第18話
麗奈は泣き疲れて、そのまま雅夫の胸で寝てしまった。麗奈をベッドに寝かせ、雅夫はソファーで寝た。
朝、雅夫は味噌汁の匂いで目が覚めた。
『おはよう』
『まーくん、おはよう』
『麗奈ちゃん、料理ができるんだ』
『家では毎日自炊してるんだよ』
『へぇ〜、凄いね』
『お母さん仕込みの味だから、まーくんにも気に入って貰えると思うんだけど。もう少しでできるから、まーくんは新聞でも読んでまっててね』
しばらくすると、テーブルにはご飯、味噌汁、卵焼き、納豆、漬け物が並んだ。
『いただきまーす』
雅夫が味噌汁をすすった
『どう?』
不安そうに麗奈が聞いた。
『うん、美味しいっ!』
『よかったぁ』
『卵焼きも絶品!』
『どれが一番美味しい?』
『納豆』
『はい、片付けまーす』
『冗談冗談、全部美味しいよ。麗奈ちゃん、いいお嫁さんになれるよ』
『そう?嬉しいなぁ。初めて男の人にご飯作ったから、ちょっと心配だったの』
『彼氏は?』
『そんなのいないよ』
『ずっと?』
『うん』
雅夫のことが好きだと喉元まで出かかっていたが、我慢した。会って何日も経ってないので、麗奈なりに告白するにはまだ早いと思っていた。
『これからいい出会いが沢山あるよ』
『うん、どうせ恋愛するならお母さんみたいな恋愛がしたいな。一生その人を愛せるような』
『恋愛観まで舞ちゃんのまんまだね』
相変わらず恋愛に関しては鈍感な雅夫。麗奈が話を振ってるにも関わらず、全く気付いてない様子だ。
『親子ですから』
『恐れ入りました。ご馳走様でした。美味しかったぁ』
『お粗末でした』
麗奈は台所に立ち、片付けを始めた。
『麗奈ちゃんはこれからどうする?』
『まーくんはお仕事でしょ?』
皿を洗いながら答える麗奈。
『休みを取ってるから、まだ行かなくていいよ』
『だったら、私とデートしよっ』
『いいよ。どこ行きたい?』
『遊園地!』
『子供だなぁ』
『どうせ子供ですよーだっ』
雅夫にアッカンベーした。
『そうだ。その前に連れて行きたい所があるんだけど…』
『どこどこ?』
『まぁ、ついてくればわかるよ』
雅夫と麗奈は車に乗り込んだ。
高速で1時間ほど走って、学校の前に着いた。
『ここは?』
『オレと舞ちゃんが出会った高校』
『へぇ〜、そうなんだ』
4階の角を指差して
『あれが音楽室。あそこで部活やってたんだよ』
『お母さんが一番幸せな時期だったのね』
『少し歩こうか』
『うん』
学校の塀に沿って歩いていくと森に差しかかる。
『ここを毎日2人で帰ったんだよ』
麗奈は、舞と雅夫が初キスをした時の話を思い出していた。
雅夫は高校時代にタイムトリップしてた。
森を抜けると公園があって、小さなステージがある。
2人はステージに上がった。雅夫は久々に見る風景を懐かしんでいた。初めて舞とキスをした場所は何も変わってなく、20年前の記憶が鮮明に甦ってきた。麗奈は舞と同じ視線で雅夫と同じ景色を見ている。
……
付き合い出して4ヶ月程経った雨の日、部活を終えた雅夫と舞はいつものように家へ帰っていた。
『雨ってなんかロマンチックだよね』
舞が言った。
『そう?オレはうっとうしいから嫌いだな』
『雨音ってリズムを刻んでるみたいで、その時によって楽しかったり、悲しかったり聞こえない?』
『今日の舞ちゃん、ロマンチストだね』
『そんなことないよ』
『じゃあ、今の雨音はどういう風に聞こえる?』
『そうだなぁ、優しく包み込むように聞こえるよ』
『こんな風に?』
雅夫は傘を横に倒し、舞の唇に優しくキスをした。舞は雅夫を強く抱きしめていた。
『まーくん…愛してる』
『オレも…』
……
『ここでまーくんがお母さんにキスしたんでしょ?』
『えっ!!』
舞との思い出にふけっていて、唐突な言葉にびっくりする雅夫。
『雨の日で傘で隠しながら…』
『舞ちゃんってそんなことまで話してるの?』
『ねぇ』
『ん?』
チュッ
『!!』
麗奈は雅夫の頬にキスをした。