第20話
『風邪ひいたら大変だよ』
雅夫は自分の着ていたジャケットを脱いで麗奈に被せた。
『ありがとう。まーくんの匂いがする。とっても暖かいよ』
2人は乗り物を片っ端から乗りあさった。久しぶりに遊園地に来た雅夫は、童心に戻っていた。
『次はここに入ろう』
お化け屋敷の前に来た。
『私、こういうのダメなんだよ』
さっきの反撃とばかりに、
『ダメだったら今日克服しようよ』
『あ〜っ、私の真似してるし』
雅夫は麗奈の手を引いて中に入った。
真っ暗な通路に案内を示すランプが怪しく光っている。麗奈は雅夫の腕を痛いくらいの力で掴んでいる。
『麗奈ちゃん、腕、痛いんだけど』
『だって、怖いんだもん』
脇から何やら飛び出してきた。
『キャーッ』
雅夫に抱きつく麗奈。
『大丈夫だよ。全部作り物なんだから』
雅夫の言葉は耳に入ってないようだ。
脅かす側からしたら完全に‘カモ’にされてる麗奈を、これでもかってくらいに偽物のお化けは襲ってくる。出口の明かりが見えても麗奈は怖がっていた。
『面白かったね』
外に出て、雅夫が言った。隣にいる麗奈は半泣きの顔になっている。
『もう、怖かったんだからね』
『さっきはオレが怖かったんだよ』
『女の子を泣かせるなんてサイテーッ』
『怒ってるの?』
麗奈は膨れっ面で雅夫を見ていた。
雅夫は目の前にあったワゴンでチュリトスを買った。
『はい』
無言で受け取り、食べる麗奈。
『…許す』
『結局、お腹がすいてたのね』
『ちょっとね』
麗奈に笑顔が戻った。
『食べる?』
麗奈から食べかけをもらって雅夫は食べた。
『あ〜っ、間接キスだぁ』
その発想、まだまだお子ちゃまだ。
だんだんと日が傾き始めてきて、肌寒くなってきた。
『最後は観覧車に乗ろうっ』
ゴンドラは上へとゆっくり上っていく。
『まーくんもお母さんとこんなデートしたの?』
『うん、動物園行ったり映画みたり…毎日一緒にいれるだけで幸せだったよ』
『そっかぁ。私、おばあちゃん嫌い』
『何故?』
『だって、お母さんとまーくんを引き離したんでしょ。お母さんの幸せをおばあちゃんが奪ったんだもん』
『それは違うよ』
『何が違うの?』
『人間ってそれぞれ運命を背負って産まれてくるんだよ。オレと舞ちゃんが出会い、別れ、麗奈ちゃんと出会う。神様が作ったシナリオで生きてるんだよ』
『神様…』
『うん、何十億もいる人間に産まれて、その内の1人の運命の人に出逢うのって凄い確率って思わない?』
麗奈は大きくうなずいた。
『私がまーくんに出会ったのも?』
『そう、オレ達2人が同じ人を知り合ってて、こうやって出会ったのは、神様と舞ちゃんの導きがあったからじゃないのかな?』
『そうだよね』
『もし、舞ちゃんがオレと結婚してたら、麗奈ちゃんは産まれてなかったかもしれないよ』
『うん』
『振り返ったって時間は戻ってこないから、前を向いて行くしかないんだよ。明日は今日より良いことがあるって信じてね』
『私、まーくんに出会えてよかった。お母さんの子供でほんとによかったよ』
『舞ちゃんが聞いたらきっと喜ぶよ』
〔ありがとうございました〕
ゴンドラを降りると、閉園のアナウンスが流れた。
『遊園地も終わっちゃうね』
『次行こっか』
『どこに?』
『ロマンチックな所。麗奈ちゃんには合わないかな?』
『いつも子供扱いしてぇ、ヤな感じっ』
『怒った麗奈ちゃんもかわいいよ』
『バーカッ、もう知らないっ』
麗奈は先に駐車場に走って行った。
『おーい、待ってよーっ』