勝者の行方
無法地帯のような異世界に召喚されたキャラを生存させるゲームで、序盤は両者順調にターンを重ねていく。
「4ターン目……ここが重要なんだっけ?」
「5の倍数ターンは、主人公を異世界に召喚した魔族が殺しに来るからな。仲間と能力は揃えてきたか?」
「前の手番にうっかり名前を呼んだ仲間と殺し合ってきたが、問題はない」
強迫の効果で、名前を呼ばれて殺し合いに発展したステラーウォーカーのPT。メンバーは半壊したが、まだ立て直せるだろうということで、割とポジティブだった。
「蘇生釜でも使ってみるか。これ、自分でトドメさした人に使って恨まれたりしない?」
「殺し合いが頻発する世界観だから、そういうペナルティはないな」
「ならば殺した味方を起こしておこう。次は4人でボス戦に突入か……」
ステラーウォーカーが手番の終了を宣言すると、ギャロップがテーブルの中央に積まれた山札から一枚をめくる。
「先に俺の5ターン目か……セージも出ないし、これといった事件もない。自分の強迫が判明していないが、まあ何とかなるだろ」
ギャロップは戦闘用のサイコロを放り投げ、5ターン目を開始した。
「出目も悪くない。ここで食らいすぎると10ターン目のボス戦で手こずるというね」
「……なんか、流れで仲間にしたエルフの射手がめちゃくちゃクリティカル出してない?」
「強くはないけどダイスの調子がいいキャラ、継続させるか扱いに困るなー」
ダイスの都合でデュラハンが弓でボコボコにされて、ギャロップの手順は終了した。
「よし、私のPTの力を……初めて見るカードを引いたな」
「それは共闘強制カードだ。また射手が活躍したら、本腰を入れて鍛えてみるか……」
ギャロップが無造作に二つのダイスを振る。一つ目のサイコロは1。
「もう一つも……1。射手は駄目だったらしい」
「確率が収束したな……」
二つのサイコロが最低値だったので、ギャロップは追加でサイコロを投げる。大失敗を引き当てたので、どのような失敗かを選定するダイスロール。いわば失敗表である。
「場にいるキャラの強迫を踏む。場にいるキャラ……」
二人の視線がステラーウォーカーのキャラに集中する。
「共闘のつもりが三つ巴になったか」
「唐突に終わりを迎える、これがカースアンドオブセッション!」
――ステラーウォーカーとギャロップが死闘を繰り広げている横で、セシアンが飲み物を持って顔を出した。
「今どんな感じなんです?」
「ギャロップのヒーラーと射手が星になった。こっちは毒の置き土産でこれから全壊だ……」
「毒で全快……ああ」
「なんとかこちらの勝ちか……? 回復役もいないから、この場所で放置確定だが……」
「ちょっと待て、ここに滞在して何ターン目だ?」
「決戦の前ターンも移動してないから、これで3ターン……まさか!?」
「放浪のギアス持ちだったから、私も貴様もここで終わりだ……」
相手の呪いと強迫は、本人以外のプレイヤーが確認して宣告する。ギャロップのキャラクターの強迫は、一つの場所に滞在出来ないという内容だった。
「移動できなければ死……これもまた定めか……」
「どっちが勝ったんです?」
「引き分けだ。ボスは蹴散らしたが、そのまますべての命が散った」
ギャロップは、場のカードを集めてシャッフルする。
「決着つくまで、って訳じゃないよな……? 中々悪くない戦いだった」
「そこまで勝敗にこだわる理由もない。元々、俺の役目はステラーウォーカー殿にステーションの気持ちを贈与するだけだからな」
テーブルを跨いで、ギャロップからステラーウォーカーにワインが手渡される。
「ステーションっていうのは血の気が多いことがよく分かったよ。ありがたく頂いておくがね」
「兄貴、普通に渡せって言ったはずだけど?」
ふと、背後から少女の声が聞こえる。
「シャンテル……普通に渡すっていうのは、自身の立場を打ち明け、挨拶をして、贈り物を手渡すということだ」
「手渡すことしか出来てなさそうだったけど!」
「確かにワインをダシに使った節は否めない。申し訳なかった」
「謝罪するほどのことかと言われれば微妙だが、シャンテルもなかなか大変なようだな」
「まあ、手土産も増えたところで滞在者用の区画まで案内しよう。さっき顔を出した女の子は……」
セシアンを探していたギャロップが口をつぐむ。彼の視線の先には、倒れそうなくらい積まれたチップに囲まれたセシアンの姿があった。
「我々が一回対決する間に何があったんだ!?」
「一般のお客さんに開放する前に、魔法のイカサマ対策をした方が良いと思います……」
ディーラーを務めるロボットに、何度目かも分からないエースの4カードをぶつけてセシアンが呟く。
「助言感謝する。今日は何というか……収穫の多い日になったよ」