第1話
『ねぇ、智美、そろそろ会いに行こうかと思うんだけど…』
『彼に会いに行くの?卒業するまで待つんじゃなかったっけ?』
桜田麗奈と山中智美はファーストフードショップで、ハンバーガーを食べながら話をしている。
麗奈と智美は都立高校の2年生。幼なじみでお互いの将来や恋愛を語り合える、いわゆる親友ってやつだ。
『う〜ん、そうなんだけど…なんか早く会いたくなっちゃって』
『でもさ、彼に彼女や奥さんがいたらどうするの?』
『私のセクシービームでメロメロにして奪ってやるぅ』
『セクシー?誰が?』
『麗奈ちゃん』
自分を指差して言う。
『あのねぇ、セクシーってのは私みたいのを云うの』
智美は背が高く均整のとれた顔と体付きで、雑誌の読者モデルをやっている。それに比べ、麗奈は背が低く、童顔で制服を着てなければ中学生に間違われるほどだ。
『わかってるわよ。言ってみただけ』
『第一、あんた一人で新幹線にでも乗ってたら補導されるよ』
『失礼ねっ、これでもしっかりメイクすれば少しは大人っぽくなるのよ』
『メイクって言ったって、いつもファンデーション塗ってリップひくだけじゃん』
さすがは幼なじみ。全てお見通しだ。
『ダメかなぁ?』
『ダメじゃないけどさ。今度ちゃんと教えてあげるから。ケバすぎないメイクを』
『ありがとだぴょ〜ん』
『そんな言葉使使ってると、彼にドンビキされるからね』
『わかってるニャン』
両手で猫耳の真似をする。
『会う前にそういう所を直さなきゃね』
智美が冷ややかな目をして言う。
『そんな冷たい言い方しなくてもいいじゃん』
『同級生に会いに行くんじゃないんだからさ、れっきとした大人に会うんだよ。逆に麗奈のそんな姿を見て、萌え〜っなんて言われたらどうすんのよ?』
『イヤだ』
『でしょ?』
『ていうか、まーくんはそんな人じゃないもん』
『はいはい』
智美は携帯に目をやった。時間を気にしているようだ。
『仮に彼女や奥さんがいたとしても、まーくんに私の気持ちを伝えたいの』
『お母さんの気持ちも、でしょ?』
『うん、お母さんの手紙も渡さなきゃいけないし』
『でも普通さぁ、親子で同じ人好きになる?信じられないよ』
『お母さんがまーくんの話ばっかりするからさ…初めはなんとも思わなくて、ただ聞いてるだけだったけどね。いつしか私の中で想像から好奇心に変わってしまって、ついに愛情に進化してしまいましたぁ』
定期入れの中から写真を取り出した。
『特別イケてるって訳じゃないんだけど、なんか惹かれるんだなぁ、これが』
『実物も見ないで、愛情だなんてよく言うよ。その写真から20年位は経ってんだよ。デブでハゲてたりして』
智美は雅夫の写真を見て、今の姿を想像して笑った。
『何笑ってんのよ。デブでもハゲでもいいのっ!まーくんはまーくんだもん』
麗奈が口を尖らせる。
『そこまで言い切れれば想いは本物ね』
『当たり前じゃん』
とは言いつつも、多少の不安はあった。
『おかげで彼氏を一切作らないもんだから、私達レズだと思われてるし』
麗奈と智美は、四六時中一緒に行動してるので周りからはそういった目で見られてる。
『私にとっては好都合なのよ。告られるとウザイし。智美は迷惑なの?』
『私も男が寄りつくと面倒くさいからいいんだけどさ』
『もし、私がまーくんに振られたらレズになっちゃおうか?』
『お断りっ。私だってちゃんとした恋愛と結婚がしたいもんね』
『智美に振られたよ〜』
泣き真似をする麗奈。
『バカなこと言わないの。とにかく、行く日を決めたら教えてよ。これから撮影のバイトがあるから行くね』
『今何時?』
智美は携帯の画面を見て、
『6時20分』
『マジでっ!?私もバイト遅れちゃう』
バタバタ片付けて、外に出た。
『じゃあね』
『バイバーイ』
2人は左右に散って行った。