第10話
『この住所だと駅の近くだね』
『今も住んでたらラッキーだけど…』
『15年以上も前の話だし、ビミョーだよ』
『住んでないとしても、何か手がかりが見つかるかもしれないし』
『そうだね』
電車が揺れて、律子は雅夫に寄りかかった。
『大丈夫?』
『うん』
しばらく経っても、律子は雅夫にくっついている。
『あの〜、もう揺れてないんですけど』
『えっ、あっ、ごめん』
雅夫から離れた。律子は高校で雅夫に出会った時から、仄かに恋心を抱いていた。当時は舞と付き合っていたから、打ち明けられずに時は過ぎて行った。舞と別れた後も、遠からず近からずの距離を保って接していた。律子は未だに雅夫のことを好きでいる。もし、付き合って別れてしまって、雅夫を失うことを考えると友達のラインを維持していくのがいいと、いつの頃からか思うようになっていた。
『先輩がず〜っと独身なのは、今でも舞ちゃん先輩を愛してるからなんでしょ』
『えっ!?』
『健四郎先輩から聞いちゃった』
『あのバカ、余計なことを…』
『でも、そうに想われてるって舞ちゃん先輩も幸せ者だなぁ』
『ただただ不器用なだけだよ。それに、一歩間違えたら立派なストーカーだよ』
電車は調布駅に着いた。
『確か…この辺だと…』
舞からのメモ書きの住所は駐車場になっていた。
『あの…すいません』
雅夫は駐車場にいた50代位の男性に声をかけた。
『以前、ここにアパートが建ってませんでしたか?』
『建ってたよ。10年前に取り壊して駐車場にしたんだよ』
『ここの大家さんはどこにおられますか?』
『あの家だよ』
駐車場の裏手にある一軒家を指差した。
『ありがとうございます』
2人は大家を訪ねた。
『ごめんください』
『はーい』
品のいい、初老の女性が出て来た。
『あの〜、以前に表の駐車場に建ってたアパートに住んでいた人のことでお伺いしたいんですが』
『はぁ』
『18年ほど前に桜田舞って人が住んでたと思うんですが』
『桜田…ああ、確か福岡から上京してきたお嬢さんね』
『はい、そうです。彼女の行方を探してるんですが』
『桜田さんなら結婚すると言って引っ越して行きましたよ。もうかれこれ16年くらいになるかしら』
『そうなんですか。それで、どこに引っ越したかわかりますか?』
『え〜っと、確か…日野の…高幡不動の駅前のマンションって言ってたような…なにしろ、かなり前の話ですからね、記憶が定かではありませんが…』
『結婚後の名字はわかりますか?』
『後小路って言ってたわ。珍しい名前だったから、これだけはしっかり覚えてるわ』
『ありがとうございます。助かりました』
2人は駅に向かって歩いてる。
『りっちゃん、高幡不動って遠いの?』
『20分くらいかな?』
雅夫は携帯を見て、時間を見ようとしたが、電源が切れている。
『そっか、飛行機乗る時に電源切ってたんだ』
電源を入れ、メールチェックをしようとしてる雅夫に、
『何やってんの?』
律子が雅夫の携帯を覗きこんだ。
『先輩の待ち受け、舞ちゃん先輩なんだ』
『うん、高校ん時のやつなんだけどね』
『へぇ〜、もうほとんどビョーキだね』
『うるせ〜っ』
『行くんでしょ?高幡』
2人は電車に乗って高幡不動に向かった。
高幡不動駅に着いた2人はマンションを探した。
『駅前のマンションって言うけど、こんなにたくさんあるの?』
『最近急に建ちだしたよ』
雅夫は築20年くらいは経ったであろうマンションに目を付けた。
『多分あそこだね。郵便受けから号数がわかるかもしれない』
名字を頼りに一つずつ見ていった。
『先輩、あったよ!』
『705号室か。行ってみよう』
エレベーターで7階に上がり、部屋の前に来た。
[ピンポーン]
小太りの男性がドアを開けた。
『突然すみません。舞さんはおられますか?』
『舞?』
『旧姓桜田、桜田舞さんなんですが』
『お宅らは?』
『舞さんの高校時代の友達なんですが、調布のアパートに行ったら、こちらに嫁いだと聞いたもので』
『あ…そうですか。あの〜、駅前の[道]という喫茶店があるので、そこで待っててください。すぐ行きますので』
『わかりました』
2人は喫茶店に行った。