第21話
雅夫と麗奈は小高い丘に夜景を見に行った
『うわ〜、宝石みたい』
『綺麗だろ』
『うん』
『あれがさっきの遊園地の観覧車だよ』
雅夫が指差した先には、観覧車のイルミネーションが鮮やかに光ってる。
『お母さんにも見せたかったなぁ』
『そうだな』
周りには何組かのカップルがいた。
『カップルってこういう所で口説くんでしょ?』
『そうだね、シチュエーションは大事かな?』
『まーくんは美幸姉ちゃん以外、誰かと付き合ったの?』
『ううん、誰も』
『マジ!?』
『大マジ。美幸ちゃんから聞いてるとは思うけど…本気で付き合えなかった。オレが心底好きだったのは、舞ちゃんが最初で最後…』
『…』
2人は黙って夜景を見ていた。
『麗奈ちゃん』
『なーに?』
『こんな未練タラタラで舞ちゃんを引きずってるオレって、おかしいかな?』
『おかしいよ。別れて10何年も経ってるのに、1人を思い続けるなんて…バカだよ』
『そうだよな…』
『バカだよ…お母さん』
『えっ?』
雅夫は麗奈を見た。正面の夜景を見ながら話し続ける麗奈。
『こんな素敵な人を振るなんて…私だったら、どんなことがあっても離れない。親が何と言おうが、勘当されようが、絶対離れないよ!』
麗奈は唇をかんで、悔しそうに言った。
『舞ちゃんに非はないよ。誰も悪くない、誰もね』
『優しすぎるよ。お母さんは先に死んじゃったけど、残されたまーくんの方が絶対かわいそうだよ』
『舞ちゃんだって、別れたくて別れたんじゃないから』
『だから余計だよ。親が恋愛するんじゃないんだもん。本人がするもんでしょ?』
『舞ちゃんは両親とオレの間で、板挟みになってたんだよね。それを気付いてやれなかったオレも悪いんだよ』
『いつまで格好つけるつもりなの?死んだ人を想ってたって、生き返ってこないんだからね』
麗奈は自分でも驚くくらいの熱弁をふるっていた。雅夫は麗奈の言葉のパンチにノックアウト寸前だった。舞が死んで誰よりも悲しく辛いのは、自分ではなく麗奈なんだと、雅夫は思った。
『麗奈ちゃん、ごめんね』
麗奈は雅夫を背後から抱きしめた。雅夫は涙をこらえるのに必死で、言葉が出なかった。
『これからは、私がずっとまーくんの側にいるね』
麗奈の言葉に首を縦に振る雅夫。
『まーくん、泣いてるの?』
今度は横に振る。
麗奈がハンカチを渡すと、雅夫は黙って受け取った。
『見てなかったことにするね』
『…はい』
眼下のイルミネーションが少しずつ消え始めてきてた。
何事もなかったかのように朝を迎え、麗奈が作った朝食を食べていた。
『私、そろそろ八王子に帰ろうかと思うんだけど』
『そうだね。学校も行かなきゃいけないし』
『送ってくれる?』
『どこまで?』
『八王子まで』
『はい?』
『だめ?』
『いや、いいけど』
『まーくんの車、大きいから寝ながら行けるし、交通費の節約にもなるしね』
『ちゃっかりしてるのね』
『学生兼主婦ですから』
『まーくんに来てもらいたい所もあるし』
『じゃあ、明日は八王子までのクルージングといきますか』
『はーい』
『じゃあ、今日は天神に行こう』
『うん』
平日の天神は人もさほど多くなく、買い物するにはちょうどいい。
『あの服、かわいくない?』
『どれ?』
マネキンが着ている、チェックのミニスカートとベストを指差した。
『かわいいね。麗奈ちゃんなら似合うと思うよ』
『でも、無駄遣いできないし…』
『ご飯作ってくれたお礼に好きなのを買ってあげるよ』
『ほんとにっ!』
『うん』
『いろんなお店回って一番いいのを買うね。まーくんの意見も聞かせてね』
『オッケー』