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TS転生を希望したら、神は俺の願いを全て叶えたらしい

作者: とおエイ

TS転生ザマアものに挑戦してみた次第。


10/9 一回修正したのが反映されてなかったので中修正しました

「ねえ、そろそろ、アルバイトでもはじめてみない? 知り合いのスーパーの店長さんが、品出しでもよければっていってくれてるんだけど……」


 布団の中でゲームをしている俺の耳に、ドアの向こうから母親の声。

 うるせえ。手元にあった雑誌を投げつける。バシンと壁に当たる音がして、それっきり声は聞こえなくなった。


 俺は三十路目前。親に言われるがまま進学校に入り、ついていけずに落ちこぼれた。

 親も最近はあきらめたと思ってたのに、またこれだ。

 お前らの言うなりに高校まで行ってやったろ。この先は親の年金と、死んだらこの家売って、金が尽きるまで遊んで、最後はホームから飛んで終わりでいい。


 むかついたので別のソシャゲを起動する。

 お、今日から新ガチャか。──よっしゃ課金……なんだよ、PoiPoi残高切れって。


「おいババァ! 金よこせよ! 新ガチャ引けねえじゃねえか!」


 怒鳴りながら階下へ降りる。だが誰もいない。

 なんだよ、まったく使えねえな。金は……そう、戸棚だ。

 開けてみると封筒があった。中を覗き、万札を二枚だけ抜き取る。


「謙虚に二枚、な。これくらいの課金なら文句もねえだろ!」


 外に出た瞬間、冷たい空気が頬にぶつかる。

 コンビニまでは歩いて五分弱。昼間の住宅街は静かだ。

 自然と早足になる。

 さっさと帰ってガチャを引かねえと。俺より先にUR引いた報告とか見たらムカつくからな。


 交差点が見えた。コンビニはその向こうだ。

 信号は……赤。

 車は来てないな。──よし、待ってられるかこんなもん!


 一歩、踏み出した。


 耳を切るような風の音。

 視界の端で、何かが急速に迫ってくる。

 ライトの白が目を焼いた瞬間、世界が裏返った。


 金属の衝撃音。空気が潰れる音。

 体が回転し、アスファルトを擦る。

 鼻に入り込む砂と血と油の匂い。

 誰かの声がする。「大丈夫か?!」──けれど遠い。遠すぎる。

 指先が冷えていく。

 スマホが路上に転がる。画面はバキバキで完全に壊れてる。

 ──ガチャ、引けねえじゃねえか。


 それが、俺の最後の記憶だった。


 ◇


 ──真っ暗じゃない。

 でも、眩しいほど明るくもない。

 白い霧の中に、俺は浮かんでいた。

 重力も、足場もない。ただ、ふわふわと、ゲームのロード画面みたいな空間。


「……あれ? 俺、トラックに……」


 思い出しかけた瞬間、背筋に冷たいものが走った。

 やべぇ、死んだ? マジで? 嘘だろ。まだガチャ引いてねぇのに。

 そんな俺の混乱を見透かしたように、霧の向こうから声がした。


『あの……すみません。本当に、すみません!』


 声は澄んでいた。女か男か分からないが、どこか必死さがある。

 霧がすっと晴れ、そこに立っていたのは――金髪に白いローブを纏った、いかにも『神様です』って顔の人物だった。

 光を背負ってて、まぶしすぎる。なんか腹立つ。


「……誰?」


『えっと、その……あなたをこちらにお呼びしたのは、完全な手違いでして!』


「は?」


『本来なら、あなたはまだ寿命が残っていたのです。ですが、システムの不具合で――』


 神が額に手を当てて項垂れた。

 神が。システム不具合。どんな管理してんだよ。


「おい、それじゃあ俺、事故死したのって……」


『はい。本来はトラックに轢かれるのではなくみっともなく避けてその先でドブにはまって大怪我で済む予定だったのですが……』


「何だよそれ!」


『……本当に申し訳ありません!』


 神は土下座した。

 光の床がきらきらと広がり、その上でぴたりと額をつけている。

 いや神が土下座すんなよ、逆に怖いわ。


「で、どうしてくれんの?」


『もちろん、補償を――いえ、責任を取らせていただきます! あなたには転生の権利がございます!その際希望があれば可能な限りで受け付けさせていただきます!』


「……転生?」


 その言葉を聞いた瞬間、脳内で何かがパチンと切り替わった。


 キター!!

