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第28話

『舞…』

『麗奈ちゃん、お母さんのお姉さんだよ』

『桜田麗奈です』

麗奈は会釈をしながら挨拶をした。

『子供が産まれたのは聞いてはいたけど…舞の高校時代にそっくりだわ。ところで、舞は元気なの?』

『母は…』

麗奈はうつむいてしまった。

『舞ちゃんはガンで4年前に亡くなりました』

雅夫が答えた。

『死んだって…しかも4年も前にだなんて…なんで今まで教えてくれなかったのっ!』

強い口調の唯の声は会議室全体に響き渡った。麗奈は尚もうつむいたままだ。

『舞ちゃんの遺言で、親兄弟には知らせるなと…』

雅夫が静かに言った。

『…そうなんだ』

『ええ、麗奈ちゃんには二の舞を踏んでほしくないって言ってたらしいです』

『そっかぁ、あの子、雅夫君と別れた日から、泣きっぱなしだったから…私は舞に何も言ってやることができなかった。親の意見に背いても、私が雅夫君との恋を成就させてあげるべきだった…』

唯は親寄りの人じゃなかったんだと、麗奈は感じた。

『ご両親はお元気ですか?』

『お父さんはオーストラリアの現地法人で社長やってるわ。お母さんもついて行ってるの』

『そうなんですか。あの、いきなりなんですけど、僕たち2人、今度結婚することになりました。それを知らせに』

『何だか雅夫君と舞を見てるようだわ。舞…麗奈ちゃんを残して、さぞかし心残りだったろうに…』

『唯おばさん』

麗奈が口を開いた。

『私達を、これからもよろしくお願いします』

ぺこりと頭を下げた。

『麗奈ちゃん、最高の人を射止めたわね。雅夫君、舞に代わって言うわね。娘をよろしくお願いします』

『はい』

『後輩の練習でも見に来る?』

『いえ、また改めて来ます。今度はうるさい連中と一緒に』

『西山君とりっちゃんのこと?来年はコンクールで九州代表狙ってるから、ビシッと指導に来てね』

『はい』

『結婚式にはちゃんと招待してよ』

『もちろん。案内状送りますね。お父さんお母さんにもよろしく伝えてください』

『わかったわ。2人共、びっくりするわね。あっ、麗奈ちゃん』

『はい?』

『ほんとは、おじいちゃんもおばあちゃんも悪い人じゃないから。誤解しないでね』

『わかってます。私のお母さんの親ですから』

学校を出て、雅夫の家に戻って来た。荷物を降ろして、部屋に運んだ。

『やっぱり狭いなぁ』

『2人だもん、いいんじゃない?あっ、そうだ。まーくん、写真立てある?』

『写真立て?ちょっと待ってよ』

机の引き出しの中を探してみると、古い写真立てが出てきた。

『これでいい?』

『うん、ちょっと貸してね』

麗奈は裏を開け、写真を中に入れた。

『はい』

雅夫に渡した。中身はこの前、麗奈と撮った鶴見岳での写真だった。

『まーくんを学校で待ってる時に、向かいのコンビニで写真にしたんだ』

舞との写真の隣に、麗奈との写真を並べて置いた。

『こうやって見るとなんか不思議だね』

親子が同じ相手と同じ場所で撮った写真に向かって、雅夫は言った。

『うん。私ね、こっちに来る前に髪型をお母さんと同じにしたんだよ』

『そうだったんだ。それまではどんな髪型だったの?』

『黒のストレート』

『へぇ〜』

『まーくんに気に入ってもらおうと思ってね。この、けなげな乙女心、わかるかなぁ』

『美容室の人に、失恋したんですかって言われなかった?』

『そういう人、今時いないよ』

『そうなの?』

『うん、そういえば、結婚式の日…』

『1月28日?麗奈ちゃんの誕生日』

『何で知ってんの?』

『退学手続きの用紙に書いてるのを見ちゃった。人生最大のイベントは、人生最愛の人のバースデイにしようと決めてたからね』

『もしかして、アニバーサリー男?』

『恐怖・アニバーサリー男ぉ〜』

『キャーッ』

『麗奈ちゃんも乗るねぇ〜。そうすれば、結婚記念日、絶対忘れないでしょ』

『忘れたらドロップキックだからね』

『いくらボケても、これだけは忘れないよ』

残りの有給は式場の手配と衣装合わせ、案内状の作成と目まぐるしく過ぎていった。

有給が終わり、久々の出勤。

『はい、お弁当』

『サンキュー』

『忘れ物ない?』

『大丈夫』

『行ってきま〜す』

『いってらっしゃ〜い…まーくんまーくん、忘れ物っ!』

『何?』

麗奈が口をとがらせる。

チュッ

『じゃあね』

『いってらっしゃ〜い。早く帰って来てね〜』


健四郎が雅夫を昼食に誘った。

『ごめん、今日から弁当持ちだから』

『弁当?どうしたの?』

『この度、結婚することになりました』

『おめでとう!で、相手は三沢?』

『何でだよ』

『いや、三沢はお前のこと好きだから』

『彼女とはこれからも、いい友達だよ』

『可哀想に、三沢の婚期がまた送れるな』

『いいんだよ。1回結婚してるんだから』

律子がこの場にいたら、2人共頭を叩かれてるに違いない

『じゃあ、誰なんだよ。結婚相手は』

『麗奈ちゃん』

『麗奈ちゃん?聞いた名前だけど』

『舞ちゃんの娘』

『なにーっ!』

『同棲してま〜す』

『マジっすか?』

『てな訳で仕事終わったらソッコー帰るんでよろしく』

『凄い変わり様。とりあえずはおめでとう』

『じきに案内状届くから、出席よろしく。あっ、あと友人代表のスピーチ、頼んだよ』

『暴露話?』

『余計なこと言ったら張り倒す!』

『へいへい』



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