第31話
結婚式当日。
純白のウェディングドレスに包まれた麗奈は、新婦の控室にいた。
『お母さん、まーくんと結婚式ができるよ。本当なら、まーくんの隣にいるのはお母さんだったのにね。お母さんの分まで幸せになるから見守っていてね』
舞の遺影に話しかけていた。
ノックがして、雅夫が入ってきた。
『今、お母さんに挨拶してたの』
『そうかぁ』
遺影の舞の顔がいつもより笑って見える。
『麗奈ちゃん』
『な〜に?』
『綺麗だよ』
『ありがと』
〔コンコン〕
『はい』
雅夫がドアが開けると、舞の両親が立っていた。
『お母さん…』
『雅夫君、本日はおめでとうございます』
『あ、ありがとうございます。さ、どうぞ中へ』
両親は部屋の中に入り、
母親は麗奈が持っていた舞の遺影に話しかけた。
『ごめんね。舞の気持ちも考えないで、勝手なことを言って傷つけてしまって。唯に舞のこと知らされるまで、何も知らなかった』
隣にいた舞の父はただただ黙って遺影を見つめている。
『舞、私を許してね』
涙を流して母は舞に詫びた。父は遺影に頭を下げていた。
『お母さん、舞ちゃんはもう許してますよ。こうやって会えたんですから』
『雅夫君、私が舞にあんなことを言わなければ…』
雅夫は静かに首を横に振った。
『もういいんですよ。舞ちゃんとの交際をちゃんと認めてくれたのはお母さんですもんね。そんなに自分を責めないで下さい』
麗奈は初めて知らされる事実に驚いた。
『まーくん、そうなの?』
『うん。お母さんには「雅夫君、雅夫君」って可愛がって貰ってたんだよ』
『お母さんから聞いてなかった…』
麗奈は意外な事実を知らされて、びっくりした様子だ。
舞の母は麗奈の手を握った。
『麗奈ちゃん』
『はい』
『今までいっぱい苦労かけちゃったね。ごめんね』
『おばあちゃん、私は…』
『お母さんはいないけど、雅夫君は凄くいい人だから安心してついていってね』
『おばあちゃん、おじいちゃん、ありがとう。おばあちゃんがお母さんを産んでくれたから、私が産まれてまーくんに出会えたんだもの。これからも私のおばあちゃんとおじいちゃんでいてね』
『麗奈ちゃん…』
麗奈は舞の父母と手を握り合った。
『雅夫君』
父が雅夫に向いた。
『はい』
『孫の麗奈を、よろしくおねがいします』
深々と頭を下げて言った。
『はい、舞ちゃんの分まで、必ず幸せにします』
父と雅夫は堅い握手を交わした。
『参列者の方々は式場の方へお願いします』
アナウンスが流れた。
舞の父親が麗奈と腕を組み、バージンロードを歩いて雅夫に渡された。
牧師の柔らかな低い声が教会を包む。
神の前で誓いのキスを交わし、式は滞りなく終了した。
教会の扉が開き、鐘が響く中、無数の白鳩が飛び立って行った。ライスシャワーの祝福を受け、ブーケトスをした。麗奈の放ったブーケは、律子が受け取った。
『三沢、次はお前か?』
健四郎がちゃかす。
『そうねぇ、もう一回私も結婚しようかしら』
『相手は?』
『ヒルズ族でも捕まえるわ』
『残念だったな』
『何が?』
『大下のこと』
『うん。でも、いいんだ。先輩には私の気持ちを打ち明けたし。スッキリしたよ。結婚しても、私の心の中には先輩はいるからね』
『大下と同じこと言ってるし。それに、そんなことあいつから何も聞いてないぞ』
『見てよ。あの幸せそうな顔。舞ちゃん先輩の娘じゃ勝ち目ないよ』
『あいつは見た目チャラチャラしてるけど、恋愛はバカが付くくらいの一途な奴だからな』
『そういうところが魅力的なんだよなぁ』
『何2人でゴチャゴチャ言ってんだよ!』
雅夫がやって来た。
『ようやくお前も結婚できたな。おめでとう』
『飲み会で帰って来ると思ったら結婚式だもんね。先輩、おめでとうございます』
『ありがとう』
