第2話
麗奈は自宅近くのコンビニでアルバイトをしている。仕事をテキパキこなし客受けもいいので、この店のアイドル的存在になっている。麗奈目当てに買い物に来る客も少なくない。この年で1人暮らしをしてる事情を察して、オーナーは麗奈を気にかけている。
仕事が終わり、麗奈が奥の部屋にやって来た。
『お疲れ様でした』
『お疲れ様、はい、今月分の給料』
『ありがとうございます。あの…オーナー、相談があるんですけど』
『ん?』
帳簿をつけながら話を聞いている。
『2週間ほど、休ませて欲しいんですが…』
帳簿を書く手が止まった。
『2週間も?どうしたの?』
『あのぉ…ある人に会いに行きたくて』
『ある人って彼?智美からある程度のことは聞いてるけど』
この店は智美の兄がオーナーをやっている。そういう繋がりもあって、特別に中学を卒業してすぐにここで働いてる。
『はい、そうなんです』
『で、いつから行くの?』
『来週から行こうかと思うんですが…』
『…』
『ダメ…ですか?』
『麗奈ちゃんも今まで頑張ってきたし、行っておいで。その間は俺がシフトに入るよ』
兄は笑顔で答えた。
『無理言ってすいません』
『そんな、気にしないで。行くまでの一週間、よろしくお願いしますね』
『はい、失礼します』
『お疲れさん』
麗奈は店を出て、自宅に帰って来た。
『お母さん、ただいま』
部屋の電気をつけて、仏壇の写真に手を合わせる。
『今日ね、智美にまーくんに会いに行くって話したよ』
麗奈は1日の出来事を、舞の霊前に話すことを日課としている。普通に親子が話すように。
『まーくんに奥さんや彼女がいなければいいんだけど…』
今日はいつもより手を合わせる時間が長い。
『きっと大丈夫よ…』
生きていれば、こんな言葉が返ってきたかもしれない。
麗奈の母、舞は麗奈が中1の時にこの世を去った。父親は生まれた時からいない。母1人子1人で育ってきた。
晩ご飯を済ませ、片付けをしていると智美が電話が来た。
『来週から行くって?兄貴から聞いたよ』
『うん、バイト休まなきゃいけないから、オーナーには早めに言ったほうがいいと思ってね』
『ほんと、麗奈は決断が早いよなぁ』
『思い立ったが吉日って言うじゃん』
『そうなんだけどさ。2週間で戻って来れればいいけど』
『なんで?』
『そのまま彼んちに居着いたりして』
『そういうことになれば一番いいけどねぇ…』
麗奈の声のトーンが落ちた。
『どうしたの?』
『だってさ、居着くってことは、まーくんが気に入ってくれるってことでしょ?子供っぽい私なんか相手にするかなって…』
『何言ってんだか』
『だって…いつも智美が私に言ってんじゃん』
『何をよ?』
智美と一緒にいることで、幼さがコンプレックスになってる麗奈。
『背ちっちゃいし、色気ないし、お子ちゃまだって』
智美は、日常何気なく口にしてる言葉が、麗奈を深く傷つけてることに気付いた。
『麗奈、そんなに気にしてたんだ。可愛さの裏側で言ったつもりなんだけど…ごめんね』
『うん…』
『大丈夫よ。基本的に好きなタイプって変わらなんだから。高校ん時のお母さんにそっくりなんだから、彼、麗奈にイチコロになるんじゃない?麗奈と私が並んで彼の前にいたら、きっと麗奈を選ぶよ。何を弱気になってんのよ。らしくないぞっ』
智美の励ましの言葉に、いつもの麗奈に戻った。
『ありがと。そうだよね。ポジティブになんなきゃね』
『そうだよ。頑張れっ』
『うん、頑張るよ』
電話を切った麗奈は、ある決断をして、風呂に入った。