 今までさんざん読んで突っ込んできた異世界転生だろこれ!

 動画のまとめはいくつも見たし、設定考察スレも追ってきた。

 ついに俺のターンが来たんだ!


 でも、興奮の波が落ち着くと、妙に冷めた思考が浮かんだ。

 ……いや、目立つのは嫌だ。

 どうせ面倒ごとに巻き込まれて、勇者だの救世主だの言われて殺されるパターンだろ。

 だったら、目立たない。静かに、穏やかに暮らせるのが一番だ。


「転生先はどんな世界なんだ?」


『あなた様の世界の16世紀ドイツ〜フランスあたりが近いですね』


「魔法は存在するのか?」


『はい、誰しもが存在を知っております。』


 なるほど。中世ヨーロッパっぽい世界で魔法ありと。完璧じゃねえか。


「じゃあ、条件を言う。グダグダと質問はいらん。できないときだけダメと言え。」


『……どうぞ』


「まず、性別。男はもういい。今世じゃ何もいいことなかった。だから――女で。できるだけ可愛く。いや、絶世の美少女で頼む。それとガキからやり直しとかやってられねえから年齢も15くらいにしてくれ。」


『……承知しました』


「次に、魔法の才能。チートまではいらないけど、ちゃんと努力が報われるやつがいい。誰にも負けないくらい、魔法が得意な感じで」


 神の指が一瞬止まった。

 が、すぐに小さくうなずいて入力を続ける。


『……魔法適性、最大値に設定いたしました』


「それと資金。これ大事。土地とかいらねぇから、好きに使える金を。できれば一生分くらい」


『土地は……よろしいのですか?』


「そんなの持ったら管理とかご近所づきあいとか、ぜってぇ面倒。地上げとか、貴族とか、そういうのいらない」


『……なるほど。では、金貨換算で千年分の生活費を所持ということで』


「完璧。あと健康。風邪とか病気とかマジ勘弁。体も強く、寿命も長く」


『……了解しました』


「服も。汚れないやつにしてくれ。洗濯とか、人生の無駄」


『……衣類に汚染耐性、付与完了』


 神は淡々と操作を続けていた。

 だが、ほんの一瞬、瞳に影が差したように見えた。


「なに、バグった?」


『少々、心配な点がありまして』


「心配?」


『いえ、些細なことです。では最終確認を。性別:女性。年齢:15歳。容姿:絶世の美少女。才能:魔法適性最大。財産:金貨千年分。健康体。衣類汚染無効。土地所有なし――これで間違いありませんか?』


