深窓の令嬢の「心の闇」が深すぎて召喚獣が未確認生物なんですが、私の罵倒を食べて脳内に【焼き鳥とハイボール】を送ってくるので、恍惚の表情をしていたら聖女と勘違いされ、ついでに国が傾きました
CWAVE の第一・第三日曜 21:30-22:00
「みちこの寄り道くまもと話」投稿テーマが「おつまみ」と言うことで、投稿原稿書いてるつもりがこんなストーリになりました。
ラジオで読んでいただくことが目的でもなく、自身の不思議な感覚といただいた「おつまみ」を組み合わせてみました。
ご丁寧にみちこさんが意見までいただいた。
御指摘いただくとは思ってもいませんでした。3遍のストーリを一つにまとめ、記念にアップしておくつもりなのが始まりです。
深窓の令嬢の皮を被った「心の中が赤提灯」な私が、前世の人格入り着ぐるみ召喚獣と共に、脳内焼き鳥&ハイボールの幻覚で聖女認定されながら、ストレス源(王子や悪役令嬢)を物理的に吹き飛ばしていく話。
第1章:召喚獣は「モップ」でした(中身入り)
「リリアナ・ヴァレンタイン! 貴様のような陰気で何を考えているか分からん女との婚約は、この場で破棄させてもらう!」
学園の中庭。衆人環視の中、第一王子アレクセイの声が響き渡る。
隣には、勝ち誇った顔の男爵令嬢ミランダがべったりと寄り添っていた。
私は、深窓の令嬢として名高いリリアナ。
病弱で、儚げで、風が吹けば飛びそうな可憐な花。
……ということになっている。
(あー、うっせぇ。なんだコイツ。声でかすぎだろ鼓膜破れるわ。つーかミランダの香水、トイレの芳香剤かよ。鼻が曲がる。二人まとめてドブ川にダイブしてくんねぇかな)
私の内面は、これである。
ストレス社会ニッポンでブラック企業に勤め上げ、過労死した前世の記憶。
現世でも「深窓の令嬢」というクソ面倒な設定を守るため、溜まりに溜まったストレスは限界突破寸前だった。
「……殿下、それはあまりにも……」
私は震える手で口元を覆う。
実際は、あくびを噛み殺しているだけだが、周囲にはショックで打ちひしがれているように見えるらしい。
「ふん! 貴様のその辛気臭い顔も見飽きた! さあ、最後のチャンスをやろう。今日の『聖獣召喚の儀』で、貴様が無能であることを証明してやる!」
アレクセイが指差す先には、魔法陣。
貴族としての魔力量を測る、大事な儀式だ。
ミランダはすでに、可愛らしいピンク色の小鳥を召喚してチヤホヤされている。
(めんどくせぇ……。さっさと終わらせて帰って寝てぇ……。こんな世界、隕石でも落ちてリセットされればいいのに)
どす黒い感情を抱えたまま、私は魔法陣に立った。
詠唱? 忘れた。適当でいいや。
心の中で「出てこいや!」と念じる。
ボフンッ!!!
間抜けな音と共に、煙が晴れる。
そこにいたのは、優雅なユニコーンでも、威厳あるドラゴンでもなかった。
――薄汚れた、灰色の毛玉。
目も口もない。ただの毛むくじゃら。
どう見ても、使い古された「モップ」だった。
「……は?」
アレクセイが呆気にとられる。
「プッ、あははは! 何よそれ! ゴミ? ゴミを出したの!?」
ミランダが腹を抱えて笑う。
周囲の生徒たちもざわつく。
「見ろよ、何も見えないぞ?」
「リリアナ様、魔力が無くて失敗されたんだ……」
「可哀想に……」
そう、彼らには見えていないのだ。
私と、この「モップ」の間にだけ流れる、奇妙なパスが。
(……あー、ダルい。全員死ねばいいのに)
私がそう思った瞬間だった。
足元の「モップ」が、ブルルンと震えた。
――『ヘイお待ち! 極上の呪詛、いただきやす!』
頭の中に、しわがれた声が響く。
次の瞬間。
――ジュワァァァ……!
