第29話
2人の生活が始まって2ヶ月が過ぎた。
『生活には慣れた?』
『うん、安いスーパー見つけたし、2人分の料理作るのも慣れたきたよ』
『今日はイブだし、外食しよう』
『賛成!』
『6時にインペリアルホテルのロビーで待ち合わせね』
『OK』
『行ってきまーす』
チュッ
雅夫のキスも慣れてきたようだ。
『行ってらっしゃーい』
日が暮れ、いつもより服装と化粧に気合いを入れた麗奈は、ホテルのロビーのソファーに座っていた。
『あ、来た来た』
麗菜が手を振って雅夫を呼んだ。
『待った?』
『こんな立派な所で待ってると緊張しちゃうよ』
『まぁね、日頃来る所じゃないからね』
『まーくんは何度も来たことあるの?』
『初めて』
『なーんだ』
『いつも来てますよ。みたいな顔をしとけば大丈夫だよ。麗奈ちゃん、いつもは可愛いけど、今日は凄く綺麗だよ』
『智美に教えて貰ったメイクを実践してみたんだ』
『ほんと大人っぽいよ』
『いつもの私と大人っぽい私、どっちが好き?』
『両方好きだよ。どっちともオレの愛してる麗奈ちゃんに変わりはないもん』
『もぉっ、そんなこと言われたら照れるじゃん』
『そろそろ行こうか』
雅夫が麗奈をエスコートしてレストランに入った。
『食事って』
『ここ』
料理本で紹介されるフレンチの有名店だ。
『予約をした大下ですが』
『お待ちしておりました。どうぞ』
テーブルに案内され、席に着いた。
『ワインは如何いたしましょう?』
雅夫はボーイにメモを渡して、
『これ、お願いします』
『かしこまりました』
麗奈はあっけにとられてる。
『私、フランス料理の食べ方わからないよ』
『オレの真似をすれば大丈夫』
小声で言った。
『お待たせしました。シャトー・ロザンの1989年でございます』
2人のグラスにワインが注がれた。
『今日は特別、少しなら飲めるでしょ』
『うん』
『メリークリスマス!』
『メリークリスマス』
グラスの重なり合った音で、ディナーが始まった。
『このワインはね、麗奈ちゃんと同い年なんだよ』
雅夫がラベルを見せた。
『あっ、ほんとだ』
『今日はどうしてもこれを飲んでもらいたかったんだ』
『おっしゃれー』
『こうやってると、私、お姫様になったみたい』
『姫、お料理を頂きましょう』
『じい、苦しゅうない』
『ははーっ、って普通に戻っていい?』
『まーくんノリがいいから好きっ。エヘッ』
料理が次々に運ばれ、最後のデザートが来た。
『どう、美味しかった?』
『うん、初めて食べたけど、凄く美味しかったよ』
『お客様、お部屋のキーでございます』
『ありがとう』
『部屋って』
『余韻を味わいたいから、部屋もとっちゃった』
レストランを出て、エレベーターで最上階に登った。
ガチャ
扉を開けると、赤と緑にデコレーションされた部屋が現れた。
『すごーい!何これー』
部屋全体がクリスマスしている。テーブルの上にはケーキ・シャンパン・サンタクロースのぬいぐるみが置いてある。
『ねぇ、サンタさんが手紙持ってるよ』
『ん?読んでみたら?』
麗奈は封筒を開けた。
merry Christmas
今まで頑張ってきた麗奈ちゃんにプレゼントがあります。
ぬいぐるみの背中のファスナーを開けてみてね。
麗奈ちゃんのサンタさんは現れたかな?
サンタクロースより
麗奈はぬいぐるみの背中を開けて、箱を取り出した。中には指輪が2つ入っていた。
『これって、結婚指輪?まーくん、ありがとう』
『オレじゃないよ。サンタさんが麗奈ちゃんにって』
『私、クリスマスはいつも1人だったし、サンタクロースも信じてなかった。でも、サンタさんってほんとにいるんだね』
『うん』
『まーくん、左手だして』
麗奈が指輪をはめた。そして、雅夫も。
部屋を暗くし、ガラス越しに夜景を見ていた。クリスマスイブと言うだけで、街の夜景もロマンチックに見える。
『ねぇ…』
『ん?』
『私、初恋の人と一緒になれて最高に幸せだよ』
『オレは心のどこかで、舞ちゃんといつかどこかで逢えると信じていた。だから、今まで恋すらできなかった。舞ちゃんが麗奈ちゃんを残してくれて、これが運命なんだと、初めて逢った時に確信したよ。舞ちゃんには悪いけど、あくまでも過去の人なんだよね。これからは麗奈ちゃんを舞ちゃんの代わりじゃなくって、ずっと愛していくよ』
『お母さんじゃなくって、ほんとに私でいいの?』
『麗奈ちゃんじゃなければ…オレの愛は貫けない』
雅夫は麗奈の顔をじっと見た。
『まーくん…』
『何も言わなくていいよ』
2人は熱い口づけを交わし、雅夫は麗奈を抱えてベッドに行った。
『私、初めてだから…』
雅夫は麗奈の唇に人差し指をつけて、静かにうなずいた。
『オレに任せて…』
麗奈は少女から女性の階段を登っていった。
ベッドの中で雅夫は腕に抱いている麗奈に聞いた。
『大丈夫?痛くなかった?』
『…痛かったよぉ。でも、これで私も大人の女だね』
『オレは舞ちゃんに男にしてもらったんだよ』
『代々引き継いでるんだね…』
『舞ちゃんより、麗奈ちゃんの方がスタイルいいよ』
『もぉ、バカッ…まーくんのエッチ』
麗奈が抱きついた。
『ずっとこうしていたいね』
『裸で?風邪ひくよ』
『麗奈ちゃんはムードって物がないのね』
『まーくんはムードよりヌードでしょ?』
『ダメだこりゃ』
『嘘だぴょん。私もずっとこうやって、まーくんの温もりを感じていたいよ』
麗奈が雅夫にキスをした。
翌朝、チェックアウトした2人は、
『今日は仕事納めだから、早く帰るよ』
『うん』
雅夫は仕事に、麗奈は自宅に戻って行った。