるんだよね』
『いないよ』
『だって、前に先輩達と話してたじゃん』
『あぁ、あれは嘘。ああでも言わないと、清美が彼氏紹介するってうるさいんだもん』
『清美先輩のおせっかいは有名だからね』
『まーくんは彼女紹介するって言われたことないの?』
『うん、あまり気に入られてないみたいだから』
『手が早いって言ってたしね』
舞が笑って言う。
『そんなことないよ…てか、紹介されて付き合うのって嫌だし』
自らを弁護するのに必死な雅夫を見て、舞がまた笑った。
『私もそう思うよ。自分の好きな人は自分で見つけないとね』
舞は雅夫の手を握った。
『手つないでいい?』
雅夫の右手は今までになく熱くなっていた。
『舞ちゃん』
『ん?』
『清美先輩が言ってたこと…真に受けてる?』
『えっ、手が早いってこと?今まではそうだったかもしれないけど、私はまーくんが大好きだから…そんなことはどうでもいいのっ。ず〜っと信じてるから』
『………』
雅夫が黙りこんだ。
『私、悪いこと言ったかなぁ?』
『ううん、今までそんなこと言われたことなかったから…オレ、舞ちゃんをず〜っと大事にする。約束するよ』
『ず〜っと?』
『うん!』
『信じていいの?』
『もちろんっ!』
『うれしいっ』
舞は雅夫に寄り添った。