私の脳内に、強烈な映像と感覚が雪崩れ込んできた。
炭火で焼かれる鶏皮。滴る脂。焦げた醤油の香ばしい匂い。
そして、キンキンに冷えたジョッキに注がれるハイボール!
(……っ!?)
炭酸の喉越し。脂の旨味。
幻覚だと分かっているのに、脳髄が痺れるほどの快楽。
ストレスという毒素が、アルコールという名の聖水(幻覚)で浄化されていく――!
「はぁ……ぅ……♡」
私は思わず、うっとりと目を細め、頬を紅潮させた。
罵倒も、嘲笑も、どうでもいい。
今、私の世界には焼き鳥しかない。
全てを許せる。人類みな兄弟。ありがとう、焼き鳥。
「なっ……!?」
アレクセイが後ずさる。
「こ、この期に及んで、なんて清らかな微笑みなんだ……!?」
「罵倒されてもなお、慈愛に満ちた表情……まさか、全てを許しているというのか!?」
「リリアナ様……なんてお優しい……!」
周囲の評価が勝手に爆上がりする。
違う。私は今、脳内で「とりあえず生」を注文しているだけだ。
その時。
ドンッ!!
不可解な衝撃音が響いた。
笑い転げていたミランダの金髪のカツラが、垂直に空高く舞い上がったのだ。
「ひゃっ!?」
露わになったのは、貧相な地毛とネット。
「ぶっ!?」
同時に、アレクセイ王子のズボンの尻部分が、パァン!と音を立てて裂けた。
派手なイチゴ柄のパンツが白日の下に晒される。
「「ぎゃあああああああ!!」」
悲鳴を上げる二人。
私は恍惚の表情のまま、心の中で呟く。
(……あら、焼き鳥のおまけかしら?)
足元のモップが、ふりふりと毛を揺らした。
まるで「お粗末!」と言わんばかりに。
第2章:聖女爆誕(誤解)と物理的因果応報
あの日以来、私の学園生活は一変した。
「モップ」は私の影のように付き従うようになった。
名前? 面倒だから「モップちゃん」でいい。
こいつの生態はシンプルだ。
私が負の感情(ストレス、殺意、虚無感)を抱くと、それをパクパク食べる。
そしてお返しに、私の脳内に【至高の晩酌セット】の幻覚を送り込んでくる。
おつまみモンスター。
それがこいつの正体らしい。
数日後。
学食にて。
「あらリリアナ様、今日も一人? お友達がいないのね」
ミランダが取り巻きを引き連れて絡んでくる。
懲りない女だ。カツラの件は「突風のせい」にしているらしい。
(うっざ。なんで生きてんの? 視界に入らないでくれる? その毒々しいメイク、舞台役者かよ)
私の心の声を聞きつけ、テーブルの下からモップちゃんが顔(?)を出す。
『あいよ! 特大の悪態、煮込み入りましたー!』
脳内に広がる映像。
じっくり煮込まれた牛すじ煮込み。上に乗った刻みネギ。
合わせるのは、常温の日本酒。
(んふぅ……♡ 染みるぅ……)
私の表情がとろける。
瞳は潤み、口元は緩み、全身から力が抜けていく。
それはまさに、悟りを開いた菩薩のような――あるいは、限界OLが金曜の夜に最初の一口を飲んだ時のような――至福の顔だった。
「な、なによその顔……! 気持ち悪い!」
ミランダが水をかけようとグラスを持ち上げる。
その瞬間。
ガシャーン!!
ミランダが持っていたグラスが謎の粉砕。
さらに、彼女が座ろうとした椅子が、まるで意思を持ったかのように後ろへスライドした。
「えっ……きゃあああ!」
ドッスン!
