第23話
少し遅めの昼食をとりに、レストランに入った。
『福岡って都会なんだね』
『東京に比べれば田舎だよ』
『八王子は東京だけど田舎だよ』
『八王子にはいつから住んでるの?』
『私が生まれてからずっと。昔は近くにひいおじいちゃんが住んでいたけど、中3の時に死んじゃった』
『それからは1人で?』
『すぐにまーくんを尋ねようかと思ったけど、子供の私が来たら足手まといになるんじゃないかって』
『今でも子供だよ』
『失礼ねっ!法律上は結婚できるし、体だって大人だよっ』
麗奈の言葉にドキッとした。
『た、確かに結婚はできるよ…ね』
『まーくん、何動揺してるの?あーっ、変なこと考えてるんでしょ!』
『何も考えてねぇよ!』
『照れちゃって、か〜わいっ』
『舞ちゃ〜ん、育て方間違ってるよ〜』
『間違ってませんよーだっ』
翌朝、眠気眼の麗奈を起こして、八王子に向かって出発した。
『まーくん、今何時?』
『もうすぐ4時半だよ』
まだ夜明けには程遠い時間だ。
『どれくらいかかるの?』
麗奈はあくびをしながら聞いた。
『だいたい12時間くらいかな』
『眠くなったら私が起こしてあげるからね』
『麗奈ちゃんもリラックスしてて。眠くなったら寝てていいからね』
『うん…眠いからちょっと寝るね』
『おやすみぃ』
麗奈はフルフラットにした後部座席で二度寝をしている。
広島に入る頃には、すっかり明るくなってきた。宮島のサービスエリアに入った。
車を降りた雅夫は背伸びをした。麗奈は寝起きでボーッとしている。
『トイレに行ってくるね』
『うん』
健四郎から電話が来た。
『今はどこで何してんの?』
『宮島のサービスエリアで休憩中』
『サービスエリアって…高速でどこ行ってんの?』
『八王子に向かってる。そうそう、舞ちゃんのそっくりさん、舞ちゃんの娘だった』
『で、舞ちゃんは?』
『…亡くなってた』
『マジで!?』
『ああ…』
『残念だったな』
『でも、オレの心の中に舞ちゃんは生き続けてるから』
『何、映画みたいなこと言ってんの?』
『それで、その娘を八王子まで送ってるってわけ』
『なるほどね、いくらそっくりだからって言って手出すなよ』
『そんなことしたら、舞ちゃんに呪い殺されるよ』
『そうだな。まぁ、気をつけて行けよ』
『サンキュ』
麗奈がトイレから戻ってきた。
『お待たせ〜』
『お腹すいた?』
『うん』
『ごはん食べようか』
レストランに入り、朝食を摂った。
『高速道路っていろんな施設があるんだね。私、長い時間高速道路走ったの初めてだから』
『ここは大したことないけど、他の所は温泉があったり、遊園地顔負けの観覧車があったりするんだよ』
『へぇ〜』
食事を終えた雅夫と麗奈は、土産物が並ぶ売店に行った。
麗奈が何やら買い物をしている。
『友達にお土産を買ったの?』
『ううん、はいこれっ』
麗奈は雅夫に小さな包みを渡した。
『開けてみて』
ハートのキーホルダーが中から出てきた。
『私とオソロだよ〜』
麗奈の手の中にも同じキーホルダーが。
『ありがとう』
『気に入ってくれた?』
『うん、とても』
『こういうのって憧れてたんだぁ』
『じゃ、行くか』
再び車は東へ走り出した。
大阪、京都、岐阜を抜けて車は中央道に入った。
『ねぇ、まーくん』
助手席の麗奈が話しかけた。
『何?』
『学歴って必要かなぁ?』
『急にどうしたの?』
『私、学校辞めようかなって』
『将来、何をしたいかによっては学歴は必要だよ』
『……』
『麗奈ちゃんの将来の夢ってなーに?』
『幸せな家庭。お父さんとお母さんと子供がいて、週末にはみんなで遊びに行ったりするの。それで…』
『麗奈ちゃん…』
『…別に家庭に飢えてるって訳じゃないの。回りの友達とかがたまに羨ましくなる時があって…』
『高校卒業してもそれは叶えられるんじゃないの?辞めることはすぐできるけど、辞めて入り直すのは大変だからゆっくり考えてみたら?』
『そうだよね。考えてみる』
相模湖インターを過ぎて、都県境にさしかかった。
『もうすぐ着くよ』