卒業パーティで断罪されたので「消えてしまいたい」と願ったら、謎の毛玉が校舎ごと物理的に消滅させてくれました。~皆が怯えて私を直視できないようですが、透明人間になれたみたいで快適です~
CWAVE の第一・第三日曜 21:30-22:00
「みちこの寄り道くまもと話」投稿テーマが「おつまみ」と言うことで、投稿原稿書いてるつもりがこんなストーリになりました。
ラジオで読んでいただくことが目的でもなく、自身の不思議な感覚といただいた「おつまみ」を組み合わせてみました。
ご丁寧にみちこさんが意見までいただいた。
御指摘いただくとは思ってもいませんでした。3遍のストーリを一つにまとめ、記念にアップしておくつもりなのが始まりです。
断罪のショックで「消えたい」と願ったら、謎の毛玉に『物理的に』存在感を消され(たと思い込み)、最強の魔王に拾われるまでの爆速成仏物語。
「──リリアーナ・ベルナドット! 貴様との婚約を、この場で破棄する!!」
王立学園の卒業パーティー。
豪奢なシャンデリアの下、第一王子アレクセイの声が響き渡った。
音楽が止まる。
談笑が凍りつく。
数百人の視線が、会場の中央に立つ私、リリアーナ・ベルナドットに突き刺さった。
アレクセイの腕には、小動物のように愛らしい男爵令嬢がしがみついている。
彼女は潤んだ瞳で私を見て、怯えたように身を縮こまらせた。
「怖い……リリアーナ様、ごめんなさい……っ」
「大丈夫だ、ミナ。僕が守る」
王子は正義の騎士気取りで私を睨みつける。
「ミナへの度重なる嫌がらせ、教科書の破損、階段からの突き落とし……これら全て、貴様の仕業だな!?」
(……は?)
身に覚えがない。
全く、これっぽっちも。
私はベルナドット公爵家の娘として、次期王妃として、血の滲むような努力をしてきた。
睡眠時間を削って公務をこなし、マナーを磨き、王子の至らない部分を影で支えてきた。
教科書? 階段?
そんな低レベルなことをしている暇なんて、一秒たりともなかったのに。
「弁解の余地はない! 衛兵、こやつを捕らえろ!」
ざわめきが波のように広がる。
軽蔑。嘲笑。憐れみ。
──ああ、もう嫌だ。
張り詰めていた糸が、ぷつんと切れた音がした。
誰も私を見ていない。
みんなが見ているのは「悪役令嬢」というレッテルだけ。
私の努力も、私の心も、誰も見てくれなかった。
(消えたい)
心の底からそう思った。
(もう誰も私を見ないで。私なんて、最初からいなければよかったんだ)
(消えてしまいたい。塵みたいに、跡形もなく)
ふと、視界の隅になにかが映った。
毛玉だ。
フワフワとした、ソフトボールくらいの大きさの、真っ白な毛玉。
目も口もない。ただの毛の塊。
それが、私の足元にぽとりと落ちていた。
『……いただきまーす』
声なき声が、脳に直接響いた。
次の瞬間、私の胸の中に渦巻いていたドロドロとした黒い感情──自己否定、絶望、諦観──が、シュルシュルと音を立ててその毛玉に吸い込まれていった。
「……え?」
毛玉は一瞬で倍の大きさに膨れ上がった。バスケットボール大になったそれは、プルプルと震え、私に向かって強烈なイメージを送り返してきた。
──【即身成仏】
それは言葉ではなく、概念だった。
現世という苦しみの箱庭からの脱却。
肉体という檻を捨て、精神のみの透明な存在へと昇華するイメージ。
圧倒的な「無」への肯定。
(そうか……)
私はストンと腑に落ちた。
(私は、消えられたんだ)