尻餅をつくミランダ。
その拍子に、テーブルの上のスープ皿が宙を舞い、綺麗に彼女の頭上に着地した。
「……っ! あ、熱っ! 何これ!?」
クリームシチューまみれになるミランダ。
私は、牛すじ煮込みの余韻に浸りながら、ぼんやりとそれを見つめる。
「……あら、ミランダ様。お顔色がよろしいですね。シチューの保湿効果かしら」
私の口から出たのは、皮肉のつもりの言葉。
しかし、酩酊感(幻覚)のせいで声が甘く震えていたため、周囲にはこう聞こえた。
「なんてこと……虐められても相手の肌を気遣うなんて……!」
「聖女だ……リリアナ様は本物の聖女だ……!」
違う。
私は今、脳内で七味唐辛子を追加投入しただけだ。
こうして、「何をされても微笑みで許す慈愛の令嬢」という誤解は、雪だるま式に膨れ上がっていった。
その裏で、私に害をなそうとする者たちは次々と謎の事故(階段から滑り落ちる、鳥のフンが直撃する、服の縫い目が全開になる等)に見舞われ、自滅していった。
第3章:隣国皇太子の求婚と「即身成仏」
噂は海を越えたらしい。
隣国の軍事大国、ガレリア帝国の皇太子ジークフリートがやってきた。
「噂の聖女、リリアナ嬢。君を我が国の皇太子妃として迎えたい」
学園のホール。
長身で冷徹そうな美貌の皇太子が、私に跪く。
周りの女子生徒たちが黄色い悲鳴を上げる。
だが、私は知っている。
この国は、聖女を「兵器」として利用しようとしていることを。
行ったら最後、過労死確定のブラック国家だ。
(はぁぁぁぁ!? ふざけんなよ! せっかくアレクセイと縁が切れて平穏無事な引きこもりライフを送ろうと思ってたのに! なんでまた王族!? しかも軍事国家!? 絶対イヤ! めんどくさい! 帰れ! 国ごと滅びちまえ! ハゲろ! 足の小指をタンスの角にぶつけて悶え苦しめ!!)
史上最大級の拒絶反応。
負の感情のビッグウェーブ。
足元のモップちゃんが、かつてないほど激しく振動する。
『へいお待ちぃぃぃぃ!! 特盛の殺意! こいつは極上品だぁ!! お返しは――【炙りエイヒレと熱燗、からのシメのお茶漬けスペシャル】だぁぁぁ!!』
ドォォォォォン……!
私の脳髄を、宇宙が駆け巡る。
香ばしいエイヒレの香り。噛めば滲み出る旨味。
それを流し込む、絶妙な温度の熱燗。五臓六腑に染み渡る温もり。
そして最後に来る、出汁の効いたお茶漬けの優しさ……!
これはもう、快楽ではない。
救済だ。
涅槃だ。
「あ……ぁぁ…………尊い……」
私の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちる。
あまりの幸福感に、意識が飛びそうになる。
体から後光すら差している気がする(実際、魔力漏れで光っていた)。
その「即身成仏」のエネルギーは、モップちゃんを経由して、目の前のジークフリート皇太子に直撃した。
ゴゴゴゴゴゴ……
皇太子の背後に、巨大な黄金の仏像の幻影が出現する(私にしか見えないが)。
「……っ!?」
ジークフリートの瞳から、スッとハイライトが消えた。
彼の中にあった野心、征服欲、独占欲。
それらが急速に浄化され、「無」へと帰っていく。
「……あ、ああ……そうか……」
ジークフリートが、憑き物が落ちたような顔で空を見上げる。
「争いなど……虚しいだけだ。国土を広げて何になる? 人は生まれ、やがて死ぬ。全ては空なり……」
彼は私に向き直り、穏やかに微笑んだ。
「リリアナ嬢。君のその慈愛の波動に触れ、私は真理を悟ったようだ」
「え?」
「私は皇位継承権を放棄し、出家する。山に籠り、世界の平穏を祈ることにしよう」
