第22話
ファッションビルを上から下までくまなく回り、若い女性が好みそうな店に入っては、鏡に向かって服を自分に当てて考えこんでいる。
『う〜ん、悩むなぁ』
『どういうのが好みなの?』
雅夫が麗奈に聞いた。
『かわいいけど、かっこいい服』
『難しいなぁ』
『まーくんはキュートな服と大人っぽい服、どっちが好き?』
『かわかっこいい服』
雅夫は、我ながらウマイことを言ったなと思っていた。
『何?その中間をとりました、みたいな中途半端な意見』
『ダメ?』
『ていうか、そういう服を探してるのよ』
『最初に麗奈ちゃんが見てた服、かわかっこよくない?』
『マネキンが着てたやつ?』
『うん』
『私もあれはいいなぁ、って思ってたんだ』
『もう1回見に行ってみようか』
『うん』
始めに目が留まった店に戻ってきた。
『あれって試着できるのかなぁ…』
『いらっしゃいませ』
店員が出て来た。
『あのー、表のマネキンが着ている服、試着できますか?』
『できますよ。どうぞ』
『できるって。着てみるから感想聞かせてね』
『うん』
奥の試着室に入って行った。
『ああやって服を選んでる顔は普通の高校生だよなぁ』
『かわいい彼女さんですね』
店員が雅夫に話しかけた。
『はぁ…』
雅夫は彼氏彼女に見られてることに少し安心した。
『あの服は彼女さんくらいの体型に合わせて作られたんですよ』
店員のセールストークが冴える。
試着室の扉が開いた。
『どう?』
店員の言う通り、確かに似合っているし、サイズもピッタリだ。
『うん、最高』
『ほんとっ!』
『マジでかわいいよ』
『これに決めるね』
『うん。じゃあ、これを』
『ありがとうございます』
『あっ、すみません。これを着ていくんでこの服を包んでもらえますか?』
『いいじゃん。今まで着てた服を着とけば』
『気に入った服はすぐにでも着たいですもんね。値札を取りますね』
店員は試着室に残された麗奈の服を袋に詰めた。
『今着ている服に、このブーツも一緒に合わせたらかわいいですよ』
店員が黒いスエード地の編み込みブーツを持ってきた。
『まーくん…』
『履いてみたら?』
ブーツに足を入れ、鏡の前に立った。
『うわぁ、マジかわいい…』
『じゃあ、それも一緒に』
麗奈より先に雅夫が言った。
『いいの?』
『こういうのは足元まで揃えないとね。トータルコーディネートってやつ』
『ありがとう!』
『どういたしまして』
勘定を済ませ、雅夫は服の入ってバックを持って、ビルの外に出た。
お気に入りの服を纏った麗奈は、歩き方まで変わったようだ。
『こんな服、雑誌で見るだけで着れるとは思わなかったよ』
『たまにはこういう贅沢もしないとね』
『まーくんに会えるだけで嬉しかったのに、洋服まで買ってもらって…ほんとありがとう。ねぇねぇ、私とお母さん、どっちがかわいい?』
振り返って聞く麗奈。
『麗奈ちゃんかな?』
『お母さんかわいそ』
『やっぱり舞ちゃんかな』
『麗奈ちゃんかわいそ』
『どっちもダメじゃん』
『そういう時は、同じくらいかわいいよって言えばいいじゃん』
『勉強になりました』
『ねぇ、腕組んでいい?』
『うん』
2人はカップルのように街中を歩いている。
『そういえば、まーくん』
『何?』
『遊園地の観覧車の中で私のこと、運命の人って言ったよね?』
『えっ、いや、あれは』
『私、びっくりしちゃった。私もまーくんを運命の人って思ってたから』
言葉のあやで言ったなんて今更言える訳もなく、
『麗奈ちゃんもそう思ってたんだ』
『そうだよ。今までずっとまーくんのことだけを思ってたんだから』
『あ、ありがとう』
雅夫は、年齢差・舞の娘ということに恋愛対象に見てはいけないと思っている。しかし、麗奈の仕草、顔、声に至るまで舞を思い出させてしまい、雅夫はこれまでにない葛藤と闘っていた。