体が軽くなった気がした。
周囲の音が遠のく。
王子の怒鳴り声も、貴族たちのひそひそ話も、まるで別世界の出来事のようだ。
「衛兵! 何をしている、早く捕らえろ!」
王子が叫ぶが、衛兵たちは動かない。
それどころか、青ざめた顔でガタガタと震え、後ずさりを始めている。
(ふふ、やっぱり。私が見えないから、捕まえられないのね)
私は透明人間(幽霊?)になったのだ。
毛玉さん──「おつまみ」と名付けよう──のおかげで、私はこの世の理から解き放たれたのだ。
私は一歩、前へ出た。
「ひっ……!」
正面にいた貴族の令息が、悲鳴を上げて腰を抜かした。
まるで、得体の知れない怪物でも見たかのような顔で。
(あらあら、見えない何かが近づいてくる気配が怖いのね)
実際には、私は透明になどなっていなかった。
おつまみモンスターが放つ「認識阻害と絶対的畏怖のオーラ」が、私を包み込んでいたのだ。
周囲の人間には、私が「直視すれば精神が崩壊するほどの禍々しいナニカ」に見えている。あるいは、本能的な恐怖で「見てはいけないもの」として脳が視覚情報をシャットアウトしているだけだった。
私は軽やかな足取りで、王子の前へと進んだ。
王子は顔面蒼白で、ガチガチと歯を鳴らしている。隣の男爵令嬢に至っては、白目を剥いて泡を吹いて気絶していた。
「あ……あ、あ……」
王子がパクパクと口を動かす。
私が見えているはずがないのに、視線が私の顔のあたりを彷徨っている。
(可哀想に。見えない恐怖と戦っているのね)
私は慈愛の心で、王子の前に立った。
この男は、いつも見た目ばかり気にしていた。
特に、最近気にしていたのが……。
私は手を伸ばし、王子の頭に乗っている「それ」を、ひょいとつまみ上げた。
カポッ。
軽快な音がして、王子の頭頂部が涼しげになる。
金色のふさふさとしたカツラが、私の手の中にあった。
「……あ」
会場が、静寂に包まれた。
王子だけではない。
宰相も、騎士団長も、誰もがその光景を見ていた。
けれど、誰も動けない。
「触れられたら死ぬ」「関わったら終わる」という本能的恐怖が、彼らを金縛りにしていた。
(うん、いい手触り。記念に持っていってあげようかしら。どうせ私はもうこの世の住人じゃないし)
私はカツラを片手に、出口へと向かう。
人々がモーゼの海割りのように道を開ける。
誰も私を見ない。
目を逸らし、震え、祈るように手を組んでいる者さえいる。
(ああ、なんて自由なんでしょう!)
おつまみモンスターが、私の足元をコロコロと転がりながらついてくる。
まだ足りないようだ。
私の長年のストレスは、こんなものでは消化しきれないらしい。
『もっと……もっと解放されよう……』
再び、脳内にイメージが叩き込まれる。
──【現世浄化】
汚いものは洗い流さなければならない。
未練を残さないために。
この箱庭(学園)は、私を閉じ込めていた鳥籠だ。
出立の前に、壊してしまおう。
(そうね。こんな窮屈な場所、もういらないわ)
私は出口の扉の前で立ち止まり、振り返った。
豪華なホール。
着飾った虚飾の人々。
薄くなった頭を晒してへたり込む王子。
「さようなら、皆様。どうかお元気で(成仏してください)」
私は優雅にカーテシーをした。
そして、軽く手を振った。
おつまみモンスターが、ブンッと膨張した。
私の「全てを無に帰したい」という願いを増幅し、物理エネルギーへと変換する。
ドォォォォォォォォォンッ!!