「完璧。最高だな」


『……承知しました。あなたの希望を、すべて反映いたします』


 神は小さく息を吸い込み、微笑んだ。


 だがその笑みは、どこか苦しげでもあった。


『どうか、穏やかに生きられますように』


「おお、願掛けまでしてくれるのか。さすが神様、サービスいいな」


『ええ。平穏というのは、何よりも尊いものですから』


 神は視線を伏せた。

 その表情には、祈りとも後悔ともつかない影が浮かんでいた。


 ◇


 目を開けば森の中だった。

 木漏れ日、土の匂い、鳥の声。


「……おお、本当に転生したんだ」


 わきを流れていた小川で喉を潤し、水面を覗く。

 ――プラチナブロンドの髪、湖のような碧眼。白磁の肌に繊細な輪郭。

 そこに映っていたのは、想像を超える美少女の顔。俺の、新しい顔だ。


 身につけたのは淡い生成りのワンピースにまっさらな革靴。ひじ丈の袖、膝下の裾。

 縫い目はまっすぐで、布はシミ一つなく清潔なものだった。


「……これが、俺……」


 指先で水面をなぞる。像は揺れて崩れるが、また同じ姿を映し出した。

 ――希望は聞き入れる、と神は言った。確かにその通りだ。


「……本当に、変わったんだな」


 胸の奥で静けさと高揚が混ざる。

 そういえば、魔法。

 その言葉を思い浮かべた瞬間、右手に熱が集まり、ぽっと青白い火が灯る。


「……!」


 続けて風を――と念じると、落ち葉がふわりと舞い上がる。

 自然で、しかも確かに発動していた。

 鼓動が速まる。


「……よし」


 人里を探そうと立ち上がる。

 無意識に地図を思い描くと、目の前に半透明の画面が浮かんだ。森と周辺の簡単な地形図。


「おお、すげえ! 無意識でも発動できるのか。神様万歳だな!」


 人生再スタート。しかも容姿は勝ち組確定。何もしなくても生活にも困らない金はもある。

 これならどれだけ女の子とくっついてもキモがられることもない!

 ゆりゆららでキャッキャウフフなファンタジー生活開始だぜ!


 その地図に従って歩く。

 革靴に泥が跳ねた。雫は革の上で丸く転がって落ちた。

 幸い、モンスターなどには出くわさず、やがて森の切れ目が見えた。


「イベントはナシか。定番なら盗賊や魔物に襲われてるかわいい子が出るもんだが。」


 ◇

 森を抜けた瞬間、世界が変わった。

 開けた先は、小さな集落。むき出しの土、藁屋根、ひび割れた木壁。

 犬がうろつき、鶏が地面をかき回し、空気には馬糞と煤と汗の匂いが混ざっている。

 足元の泥は踏み固められ、昼でも家の中は薄暗い。


「臭っさ……なんだこれ……?」

 今まで読んだネット小説にはこんなこと書いてなかったなと思いつつ、周囲をうかがう。

 遠くから怒鳴り声がした。人の気配に導かれるように足を向ける。

 家々の隙間からは鍋の蒸気、子の泣き声、誰かの笑い声――

 それらに紛れて、刃物のような声が響いた。ついそちらに足を向けた。


 たどり着いたところは広場だった。

 ざわめきは棘のように耳を刺し、中央の杭の前には一人の女が縛られていた。

 縄は粗末だが締め付けは強く、服はぼろぼろ、髪は乱れ、顔は泥と涙にまみれている。

 それでも瞳だけは、異様なほど生々しく周囲をにらんでいる。

 黒ずんだ衣の男が場を仕切り、分厚い書物を掲げて群衆を煽る。


「In nomine—この女は悪魔と契った! 家畜が死に、子が病み、井戸が濁ったのはこの者の仕業だ!」


「嘘だ! そんなことしてない!」


 女の叫びを無視して黒ずんだ衣の男は書物を掲げたまま頷き、助手たちに命じた。

「この者の皮膚を調べよ。印を持たぬ者はいない」

 命令は祈りのように響き、従う者もまた祈るように動く。

 粗布の裂ける音がした。

 女の肩が震え、冷たい空気が肌を這う。

 助手の一人が針を取り出し、腕に突き立てる。抜いた後から細く血が流れる。

 粗布の裂ける音が止むと、黒ずんだ衣の男は再び書を開いた。

 ページの影が女の顔に落ち、蝋燭の炎がその瞳を照らす。

「汝の名を告げよ。主の前で偽ることは許されぬ」

 女は唇を噛み、声を絞り出すように言った。

「……わたしは、人です」

 黒ずんだ衣の男は静かに首を振る。

「神の子は自らを「人」とは呼ばぬ。――悪魔はどの名で汝を呼ぶ?」

 答えがない。

 その沈黙に群衆がざわめき、黒ずんだ衣の男の脇にいた小柄な男が筆を走らせる。

「沈黙。契約の徴あり」

 黒ずんだ衣の男は再び手を上げた。

「神は痛みをもって口を開かせる。救済のためだ」

 冷たい鉄具が運ばれ、女の影が揺れた。

 群衆は息を呑み、子どもまでもが目を凝らして見守っている。


「なんだこれ……」


 脳裏を今まで読んできた異世界転生ものの展開がいくつもめぐる。でもこんなの見たことない。

 ふと思いつく。 これ、魔女裁判ってやつか?

