第一話 未知との邂逅
白く、まるで北方に居るといわれる銀龍のような美しい色の長髪
明るく、まるで商都に流れ込むといわれる上質な小麦のような肌
青く、まるで内海に浮かぶ孤島にあるといわれる美しき海のような瞳
耳の形は神樹の葉のように美しく、鼻筋は街道と見紛うほどに通っている。
嗚呼、なんて完璧。この村の珠玉であることに疑いを持つような愚か者は、世界のどこにもきっと居ないだろう。
なのになぜ、世界から一目私を仰ぎ見ようと、人が村に溢れかえらないのだろうか。
私はこの村を動かず、ずっと待っているのに。
私の生活圏は家と、海の往復で終わる。
いつの日か来るであろう参列者が、私の家を訪ねに来て、留守ではもったいないだろう。この私の美貌を一目見ることができないともあれば「その人間の人生の10割は無駄をしていると同義」だからな。
だから私は、一日のほぼすべてを家で過ごし、夕方近くの海を見に行く。崖に家は建っている。だから窓からでも見る事はできる。けれど、わざわざ私は、村から上がるかまどの煙を、村の喧騒を、帰路の途に就く村の子供を背にして海を見る。
そうやって毎日、日が暮れていく。
あの「夕日」というものは、どうやら相当に美しいものらしい。
私もきっといつか、夕日になるのだと。
そしていつものように釈然としない気持ちを、夕日に向かって投げる。
ある日、家が揺れた。
私の美しい髪に茶がかかる。
苦情をいれようと、震源を探る。自然災害だろうと人為的な揺れだろうと、私の髪を濡らした者に一言付けてやらないと。
村人が、崖の下の洞窟で煙が上がっているのを発見したらしい。
「きっとそれだ」
私は怒りに身を任せ、洞窟に乗り込む。
「なんだ!実験か!魔法か!なんにせよ、僕の家の下を震源にし腐ってからに!覚悟をすることだな!」
乗り込んだ先に居たのは鈍く光る魔法陣と、謎の……魔法具なのだろうか。二つに折れ曲がる、手のひら大の板型の魔法具?に向かって、怒髪冠を衝くような勢いでまくしたてる女性が一人。
「電波の届かないってなによ!!せっかく、高い契約料支払ってるんだから、さっさと届くようにしなさいよ!」
「おい、そこの女。何をしている?もしや私を見に来た人間か?」
そう私が訪ねると女性は私を一瞥し、一瞬無視を決め込むような仕草をしたかと思えば、急に笑顔になって喋り返してきた。
「あら、こんにちは。何かしら、その恰好。仮装?でもちょうどよかったわ~!気が付いたらこんなところにいたのよ!坊ちゃ……お兄さん、商店街への戻り方ご存知かしら?」
「知らぬ。何だそのショーテンガイとは。貝の仲間か?それより先ほどの揺れについて私は聞いているのだ。答えてもらおう」
「ンま!私がおばさんだからって舐めてるのね!腹立たしい!」
私たちの口論はますますヒートアップをしていくが、その背後は騒がしかった。様子を見に来た村人たちが集まってきていたのだ。
ひとまず、私と女性は村に連れてこられた。村人は状況を聞こうと女性と接触するが、どうやら怒りはますます燃え盛るばかり。
「私なんてどうでもいいのね!」
だとか
「固定でいいから電話はないのかしら!」
などと、よくわからないことをまくしたてている。
相当に異様な身なりで、丸い赤色の眼鏡に、恐らく魔術を込めていると思われる赤い球が連なった首飾り。尋常ではない発色をした紫の衣服と、大きな石の嵌った魔法具。村人は気が付いていないが、あの特徴は聞いたことがある。察するに、ローブこそ身にまとっていないが、魔術師だろう。転送魔法か何かに失敗したのだ。ローブは恐らく、あの鳥の巣のような髪の毛で羽織れなかったとみるべきか。私は、世界に出たことこそないが、かなり博識だと自負している。
魔法の失敗で少々同様をしている女性に、改めて私は接触する。
「先ほどは済まなかった。初めまして、私はウィケーリと申す。あなたがどこから来たのか教えてはくれないだろうか?」
女性は大きな鼻息を噴かせた後に続いた
「こちらこそ、先ほどはごめんなさいね。ちょっと気が動転していたみたい。池井さんっておっしゃるのね。私はカナエと言います。ヤノ・カナエ。池井さんは下のお名前なんておっしゃるの?」
これは世界を知らなかった私が、彼女と出会い、そして世界を知るために旅をする物語。