爆音。
天井のシャンデリアが砕け散る。
壁に亀裂が走り、窓ガラスが一斉に割れる。
衝撃波が会場を駆け抜け、王子たちは枯れ葉のように吹き飛んだ。
校舎そのものが、内側からの圧力に耐えきれず、悲鳴を上げて崩壊していく。
それはまるで、砂で作った城が波にさらわれるように、あまりにもあっけない最期だった。
ガラガラと崩れ落ちる瓦礫の中、私は無傷で立っていた。
おつまみモンスターが張ったバリアのおかげだ。
夜風が心地よい。
見上げれば、満天の星空。
先ほどまで天井があった場所には、美しい月が輝いている。
「ふぅ……スッキリした」
学園は更地になっていた。
物理的に。
(これで私は、心置きなく成仏できるのね)
瓦礫の山となった元・会場を見渡す。
人々は皆、奇跡的に瓦礫の隙間に挟まったり、衝撃で庭の植え込みに突き刺さったりして無事(?)なようだ。ただ、全員が恐怖のあまり正気を失いかけているけれど。
「リリアーナ……!」
その時、空から誰かが降りてきた。
漆黒のマントを翻し、夜の闇を凝縮したような美しい男。
隣国、ガルガディア帝国の皇帝──通称「魔王」と呼ばれる、クロード様だ。
彼は私の幼馴染であり、かつて交換留学に来ていた時に仲良くなった唯一の友人だった。
「あら、クロード様? どうしてここに?」
「君の気配が……消えかけた気がして、急いで飛んできたんだ!」
クロード様は、更地になった学園と、カツラを持って立ち尽くす私を見て、息を呑んだ。
そして、私の手を取り、強く抱きしめた。
「よかった……まだ、ここにいてくれた」
「あら、私、見えていますの? もう成仏したつもりだったのですけれど」
「成仏なんてさせるものか! 君がいなくなるなんて、俺は許さない!」
彼の腕は温かかった。
幽霊になったはずなのに、体温を感じる。
「クロード様……もしかして、お迎えの死神さんですの?」
「違う! 俺は君を愛している男だ!」
魔王の絶叫が、静まり返った更地に響く。
彼は私の肩越しに、瓦礫の中で震えるアレクセイ王子たちを睨みつけた。
その瞳が、赫く輝く。
おつまみモンスターも、クロード様の殺気に同調して『フシューッ』と毛を逆立てた。
「よくも……よくも我が愛し子をここまで追い詰めたな」
地を這うような低い声。
王子たちは、失禁しながら必死に首を横に振っている。
「安心しろ、リリアーナ。君の願い通り、こいつらを『歴史』から消してやる」
「えっ」
クロード様が指を鳴らすと、闇の中から無数の魔物が現れた。
どれもこれも、この国を一夜で滅ぼせるほどの高位魔族だ。
「さあ、国ごと更地にする作業の続きを始めようか」
「ま、待ってくださいクロード様! 私はもう十分スッキリしましたから!」
私は慌てて彼を止める。
おつまみモンスターも、満腹になったのか、元のソフトボールサイズに戻って私の肩に乗っかり、のんきに欠伸をしている。
「……君がそう言うなら」
クロード様は渋々といった様子で魔力を収めた。
そして、改めて私に向き直り、膝をついた。
「この国にはもう、君の居場所はないだろう。……俺の国に来てくれないか? 君を、誰よりも大切にする」
差し出された手。
私は、自分が持っていた王子のカツラをポイと捨て、その手を取った。
「はい、喜んで。……私、もう透明人間じゃありませんのね?」
「ああ。君は世界で一番、鮮やかに輝いているよ」
そうして私は、魔王様に抱き上げられ、空へと飛び立った。
眼下には、廃墟となった学園と、カツラのない王子。
これにて、私の学園生活は(物理的に)幕を下ろしたのだった。
その後、隣国で「破壊の聖女」として崇められながら幸せに暮らすことになるのは、また別のお話。
ストーリーはどうでしたか?私の創作はまだまだ続くよ。
少しでも楽しんでいただけて、良い暇つぶしになっていたら嬉しいです!
実は、もっとみんなと作品についてお喋りしたくて、ミクチャで平日17時から19時くらいで配信をしてます。ただし、創作優先&リアル優先で、おやすみあり イベント目的じゃないからアイテムいらないよ
感想を聞かせてもらったり、創作の裏話をしたり……そんな双方向のやりとりができるのを楽しみにしています。
**ミクチャID:18283637**
ぜひ検索して覗きにきてくださいね。
それでは、また次のストーリーでお会いしましょう!