「は?」
「ありがとう。君こそが、私を導く菩薩だったのだ」
ジークフリートはその場でマントを脱ぎ捨て、従者たちが止めるのも聞かず、颯爽と去っていった。
後日、彼は本当に丸坊主になって山奥の寺院に入ったという。
会場は静まり返る。
そして次の瞬間、爆発的な拍手が巻き起こった。
「す、すごい……! あの好戦的な皇太子を、言葉一つ交わさずに改心させた……!」
「国を救ったぞ! リリアナ様万歳!」
私は、エイヒレの余韻でふらつきながら思う。
(……私、なんもしてないんだけど)
結章:赤提灯の秘密
騒動の後。
私は公爵家の自室に戻り、ベッドにダイブした。
「はー、疲れた……」
今日も今日とて、望まぬ聖女活動(ただの妄想晩酌)だった。
部屋の隅では、モップちゃんがゴロゴロ転がっている。
「ねえ、あんた。結局何なの? ただの魔物じゃないわよね」
私が問いかけると、モップちゃんがおもむろに立ち上がった。
そして。
ジジ……ジジジ……
背中の毛の中に隠れていた、チャックが開く音がした。
「……ぷはぁっ!」
モップの中から顔を出したのは、半透明の霊体。
頭にねじり鉢巻をした、ランニングシャツ姿の薄汚いおっさんだった。
「いやー、今日の『お茶漬け』は効いたねぇ嬢ちゃん! おかげでこっちの魔力タンクも満タンだわ!」
「……誰?」
「誰って、お前さんの前世の記憶の一部だよ。もっと言えば、お前さんが通ってた新橋のガード下の居酒屋『赤提灯』の店主の想念だ」
おっさんがニカっと笑う。
「お前さんが死ぬ間際、『あー、親父の焼き鳥食いてぇなぁ』って強く願ったろ? その未練が、この世界で俺というスタンドを生み出しちまったってわけよ」
「……はぁ」
まさか、召喚獣の中身が馴染みの店の親父だったとは。
道理で、幻覚の味再現度が高いわけだ。
「俺は、お前さんのストレスを喰って、最高の一杯を提供し続ける。それが俺の使命だからな」
親父はウィンクした。
「ま、お前さんが『即身成仏』しちまう前に、現世で幸せ掴めよ? ……と言いたいところだが、今の聖女扱いも悪くねぇんじゃねぇか?」
私は窓の外を見る。
アレクセイは失脚し、ミランダは実家の領地へ帰された。
隣国の脅威も去り、私の周りは平和そのもの。
何より、嫌なことがあっても、この「動く居酒屋」がいればいつでもハッピーになれる。
「……そうね」
私は冷蔵庫から、本物のビール(この世界のエール)を取り出した。
そして、モップちゃんの口とおぼしき部分に注ぐ。
「あーあ、早く家に帰って、モップちゃんの背中のチャック下ろしてビール飲ませてあげなきゃ。……中の『おじさん』が干からびちゃうわ」
「おうおう! 気が利くねぇ嬢ちゃん! これだよこれ!」
親父の霊体が旨そうにビールを飲む。
私はそれを見ながら、プシュッと自分の分の栓を開けた。
深窓の令嬢リリアナ。
その正体は、心の中に赤提灯を飼う、最強のストレスフリー聖女。
私の夜は、これからだ。
(了)
ストーリーはどうでしたか?私の創作はまだまだ続くよ。
少しでも楽しんでいただけて、良い暇つぶしになっていたら嬉しいです!
実は、もっとみんなと作品についてお喋りしたくて、ミクチャで平日17時から19時くらいで配信をしてます。ただし、創作優先&リアル優先で、おやすみあり イベント目的じゃないからアイテムいらないよ
感想を聞かせてもらったり、創作の裏話をしたり……そんな双方向のやりとりができるのを楽しみにしています。
**ミクチャID:18283637**
ぜひ検索して覗きにきてくださいね。
それでは、また次のストーリーでお会いしましょう!




