第16話
『あのぉ…私と写真を撮ってもらえますか?』
『えっ?構わないけど』
麗奈はバックに入れてたデジカメを近くにいた人に渡して、
『すいません。シャッターを押してもらえますか?』
雅夫と麗奈は石碑の前で写真を撮った。あの頃の舞と同じように。
『ありがとうございます』
麗奈はデジカメを受け取り、雅夫のもとに戻ってきた。
『すいません。わがまま言って』
『そんなことないよ。ファミレスでも行って座ろうか』
『はい』
雅夫と麗奈はロープウェイで下り、車に乗り込むと麗奈の荷物と車の鍵とメモが置いてあった。
〔借りてた鍵、やっと返せたよ。麗奈のこと、よろしくね。泣かせたらタダじゃ置かないから〕
『そういえば、美幸ちゃんに鍵渡したままだったんだ』
2人は近くのファミレスに入った。
『何でも好きなのを頼んでいいよ』
『はい。じゃあ、ストロベリーパフェ』
『ストロベリーパフェとホットコーヒーを』
『かしこまりました』
『それで、麗奈…ちゃんは、何故ここに?』
『美幸姉ちゃんに連れて来てもらったんです』
『そうなんだ。この前、夜に車の前に飛び出したのも麗奈ちゃんだよね』
『あの怒鳴られた時ですよね。すいませんでした』
麗奈は頭を下げた。
『いや、責めてる訳じゃないんだ。ところで、舞ちゃんは元気?』
『母は…病気で死にました』
雅夫の顔から血の気が引いた。
『えっ!?それは…いつ?』
『4年前、私が中1の時です』
『4年も前に亡くなってたんだ…』
ショックを隠せない雅夫。
『お待たせしました。コーヒーとストロベリーパフェです』
テーブルに置かれ、
『あ、どうぞ』
『いただきます』
雅夫は動揺してて、コーヒーを飲んでも味がしない。一方、麗奈はパフェを美味しそうに食べている。
『そっかぁ、じゃあ、今は舞ちゃんの両親と住んでるの?』
『いえ、1人暮らしです。おじいちゃんとおばあちゃんには言うなと母に言われたので』
『何故?』
『誰にも迷惑をかけられないから…麗奈は誰にも渡したくないって』
舞は頑なに両親を毛嫌いしていたのがわかる。
『1人暮らしって…今までどうやって過ごしていたの?』
『母の残したお金とバイトで生活してます。私が高2になったらこれを読みなさいって』
雅夫に手紙を渡した。
『読んでいいの?』
『はい』
麗奈へ
お母さんが麗奈と同じ年の時に、まーくんという運命の人に出会いました。その人はとても優しく、頼りになる人です。お母さんは病弱だから、麗奈が大人になるまで生きていないかもしれない。もし、1人になっても絶対弱音を吐かないこと。頑張って生きていくこと。それでも辛い時は、まーくんを尋ねてみなさい。お母さんは麗奈とまーくんの心にいます。
母より
『これは大下さんにって母から』
相当昔に書いたであろう、ほんのりセピア色に染まった封筒と、比較的新しい封筒の2通を渡した。
まーくんへ
いきなりあんな別れ方をしてごめんなさい。ああいう方法しか見つからなくて。今になって、何故別れたのか後悔してます。でも、心の中にまーくんはずっと笑顔でいてくれるから、どんな苦労にも頑張っていけるよ。私はまーくんの思い出を糧に、ずっと生きていくね。
昭和62年2月14日
舞より
雅夫はもう1通の封筒を開けた。死期が迫ってる時に書いたのか、便箋の字が弱々しい。
まーくんへ
娘の麗奈と、私の病気が治ったらまーくんに会いに行こうと約束したけど、叶えられそうにないみたい。生きてる間に、もう一度会いたかった。声が聞きたかった。そして抱きしめてほしかった。もし、次に人間として産まれたら、今度こそほんとに結婚しようね。まーくんは死ぬまで一緒にいるって言ってくれたのに、先に約束を破ってごめんね。麗奈は私にそっくりでしょ?麗奈を私と思って見てくれたら嬉しいな。私の分まで長生きしてね。まーくんに奥さんや彼女がいなかったら、麗奈のことを宜しくお願いします。
舞より
雅夫は泣いた。今までの舞との思い出がわき水のように絶え間なく込み上げてきた。