麗奈もやって来た。
『麗奈ちゃん、おめでとう』
健四郎が言った。
『ありがとうございます』
『たまには旦那を貸してね』
『はい』
『舞ちゃん先輩、きっと喜んでるよ。先輩と末永く仲良くしていってね。私みたいにバツがつかないように』
『りっちゃん、縁起の悪いこと言わないの。オレが別れる訳ないっしょ!』
『先輩が離れなくても、麗奈ちゃんが愛想つかすかもしれないよ。いつまでも若々しくしとかないとね』
『それはあるかもしれないですね。律子さん、ありがとうございます』
麗奈と律子はお互いにピースをした。
『この2人を一緒にしとくと、お前も歯がたたないな』
『ああ、舞ちゃんとりっちゃんで、こういう光景があったよな』
雅夫と健四郎は、高校生の時の舞と律子を思い出し、麗奈にリンクさせていた。
『もうすぐ披露宴が始まるから、会場にいこうぜ』
披露宴会場には、雅夫側は親族、会社関係、友人が、麗奈側は舞の両親、唯、智美の家族が集まった。
『只今より、大下家・桜田家の結婚披露宴をとり行います』
雅夫の会社の社長の乾杯の音頭で披露宴が始まった。
『新郎の高校時代からの友人であります西山健四郎様、スピーチをお願い致します』
かなり緊張した面持ちで健四郎がスピーチを始めた。
『大下君、麗奈さん、ご結婚おめでとうございます。大下君は仕事は超一流ですが、恋愛に関しては全くの素人でございます。こんなに美しい麗奈さんを射止めたのは、正に奇跡です。麗奈さん、大下君をその若さと美貌で引っ張って行ってくださいね』
スピーチを終え、健四郎が席に戻った。
『ありがとうございました。続きまして、新婦の幼なじみの山中智美様、スピーチをお願い致します』
きらびやかな衣装の智美は、颯爽と前に出てきた。
『大下さん、麗奈、ご結婚おめでとうございます。麗奈、長年の夢が叶って良かったね。今まで私にベッタリだったけど、これからは大下さんにベッタリ寄り添っていつまでもラブラブでいてね。大下さん、麗奈は寂しがり屋だから、いつも傍にいてあげてくださいね』
両家の花束贈呈が終わり、最後に雅夫が挨拶をした。
『本日は、大下雅夫・麗奈の結婚披露宴に参列頂き、誠にありがとうございます。ご存知だと思いますが、麗奈は私のかつての恋人だった桜田舞さんの娘です。舞さんは病に倒れ、残念ながらこの世にはいませんが、麗奈という素晴らしい人を残してくれました。これからは2人、力を合わせて幸せに向かって頑張って行く所存でございます。皆様のご指導、ご鞭撻のほど、よろしくお願い致します』
全員の拍手の中、披露宴も無事終了した。
明日からのハネムーンに備えて2人は空港近くのホテルに泊まった。
『いやぁ、疲れたね。やっと終わったよ』
『もうヘトへトだよ』
ベッドの上に大の字になった雅夫に、麗奈が覆い被さった。
『まーくんの友達、みんないい人だね』
『麗奈ちゃんの友達も来れればよかったけど』
『みんな学生だからね。仕方ないよ』
『旅行から帰ったら、麗奈ちゃんの友達集めて八王子で披露パーティーでもしようか?』
『いいの?』
『もちろん。お墓に行って、舞ちゃんにもきちんと報告しないといけないしね』
『そういえば、今晩が新婚初夜になるんだよね』
『今夜は寝かせないよぉ』
『もぅ、まーくんたらぁ』
『一緒にお風呂入ろうか?』
『うん』
バスルームに行った2人は服を脱いだ。
『やっぱり麗奈ちゃんは、舞ちゃんより胸大きいよね』
『バーカッ、どこ見てんのよ!エッチ!』
『どこって、ここ』
パシッ
『今はダメッ。あ・と・で』
『痛ぇなぁ…』
2人の夜は長く続いた…
あの日の君へ
愛する意味を教えてくれた。生きる素晴らしさを教えてくれた。そして、かけがえのない命を育み、分け与えてくれた君へ、ありがとう…
セカンド・ラブ…終