第14話
翌朝、チェックアウトの準備をしてると、律子から電話がかかってきた。
『福岡までの飛行機のチケットとっといたよ』
『ありがとう。もうすぐ下に行くよ』
フロントで精算を済ませ、律子がチケットを渡してくれた。
『助かったよ。ありがとう。元気でね』
『先輩もね。今度帰るから、みんなで飲み会をしようね』
『おぅ、連絡待ってるよ』
『先輩…』
律子が涙目になっている
『どうしたの?』
『……ううん、何でもないよ。行ってらっしゃいませ!』
『じゃあね』
雅夫はホテルを出て駅に向かった。
飛行機のチケットが入っていた封筒に、手紙が入っていた。
〔先輩が舞ちゃん先輩を大好きなように、私も先輩が大好きだよ。ず〜っとね〕
律子の気持ちは薄々感じていた雅夫だが、舞のことが頭から離れない。律子が東京に行ったせいもあり、雅夫も距離をおいていた。
『りっちゃん…ありがとう…』
飛行機の機内で、雅夫は舞との思いを巡らせていた。
『そういえば、2人で別府に旅行に行ったよなぁ』
雅夫が高校2年の夏休み、部活の合宿と嘘をついて舞と別府へ旅行に行った。
『まーくん、親にバレないかなぁ』
『バレたらバレた時。一緒に謝るよ』
『お父さんに殴られるかも』
『それで許してもらえるなら我慢するよ。大丈夫だって。最初に約束したじゃん。舞ちゃんを大事にするって』
『私、怖い』
『何で?』
『まーくんがいつか私を嫌いになっていくんじゃないかって』
『有り得ないよ』
『おばあちゃんになっても?』
『うん、白髪で腰が曲がって入れ歯になってもずっと愛し続けます』
『じゃあ』
舞が小指を出した。
『指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲〜ますっ』
『約束だよ』
『舞ちゃんもオレがボケてハゲても一緒にいてよ』
『え〜っ、どうしよっかな〜』
『何だよ、それ』
『うそうそ、まーくんが死ぬまで一緒にいるよ』
『死ぬまで一緒…か』
親の職業の違いで成就できない恋愛。何か古めかしいが、どこか‘家’を重んじる独特の悪しき伝統が根付いてるものだ。
雅夫を乗せた飛行機は福岡空港に着陸した。到着ロビーに出たところで、健四郎から電話が来た。
『よっ、着いたかい?』
『ああ、今着いたところ…って、よくわかるなぁ』
『三沢から何時に着くか聞いたからね』
『行動を読まれてるってあまり気持ちいいもんじゃないな』
『どうだい、軽く一杯?』
『いいねぇ』
『早く来いよ。いつもの所で待ってるから』
家に戻り、荷物を置いた雅夫は居酒屋に向かった。健四郎は既に一杯やってた。
『よっ、今日はエラく早いな。あっ、生ビールちょうだい』
店員が突き出しと生ビールを持って来た。
『乾杯っ』
雅夫は一気にジョッキを空けた。
『東京での収穫は?』
『うん、舞ちゃんに子供がいるらしいってとこまではわかったけど…』
『結婚してたの?』
『自ら破談にして1人で育ててる…らしい』
『シングルマザーってやつ?』
『うん、それ以上のことは分からずじまい』
『そっかぁ。そういえば、美幸ちゃんから連絡あった?』
雅夫は焼酎を頼んだ。
『あったよ。明日、鶴見岳で会うことになってる』
健四郎も焼酎のお代わりを頼む。
『何で鶴見岳?』
『知らないよ。俺が聞きたいよ』
『ヨリを戻そうって言われたりして』
『あんな別れ方したんだから、それはあり得ないよ。とにかく、明日行ってみるよ』
『休みはまだまだあるし、ついでに温泉にでも浸かってくれば?』
『そうだな』
他愛のない話をして、2人は店を後にした。