 ヨーロッパで実際にあったっていう、拷問して女の人を殺しまくったってやつ!

 じゃあ、ここ、ヨーロッパっぽい世界じゃなくて、ヨーロッパそのままの世界か?!

 そういえばあいつ()も16~7世紀の何とかって言ってた!

 やべえ、逃げよう!


 そう思って一歩下がった瞬間――女の視線が、まっすぐこちらを捉えた。

 次の瞬間、女は喉を裂くように叫んだ。


「あいつが魔女よ! わたしじゃない!」


 時が止まった。

 ざわめきが、ざり、と音を立てて形を変える。

 ――広場中の視線が、すべて俺に向いていた。

 どこからか声が上がった。

「誰だ?見たことないぞ。旅人か?」

「旅人にしては見ろ、服が……汚れてねえ!」

「あれ、足元!あんなピカピカな靴! 泥ひとつついてねえぞ!」

「髪が光ってる! 陽の下であんな色、見たことねえ!」

「悪魔が授けた金髪だ!」

「顔だって……あんな真っ白なの、村にいるか? 血が通ってねえ!」

「目もだ! 碧い! あんな色は人間じゃねえ!」


 声が連鎖する。

 恐怖と興奮が混ざった叫びが波のように広がり、

 瞬く間に「魔女」という言葉が広場を埋め尽くした。


「……ま、待っ……」


 声が震えた。

 群衆の中の誰かが十字を切り、別の誰かが石を拾う。

 子供の投げた小石が、頬をかすめた。


 反射的に右手が動いた。

 意識するより先に、障壁の魔法が発動する。

 飛んできた石が空中で弾かれ、地面に転がった。


 その光景を見た瞬間、群衆が息を呑む。

 一瞬、誰も動かなかった。

 鐘が一度だけ鳴った。

 次の瞬間、悲鳴が爆ぜた。


「魔法だ!」

「魔女だ!」

「火刑だ! 焼けば全部清められる!」

「捕まえろ!!」


 怒号と足音。

 土煙が上がる。

 広場の村人全員が一丸となって駆けてくる。


 逃げる? 叫ぶ? 何を? どうすれば?

 頭が真っ白になる。


 誰かの手が腕を掴んだ。

 引きずられるようにして後ずさりしながら、

 自分の手がまた光を放つのが見えた。

 光が眩しすぎて、世界が一瞬にして白く塗りつぶされる。


 ……そして光が消えたとき、俺は地面に倒れていた。

 腕には、誰かの手の燃え残りがまだ食らいついていた。

 喉が焼けるように痛い。煙の臭い。

 顔を上げると、村人たちが輪になっていた。

 松明、鎌、石。誰もが敵の目をしていた。


「お、俺のせいじゃねえ、無理やり引っ張るから勝手に……!」


 声が震えていた。

 誰も聞いてくれない。

 一歩近づかれるたびに、心臓が縮む。


「助けろよ……神様、なんとかしろよ……!」


 右手を振り上げた。

 魔法――

 風がふわりと揺れた。

 小さな明かりが灯った。

 手がぶるぶる震えて、空気ばかり掴む。


「ふざけんなよ…… 神!全部お前のせいだろ! 手違いとか言ってたじゃねえか!返せよ! 俺の人生返せよぉ!」


 声が裏返った。涙が勝手に出た。

 鼻水が垂れた。

 それでも誰も助けてくれなかった。


 群衆の向こうで、さっき書を掲げていた男が一歩前に出た。

 書を高く掲げ、喉の奥で短く祈りを切ると、朗々と声を張る。


「――神を冒涜したこの者、まさしく魔女なり!」


 鐘が鳴った。

 その音が、俺の世界の最後だった。

本人が読者にざまあ言われるのもザマアでいいのかな?

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