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第13話

ホテルに戻った雅夫は、時間を持て余していた。

『もう一軒どっか行くか』

ジャケットを羽織り、部屋を出てフロントに行った。

『あの、すいません』

『はい』

『近くに1人で呑めるバーはありますか?』

フロントマンは周辺の飲食店が載ってる地図を見せた。

『このbのマークが、全部バーになります』

『結構あるんですね。お勧めの店ってあります?』

フロントマンは考えて、

『このバックロードっていうお店は狭いですが、お1人で行かれるには最適かと』

『そうですか。ありがとうございます。早速行ってみます』

雅夫はホテルを出て、その店に向かった。

狭い路地を50m程入った所に、バックロードがあった。

年代物の重たい木の扉を開けると、マスターがグラスを磨いていた。客は誰もいない。

『いらっしゃいませ。あっ、あなたは』

『あっ。先程は失礼しました』

思わぬ所で雅夫と後小路は再会した。

『どうぞ』

雅夫は椅子に座り、店全体を眺めている。バックには心地よいジャズが流れている。

『雰囲気のいいお店ですね』

『ありがとうございます。何かお作りしましょうか?』

『では、ギムレットを』

『かしこまりました』

シェーカーからカクテルグラスに注がれ、雅夫の前に出された。

『お待たせしました』

『いただきます』

雅夫は一口飲んで、

『フレッシュライムを使ってるんですね』

『はい。ライムジュースを使う所もありますが、当店ではフレッシュライムを搾って使ってます。如何ですか?』

『凄く美味しいです。ギムレットとジンライムは別物と思ってますから』

『あの、お名前を伺っても宜しいですか』

『まだ名前も言ってなかったですね。大下と言います』

『大下さんはカクテルお詳しいようで』

『いえ、ただ好きなだけですよ』

『それが1番です。大下さんは東京の方ですか?』

『福岡から来ました』

『先程のお連れの方もですか?』

『いえ、田舎は同じですが、彼女はこっちで働いてます。2人共舞さんの後輩なんです』

『そうでしたか。お客様の内情を詮索するのはタブーなんですが、良ければ何故、舞を探してるのか教えていただけませんか?』

雅夫は高校時代から今までの話を、全て後小路に話した。

『そうだったんですか…』

『ええ、すんなり会えると思ってましたが、うまくいかないですね』

『そうですね』

後小路は何やらカクテルを作っている。

『どうぞ』

『これは?』

雅夫の前に出されたのは、淡いピンク色のカクテルだった。

『舞をイメージして作ったカクテルです。名前はつけてませんが』

雅夫は口に含んだ。甘さと苦みが微妙なバランスで調合されている。

『初めての味です。キザなようですが、舞ちゃんのイメージがそのままグラスに入ってるようで、鮮明に蘇ってきました』

『これは舞と大下さん以外には作ってないんです。これからも作ることはないです』

『どんな高価な酒よりも、自分にとっては心を打たれる物がありました。バーテンダーって、ある意味芸術家ですよね』

『レシピをお教えしましょうか?』

『いえ、これはこのバーで後小路さんが作られるから、価値があるんですよ。東京に来る楽しみが1つ増えました』

『バーテンダー冥利に尽きる言葉です』

『では、そろそろ帰ります』

雅夫は席を立った。

『また是非いらしてください』

『はい、ギムレットとこのカクテルを又呑みにきます』

『ありがとうございます』

勘定を済ませ、

『ご馳走さまでした』

『おやすみなさい』

雅夫はホテルへ戻って行った。



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